第12話 どエルフさんと神の愛

「あらためてまして、私は女修道士シスターコーネリア」

「コーネリアさん。はじめまして、俺は冒険者のティト。こっちは相棒のモーラさんだ」

「よろしく、コーネリア」


 戦士とエルフの握手を手馴れた感じで受ける女修道士。

 彼女は握手を終えると、ふふ、と、優しく微笑んだ。


 それはまさしく、慈母のような優しき微笑み。

 女修道士の肩書きに違わぬ――神の愛を伝教するという使命をその身に帯びて、爛々と生命を輝かせているように、二人の目には映った。


 もちろん、周りには、そんな彼女に尻を無茶苦茶にされて、恥死はずかししたオークの死屍累々。

 それはあったが、考えないことに、見えないことに二人はした。


「貴方がオークにさらわれたと聞いて、私たちは助けに来たのだけれど」

「それは大きな勘違いです。私は、神の愛を伝えるため活動している者。そして神の愛を伝えるのは人間ヒューマンたちだけではない」

「じゃあ、わざとオークに捕まったの?」


 無謀な、と、女エルフが眉をしかめた。


「モンスターに人間の説法なんて無意味だわ」


「そんなことはありません」


 女修道士は諭すようにエルフ娘に言う。


「どんな生き物も、この世に生を受けたからには、神の赦しを得てこの世に顕現している――つまるところ、この世に生きとし生けるものは、すべて神の子なのです」

「たいそうなお話ね」

「なるほど。貴方の博愛主義は実に立派だ」

「心を失い鬼畜に堕ちた人の子ですら、神の愛は救うのです。ならば、もとより心のないモンスターをも救おうというもの」


 で、具体的にはどうやって。

 意地悪な顔をしてエルフ娘が言う。

 端から、そんなことができるとは信じていないという様子である。


 そんな彼女にむっと顔をしかめるかと思いきや、しいたけのような眼を見開いて、女修道士は言った。


「人の子もモンスターも、この世に生を受けたとき、穴を通って産まれてきます。その時、神の心はその母へと通じ、神の御心と祝福を子に捧げるのです」

「ふむ、つまり。出産する母の気持ちになれということか」


 なるほど合点がいった、と、頷く戦士。

 といのも、彼は先ほど目の前の女修道士が、モンスターの穴に何を突っ込んで、それをしていた光景を眼にしていたからだ。


 あれは、変態的な行為に及んでいたわけではなく、彼女なりの布教だったのだ。


「しかし、いささか誤解を産みかねんやり方ではないか」

「人類みな。きっと私の真心を、理解していただける日が来ることでしょう」


 むぅ、と、顔をしかめたティト。

 どう思うと、意見を求めたその先で――エルフ娘は、きょとりとした顔をしていた。


「え、ちょっと、待って? よく話が分からないのだけれど?」

「あぁ、そうだったな、君はあの光景を――」


「赤ちゃんって、キャベツ畑から生まれてくるんじゃないの!?」


 戦士と女修道士の顔が引きつる。

 信じられない、と、ばかりに。

 そんな彼らの表情にエルフの顔もまた、信じられない、と、引きつった。


「えっ? えっ、えっ!? 違うの!? 私はそう教わったんだけれど?」


「そんなまさか。今までこれだけドスケベな発言をくり広げておいて、その行為の先に待つものがなんであるかを、理解していなかっただと?」

「なんということでしょう。快楽はあくまで副産物、本当の目的は別にあるというのに、それを知らぬまま――いや知らぬからこそ、ここまでのドスケベになれた」


「ちょっと赤ちゃんとドスケベは関係ないでしょう!?」


 関係あるよ、と、叫びたかったが、おぼこビッチエルフの発言に、二人は完全にそんな気分ではなくなっていた。


「生の意味を知らずとも、性の喜びは知っている。流石ですわねどエルフさん、さすがですわ」

「ちょっと、なによ貴方、初対面なのに失礼ね」

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