194 真夜中の切り裂きジャック

1995.01/出版芸術社

1997.04/ハルキ文庫


【評】うな


● なんとなくあぶれた作品群がなんとなく集結!


 あちらこちらの雑誌に発表した短編から「死」の臭いがある作品が集まっている云々とあとがきでいっているが、要はいろんなところで書き散らしたもののなんとなくあぶれて単行本収録されずにいた作品を集めて一冊にしたもの。

『真夜中の切り裂きジャック』『羽根の折れた天使』『クラスメート』『獅子』『白鷺』『十六夜』『<新日本久戸留綺譚>猫目石』以上七編収録。


『真夜中の切り裂きジャック』

 僕の恋人は連続殺人犯かもしれないって感じでDokiDokiが止まらない? みたいな作品。

 雰囲気は悪くないが本当にもうそれだけの作品でオチも糞もない。

 でも、雰囲気小説としてはけっこう好きです。


『羽根の折れた天使』

 なんか自分の息子があんまり可愛くないなあ、とか思っていたら!

 タイトルと設定で出オチしている感があり、わりとどうでもいい。

 タイトルが一昔前のケータイ小説のようでほっこりする(しない)。


『クラスメート』

 四十代の主婦が、久しぶりの同窓会に出たら、よく覚えていない同級生に絡まれて……。

設定も文章も栗本薫らしい、気持ち悪い人物にじわじわと追い詰められるホラーで悪くないんだが、オチのあたりでよくわからん論理の飛躍があって置いていかれるのが難。まあ、そんなところも栗本薫のホラーのお約束ではありますけどね!


『獅子』

『白鷺』

『十六夜』

 全部芸道小説でストーリーも似たり寄ったり。

 芸に打ち込むがゆえにほかのことがわがままな子供のままの天才、というのは自称「あどけない童女」である栗本先生が大好きな設定だが、どうも本人の憧れで書いているだけのせいか、あまり描写がうまいとも思えない。

 三篇の中では『獅子』がわかりやすくて好きかな。


『<新日本久戸留綺譚>猫目石』

 私、作家の栗本薫は、奇妙な友人の印南薫から、とある宝石の由来を聞くのだが――

 初出は八七年七月のSFマガジン増刊だが、執筆はデビュー前であり、いわば習作のお蔵出し作品。栗本薫には非常によくあることである。

 内容的には『魔境遊撃隊』のプロトタイプのようなもので、印南薫という美少年キャラが出るのも共通している。ついでにタイトルは薫クンVS伊集院大介の長編ミステリ『猫目石』に流用されている。

 千夜一夜物語風の、大陸情緒あふれるロマンホラー~邪神もあるでよ~という話だが、短編なのにいろいろ詰めこんで、そしてそのいちいちがわりとすべっており、率直に云って失敗している。十年近く隠匿され、さらに単行本収録に数年かかっていることからもその失敗ぶりが窺える。まあ習作なので仕方あるまい。

 それにしても印南薫というキャラ、習作から使いまわすほど気に入っていたのであろうか? 自分のペンネームと好きなマンガのキャラの名前を混ぜた美少年というのは、空欄に自分の名前を入れることのできる夢小説に匹敵する恥ずかしさを感じてしまうのだが、これはぼくがおっさんになったからなのだろうか?(ヒント:初読時の高校生のころも恥ずかしかった)



 基本的に、あぶれてしまった短編をかき集めて一冊分にした短編集なわけだが、あぶれてしまうものにはあぶれてしまう理由があるというもので、やっぱりクオリティはそれなりと云ったところです。でも文章が若い頃の薫のそれなので嫌いではないです。

 個人的な気持ちとしては、95年時点での単行本未収録作品はほかにもいくつかあったので、そちらも収録して欲しかった。中途半端な仕事っぷりイクナイ!

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