第145話 どエルフさんとペロリ

 男戦士を引き連れて、馴染みの本屋へとやって来た女エルフ。

 古今東西、大陸中で発行された魔導書やら技術書やらを取りそろえたその店に、女エルフは小金を手に入れるとよく足を運んでいた。


「今日は、どんな官能小説を買うんだ、モーラさん!!」


「違うわよ!!」


「あっ、すまない――ちょっとエッチな恋愛小説を買うんだ、モーラさん!!」


「言い直さなくていいわよ!! ていうか、違うから、そういうの買いに来たんじゃないから、今日は!!」


 なんだ違うのか、と、なぜか少し残念そうな顔をする男戦士。

 顔を真っ赤にして否定すると女エルフはそそくさと、本屋の奥へと入っていく。そこにずらりと並んでいるのは――毒薬に関する専門書だ。


「毒薬?」


「そうよ。ほら、前の冒険で、アンタ、一回に死にかけたでしょう」


「――あぁ」


「またそんなことになったら困るから、ちょっと知識をつけようと思って。応急処置はあれで間違ってなかったけれど、世のなかにはどんな毒があるか分からないからね」


 そう言って、手近にある書物を手に取ると、女エルフはすぐさまそれに読みふけりはじめた。

 女エルフと違って、文字と単語は必要最低限――最低限の意思疎通ができるレベルしか覚えていない男戦士である。

 せっかく一緒に読む本を選ぼうと思ったのに、と、愚痴をこぼしながら、彼はあてどなく視線を本屋の棚へと彷徨わせた。


 読みふけること、数秒。

 いやに隣の男戦士が静かなことに、女エルフは嫌な予感がして横を向いた。


「――なんだと!!」


 本棚の上の方を見上げて青い顔をする男戦士。

 いつもの、女エルフを弄って遊ぶときに、見せるあの表情である。


 はい、これはまた、どうせ、ろくでもないことを考えているにちがいないな、と、彼女がその視線の先を追えば、なるほどそこにはあった。


「そんな、『決定版、これがチン○に効く毒薬!! 用法・用量を守って楽しい絶倫ライフを!!』だと……」


「はい、また、いらんものを見つける。どうしてお前は、そういうのだけ、見つけるし読めるの。バカなの、アホなの。頭の中まで海綿体でできてるの」


「そういえば前に毒を喰らった時に――」


 はっ、と、何かに思い至った顔をする男戦士。

 そしてその表情はそのまま隣に立っている女エルフへと向けられる。


 まさか、そんな、と、信じられないとばかりに顔を青ざめさせて男戦士は肩を震わせる。まぁ、ろくでもないことを考えているのはこれまでの付き合いですぐに分かったが、あえて女エルフは男戦士に尋ねた。


「ティト、一応聞くわね、何がどう流石なのかしら?」


「毒薬を制すものは性欲をも制す。毒薬さえも使いこなして、さらなる快楽を得ようとは――流石だなどエルフさん、さすがだ!!」


「だからぁっ!! あんたのタメを思ってやってあげてんのに、なんでそうなるのよ!!」


!? なな、なにを溜めようというんだい、人の身体に!?」


「なんでそうアンタの耳はなんでもかんでも、都合よくエロく聞こえるようにできてんのよ――この変態戦士ぃっ!!」

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