096 天狼星
1986.07/講談社
1989.07/講談社文庫
【評】うな
● どうしてもやりたかった名探偵対怪人
突如として起こったモデル連続殺人事件。美貌のモデル・田宮怜の依頼により事件の解明に乗り出した伊集院大介は、事件の陰におそるべき怪人の気配を感じ取るのであった……
伊集院大介、宿命のライバルであるシリウス君に出会うの巻。
まあ、問題作ですね。
伊集院大介ってさ、あからさまに金田一耕助のオマージュというか、かれの後嗣として設定されたようなキャラでして。のっぽでガリガリで不潔でぼんやりしていて頼りなくて、でもどこまでも優しくて頭は切れるという、そういう親しみのあるキャラだったわけじゃないですか。そこが良かったわけじゃないですか。
だれですか? この天狼星シリーズに出てくる、空手の達人で正義感に燃えてて眼鏡をとると美青年のこの人は。こんなのぼくらの愛した伊集院大介じゃないやい!
だってさあ、栗本センセーよー、伊集院大介ってさー、さだまさしみたいな容姿なんじゃなかったの? さだまさしはいくら眼鏡をとってもさだでまさしですよ? なんで美青年になるかなあ。
まあ、栗本先生の気持ちもわかる。
伊集院大介というキャラは、先生の「名探偵を作りたい」という願望から生まれたようなものだし、であるからには、金田一耕助のように冴えない男もやりたいし、明智小五郎のように颯爽と少年探偵団を率いて怪人と対決したりもしたいわけですよね?
わかるけど、一人のキャラに両方やらせるなよ……
たしかに明智小五郎自体も、初登場の作品では、怠惰な「最後の高等遊民」だったわけで、大乱歩がそんなことやったんだから、栗本先生がそれをやっていけないなんて話があるわけな……いや、あるな!
こんなことをしちゃったせいで、伊集院大介シリーズは出しにくくなっちゃったのもまずいよね。
この天狼星シリーズの時期に、代わりにもっと短い作品を重ねていれば、伊集院大介というキャラはもっとたしかなものになったし、栗本先生ももうちょっとはミステリー界に居場所があったと思うんですけどねえ。
そういうシリーズ中の立ち位置はともかくとして。
単品としてこの作品を見るなら、そこそこ面白い。
やたら肩に力の入った章タイトルや、文章、死体描写、もう「怪人耽美だったらおれしかねえ!」という薫の咆哮が聞こえてくるようで、芳醇な香りです。でも、肝心の怪人シリウス、嫌いじゃないんだけど、ちょっと薄いかもな、ベタで。
この一冊でとりあえずの解決はするものの、ちっとも犯人は捕まっていないので、この後もⅡ、Ⅲと読まなきゃいけないのがだるいといえばだるい。ただ、後の項にゆずるが、シリーズ完結作のⅢは名作なので、そこにたどりつくために読むことはおすすめしたい。
あと、天野画伯の表紙に助けられすぎている。この表紙はずるい。
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