447 グイン・サーガ・ワールド 6

2012.12/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 無

【評】 ―


● きれいな気持ちのファンにおすすめ


 栗本薫逝去後にグイン・サーガ続編プロジェクトとしてスタートしたシリーズの六巻目。

『パロの暗黒』第二回(著:五代ゆう)

『サイロンの挽歌』第二回(著:宵野ゆめ)

 それぞれ後にまとめられグイン・サーガ正篇の131巻、132巻となったもの。

 よってここでは感想は述べず、いずれそれぞれの巻の感想を書くことがあればそこに回すことにする。


『草原の風』(著:ひかわ玲子)

 グイン・サーガ・トリビュート作品る

 栗本薫の死後、SF大会に参加した四十代の香子が、真夜中、謎の少女に導かれるようにして会場に迷い込み、加藤直之がライブペインティングしたグインの絵が動き出し、ともに草原にワープしてしまう話。

 自らの創り出したキャラクターにかしずかれながら星船に乗って彼方へと去ってくいく栗本薫を夢に見る、という、栗本薫に憧れてファンタジー作家になった人間からの、最上の経緯と愛を感じる一作である。

 が、これを素直に受け止めるには、彼女とその作品に対する愛憎がありすぎて自分には難しい。グイン・サーガは決して素晴らしい夢と彼方へのロマンを与えてくれた名作などではなかった。それは欲と希望と逃避と若さと老醜を交えた、素敵ではない物語であった。美しい天才少女が紡ぐ異世界の物語ではなく、不満げな凡人の必死の営為でしかなかった。――が、だからこそグイン・サーガは、彼女の物語は自分に必要だったのだと今では思っている。

 ともあれ、作品としては長年のファンの等身大の気持ちが描かれた素晴らしい出来であり、きれいな気持ちで栗本薫を見送れる人にとっては最高のオマージュ作品だろう。


『現実の軛、夢への飛翔 ―栗本薫/中島梓論序説―』第二回(著:八巻大樹)

 栗本薫が男性人格、中島梓が女性人格であるという前回から話をつなげ、『文学の輪郭』とその文庫版で追記された『ロマン革命序説』、さらに『文学の輪郭』直後に栗本名義で書かれた『夢見る権利 探偵小説の精神』を引き合いに出し、すでに『文学の輪郭』

の時点で二つの名義の目指す方向性の違いは確固としてあり、それはイデア志向か現実志向かである、という論を展開している。

 そこから『悪魔のようなあいつ』の二次創作が開始地点であった『旧・真夜中の天使』が『翼あるもの』『真夜中の天使』を通じて

森茉莉の真似事から彼女自身の物語へと変わり、小説家としての基盤となっていったという説。

 前回の「え、いまさらそれいうの?」から、ようやく評論らしく踏み込んできており、自分が読んだことのない未単行本化の論を参照していることもあって、なかなか読み応えがあるものになっている。


『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女 ―中島梓という奥さんとの日々―』第二部/第二回(著:今岡清)

 日々の会話で「土壌」という単語が出てくると「ドジョウが出できてコンニチワ」、「中目黒」という単語が出てきたら「アラマタマッチャンキャーメグロ!」と前後の脈絡なく云わずにはいられない梓、というはたから聞く分には「ちょっとうざいなそれ」と思いつつも微笑ましい夫婦の話がほとんどなので、特に云うことはない。

 なお「アラマタマッチャンキャーメグロ」という言葉はどこかで聞いたのを覚えていただけで梓自身にもなんなのかわからなかったとのことだが、いまグーグル先生に訊いてみたところ、江利チエミ『おてもやん』という歌であり、正しくは「川端町っちゃんきゃぁめぐろ」であることが判明しました。

 あ、あと小説家デビュー前の梓に評論仕事頼んでいたころ、彼女の家に長居して一緒に『悪魔のようなあいつ』を観たと書いてあるけど、『悪魔のようなあいつ』の放映って1975年6月から9月で、梓が商業誌デビューするより一年くらい前だからさすがにそれは記憶違いだと思いますよ……ずっと再放送されなかったことでも有名なドラマだから再放送なわけもないしね……。というか旦那が最初に梓に依頼してS-Fマガジンに掲載されたという『梓のおしゃべり評論』、上記の栗本薫/中島梓論で表にされている初期評論・エッセイの一覧にないけど掲載されたのさ……。まあ40年近く前のことだから曖昧でも仕方ないけどさ……。


『スペードの女王』

 2008年に出版予定だったが書き上げられずに中絶となった伊集院大介シリーズの長編。

 この『グイン・サーガ・ワールド』最終巻まで分割して連載されているため、感想は最終巻にまとめます。

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