451 グイン・サーガ・ワールド 8

2013.06/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 無


【評】 ―


● コンテスト応募総数14作ェ……


 遺稿および他作家による外伝・続編計画のシリーズ全八巻の最終巻。

 以後、他作家に本編および外伝が引き継がれる。

『パロの暗黒』第三回(著:五代ゆう)

『サイロンの挽歌』第三回(著:宵野ゆめ)

 それぞれ後にまとめられグイン・サーガ正篇の131巻、132巻となったもの。

 よってここでは感想は述べず、いずれそれぞれの巻の感想を書くことがあればそこに回すことにする。


『グイン・サーガ・トリビュート・コンテスト発表』

 第二期がはじまってから応募していた、トリビュート作品一般公募の結果発表。

 全投稿作品にしっかりとした選評がついているが、正直、応募総数14作というところに切なさを感じる。14作て……。当時、自分もネタはあるから応募しようかと思ってたけど時間がなくて書けなかったんだよな……。

 優秀作品に選ばれた以下ニ作が掲載されている。


 『アムブラの休日』(著:円城寺忍)

 アルドロス三世在位20年を祝う祭りの日、アムブラを歩いていた若き日のヴァレリウスは、お忍びであらわれた他国のお嬢様と祭りをまわることになり……。

 タイトルの通り、『ローマの休日』グイン・サーガ版といったおもむきの作品。

 文体は後年の栗本薫を限りなく近い言葉使いで、ストーリーは栗本薫の初期短編『公園通り探偵団』や『新宿バック・ストリート』を思わせる、非常に栗本薫愛に満ちた一作。ペンネームも『魔界水滸伝』の登場人物である円城寺遥と相模忍の合成だろう。

 本編の合間に存在していたかもしれない小さなエピソードとして整合性がとれており、本編の悲劇性をいや増させる見事なストーリーの短篇である。

 が、どうも文章にしろ構成にしろ切れ味が悪く、初期短編を思わせてしまうがゆえに「あの頃の栗本薫ならもっとセンチメンタルに書いた」「もっと切なく書いた」と思ってしまい、簡潔に言うと「ストーリーは良いのに面白くはない作品」である。

 

 『ヤーンの紡ぐ光と闇』(青峰輝楽)

 狂気に陥ったシルヴィアが黒蓮の粉で「あり得たかもしれない幸福な世界」を幻視する話。

 マライア皇后が若くして死にマリウスは出奔せず黒竜戦役が起こらなかった場合の世界を描いているのは面白いのだが、はじめから幻であるというネタバレがされているのとページ数が短いのとで、いかにも物足りない。もっとしっかりとあり得たかもしれない幸福をしっかりと描いた上で、それが幻覚に過ぎないということを読者に突きつけて、運命の残酷さを感じさせるべきだろう。


 どちらの作品も良いアイデアではあるし文章もまずくはないのだが、ストーリーテリングにおいていかにも素人臭い作に留まっている。

 なお、円城寺忍氏はこの後、ヴァルーサを主人公とした長編を執筆し、そはれ『グイン・サーガ外伝26 黄金の盾』として出版されている。


『現実の軛、夢への飛翔 ―栗本薫/中島梓論序説―』最終回(著:八巻大樹)

 基本的に終始、それぞれの作品での栗本薫と中島梓の名義わけの理由に腐心した評論であり、そのデータ収集に関しては感嘆すべきものがあるが、根本的にその論の正否以前の問題として「で、名義分けの理由がわかったところでそれがどうしたの?」と思わざるを得ない。

 この評論には著者自身が栗本薫になにを見、感じたか、というものがない。ゆえに面白くない。もっともらしいがただそれだけの文章である。

 また名義の話にしても、二つの名義の後ろに隠れた純代ちゃんそのものに関して言及していないので、まったく深みを感じない。なぜ彼女がプライベートですら梓と呼ばれることを望み、役所や病院で本名を呼ばれることすら苦痛に思っていたのか。そこに踏み込まないで名義について語ってもなにも面白くない。

 かつて中島梓自身が、ファンや当人が踏み入ってほしくない本質にずけずけと踏み入り喝破したように、栗本薫/中島梓を論じるのなら彼女が拒みながら作品に漏れ出させていた現実の純代ちゃんのSOSを読み取るよりないではないか。



『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女 ―中島梓という奥さんとの日々―』第二部最終回(著:今岡清)

 栗本薫の作品に持っていた様々な歪さの理由やなぜ彼女が晩年ああなってしまったかについて、自分はわかっていると思うが、自分自身や身の回りの人間について触れなくていけないし、客観視できないので語れません、という、要するに「自分のことは暴露したくないのでやっぱ云わない」という宣言で連載のオチである。だったらはじめから余計なこと云うな。

 矢代俊一シリーズだけは精神的なトラウマで読めなかったけど死んだいまでは楽しく読める、というのも、晩年の(というか96年辺りからずっと)ホモ小説に強烈な欲求不満をしか読み取れない自分としては、旦那は「抱け~抱け~」と云われているみたいで辛かったのかな、としか思えない。

 総じて「故人が伏せていたことを世に出そうというなら、いい人ぶるのはやめろ」というのがこの連載エッセイへの感想である。撃たれる覚悟がないなら戦場に出てくるな、だ。



『スペードの女王』

 病没のため未完に終わった伊集院大介シリーズの長編。

 占い師・霊能力者100人を集めたオカルト番組に出演した伊集院大介。翌日、大介の事務所に入れ代わり立ち代わり番組の関係者があらわれ、一方的に自分の事情を話していく。そうしているうちに、もっとも有名な霊能力者の死体が発見され……というところで中絶。

 細木数子を思わせるような女王然とした霊能力者や、商売として胡散臭いキャラを作っているが実際は普通の好青年な霊能力者、卑屈な被害者ぶっていざ話しだすと一歩もひかない面倒くさい夫人や、全然会話にならないテレビプロデューサーなど、濃いキャラクターが多く、それらが入れ替わり立ち代わりあれわれ一方的に話していくが、全員が全員なにか隠している事柄があり、いまいち全貌がわからない、というどこか舞台劇を思わせるような展開の仕方は、一方的なお喋りばっかりで進む栗本薫作品の欠点を長所に転換させる面白い仕掛けになっている。

 登場人物もみな怪しく、序盤で未解決事件という謎も示され、中盤には殺人事件が起き――とミステリーとしての引きも悪くない。

 畢竟の大作、瞠目すべき斬新な作品とは呼べないが、『真・天狼星』以降の伊集院シリーズではまともなのは『青の時代』と『女郎蜘蛛』だけという定説(いや、ぼくが云っているだけですが)のなかにあって、本作は少なくともこのニ作と同列、オチ次第では後期伊集院の代表作となっていた作品かもしれないと思わせるものがある。

 ただ、wikipediaの記事をわざわざプリントアウトしてもらって読んでいる大介の無能中年っぷりは半端ないですね……。パソ通時代からネットに興味もっててそれはどうなの大介さん……。



 この8でグイン・サーガ・ワールドシリーズは終了。

 以後は本編と外伝が文庫書き下ろしで続いていくことになる。

 シリーズの感想としては「小説以外いらなかったよね?」「遺稿とはいえ伊集院シリーズを載せていたのは無理がない?」であり、いまいち無理のあるシリーズ展開だったな、という印象である。まあ続編を誰にやらせるのか、採算が取れるのかをはかるために出版されたものだったんだろうけど、せめてペーパーバックじゃなくて普通のハヤカワ文庫にしてもらえなかったものですかね……

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