440 グイン・サーガ・ワールド 3

2011.11/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 無

【評】 ―


● 純代ちゃんに萌えた自分に動揺


 没後に刊行された、栗本薫の遺稿の発表と他作家による外伝・続編を掲載したシリーズ。全八巻の三巻目。

 当ブログでは原則栗本薫に直接関わるものについてのみ言及する。

『スペードの女王』

 2008年に出版予定だったが書き上げられずに中絶となった伊集院大介シリーズの長編。

 この『グイン・サーガ・ワールド』最終巻まで分割して連載されているため、感想は最終巻にまとめます。


『手間のかかる姫君』

 八十年代前半に書かれたであろうという、『グイン・サーガ』世界を舞台とした作品。

 夢を見た飛び出したヴァラキアの若者が旅路で姫一行に出会い……というコメディ調の小説だが、10ページちょっと書いた時点で中絶となっている。中絶となった理由もなんとなくわかる。グイン・サーガの世界観でコメディをやるのにどういう文体でやればいいのかわからなかったんだろう。お調子者の若者の一人称となっているが、同時期に書かれていた現代ものやSFのコメディ一人称と比べ、世界観を守ろうとしている分だけ笑いにつながりづらく、正直あんまり面白いとは言い難い。

 結局、こうしたファンタジーものでのコメディは小説では書かなかったので、薫がファンタジーに求めているものとコメディに求めているものの噛み合わせが悪かったのだろう。ファンタジーでコメディができないというのは、九十年代以降のラノベブームに栗本薫が乗れなかった一因でもあるだろう。『エーリアン殺人事件』そのまんまのノリでメチヤクチャやっちゃえばよかったのに……。


『日記より』

 遺稿二作にこれまでよりページ数を取ったからか、今回は日記はかなり短めで、大学生時代の74年1月のものが2日分だけ。

 自分用ホモ小説ばっかり書いていることに対して「IQ152の大天才がそれではいかん」と自分を鼓舞したり、一年前の自分の日記を見て上から目線でアドバイスを送ったり、一人称が「俺」であったりと、面倒くさい芸術系女子大生そのもので、正直ちょっと萌えた。

 ていうか『美少年学入門』読み直したときにも思ったけど、自分でも意外だったんだが、わい、七十年代の純代ちゃんは多分異性として結構タイプだわ……おじさん、若い頃からこういう自分の性に馴染めない芸術系女子に弱いんよ……まあ純代ちゃんもそうだけど、この手のタイプって依存心強いからまず男切れしないんだけどね……。


『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女 ―中島梓という奥さんとの日々―第三回』(著:今岡清)

 今回は中島梓がいかにして舞台に深入りし借金をこしらえていったかの実情の話。

 梓が関わってほしくなさそうだから名義上の社長に留まり経営や人事に関してノータッチでいたら、大借金を抱えてどうにもならない状態で社長業をやる羽目になったなど、旦那に対して正直懐疑的な気持ちの強い自分ですらなかなか同情したくなる内実である。そして経営的・世評的には舞台が失敗であったことを認めつつ、中島梓には芝居という居場所が必要であり、莫大な犠牲は払ったが個人的には素晴らしい成果を残したと思うという言は、連載三回目にしてはじめて良いことを云っていると思った。



 その他は前巻に続きグイン・サーガ外伝『星降る草原』(著:久美沙織)『リアード武侠傳奇・伝』(著:牧野修)『宿命の宝冠』(著:宵野ゆめ)の連載第三回目が掲載されている。

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