232 グイン・サーガ外伝10 幽霊島の戦士
1997.06/ハヤカワ文庫
<電子書籍> 有
【評】うな
● 主人公、本篇出演やめるってよ
さらわれたケイロニア皇女シルヴィアを助けるため、豹頭将軍グインは単身、辺境への旅に出る。向かうはゾルーディア。かつての放浪時代、マリウスやイシュトヴァーンと訪れた<死の都>は、恐るべき変貌を遂げていた――
『黄昏の国の戦士』シリーズ第一巻。
「主人公がヒロイン助けに行く話がなんで本篇じゃないんだよ」と総ツッコミを受ける疑惑のシリーズ『黄昏の国の戦士』の開幕である。
「舞台である中原を離れるから」云々と理由は語られているが、おかげで十数巻の間、本篇から主人公が消滅するという事態になってしまった。しかも基本的に単発エピソードとして楽しめるように作られていた外伝なのに、このシリーズは本篇読んでないとまったくわからないわ、本篇の読者も外伝を読まないといけなくなるわ、後から入ってきた読者はどのタイミングで外伝を読めばいいかわからないわで、散々である。どうも栗本薫は読者を「全作品を」「刊行順に」買っていることを前提に考えている気配が節々にあって、いかがなものかと思う。
が、個人的には主人公が本篇から姿を消す、というこのトリッキーな展開はわりと好きだ。グインが本篇に帰ってきた時になんか感動したしね。
ともあれ、そんなわけで外伝の中ではなかなかハードルの高いシリーズである。はじめに本篇のあらすじが15ページにわたって書かれているくらいだ。が、実はいうとそれだけでも足りず、『外伝2 イリスの石』の続きなのでそちらの内容も思い出す必要がある。さらに冒頭で唐突に後々まで猛威をふるうチート武器「スナフキンの魔剣」がさらっと手に入るが、これは『外伝4 氷雪の女王』『白魔の谷―氷雪の女王再び―』で行ったことに対する報酬である。
正直、今作を初めて読んだ時はそんなことはすっかり忘れていたので、この雷神シドのような強制加入インチキ武器があまりにもさらっと手に入ったことに混乱すらしていた。
さておき、本作の内容について。
基本的には『イリスの石』に準じたようなダーク・ファンタジーのノリで、呪われた都市を訪れてグルッと回りボスを倒して脱出する、というオーソドックスなもの。ゲームの『ダークソウル』で「幽霊島(ドゥーン)」って登場しそうなダンジョンである。
この時期の栗本薫なので、過去の外伝に比べると文章が冗長で、臨場感に欠ける会話での説明が多いのは残念だが、シルヴィアの調教シーンや、不気味なボスキャラとの対決という、盛り上がりどころもちゃんと抑えているので、わりと無難な楽しめる作りだ。ラストには仲間が増えているしね。シリーズ開幕編としては手堅い作り。
ただ都市ごと幽霊になってしまったというゾルーディアの描写は『イリスの石』に比べていまいち面白みに欠ける印象。これは単に文章が冗長だからだと思う。
そのせいか、初読時から「具体的にどう違うとは云えないけど昔の外伝に比べるといまいちだな……」という印象を持ってしまった。いまならわかるが違いは文章力、その一点である。
なので、この時期の栗本薫の文章に思うところがないなら、過去の外伝同様に楽しめるのではなかろうか。
ちなみに栗本薫は同時期に『町』という、やはり町そのものが幽霊になる現代ホラー小説も書いている。
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