第56話 黄緑

グルグルと俺とA子の回転は止まらない。

宇宙空間では一度回転した物は自然には止まらない。

テラフォーミング予定の惑星Tの黄緑色の地表が見えた。

宇宙空間の黒と惑星Tの黄緑がグルグルと切り替わる。

ヘルメットの中の計測器で高度が落ちているのが分かった。


その間にA子がこちらにテザーで引っ張られて接近した。

俺はA子と再び衝突した時に短いワイヤーで彼女をフックした。

このワイヤーは作業中に工具など小物を体に付けておくためのものだ。

これで俺とA子の距離は50センチ程度に固定できる。

腰や胸のワイヤーで数ヵ所、固定した。

するとA子は俺の胴体に両足を巻き付けてコアラにようにつかまった。


俺「紫さん、こちら機長、緊急事態、応答しろ。」


俺「こちら機長、ゼラニウムから離れて落ちている。紫さん、応答しろ。」


何度か呼びかけたが無線は反応しなかった。

自力で高度を維持しなければ惑星Tに落下してしまう。

この惑星Tはテラフォーミングの結果、地球のような大気圏が出来ている。

その大気圏に宇宙服で突入するのは無理だ。

いかに耐爆性能があっても高温になった宇宙服はバラバラになってしまう。

生身の体もその高温には耐えられない。

もし地表まで無傷で到達しても激突の結果、重傷はまぬがれない。

医療施設も無い荒野に重症者二名が取り残されることになる。

まずグルグル回転する体を止めなくては。

炭酸ガスのスプレーが一本残っている。

これを回転と逆方向に噴いて体を安定させよう。


俺は残り一本のスプレーを回転と逆に噴いた。

音も無く炭酸ガスが噴き出した。

何度か小出しに噴くと体の回転は収まった。

ある程度安定したので次に落下を防ぐために下側つまり惑星方向へ噴いた。

最後の炭酸ガスが切れた。

ヘルメット内の計器を読むと落下は止まっていた。

ひとまず安心してゼラニウムの位置を探した。

これからなんとか上昇してゼラニウムまで戻らなくては。

炭酸ガスのスプレーが切れたため戻る方法は分からない。


そう考えた瞬間、A子が二人をつなぐワイヤーを外そうと手を伸ばした。





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