第七話 聡史の人生初ハーレム日和

ついにやって来た日曜日の朝、八時頃。

 鶸松寮の玄関チャイムが鳴らされ、

「おっはよう! ワタシ達も誘ってくれてありがとね」

「おはようございます」

 杏子と果帆が訪れて来た。

「聡史兄さん、先日は大変無礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

 杏子は聡史のそばへ駆け寄るなり、大きな声で謝罪し深々と頭を下げた。

「いや、そっ、そのことは、もう、いいから」

 聡史はとても気まずそうにする。

「杏子さん、その話はもうしちゃダメッ!」

 モニカは杏子の髪の毛をぎゅーっと強く引っ張った。

「いったたたぁ、ごめん、ごめん」

 杏子はちょっぴり目に涙を浮かばせる。

 ともあれみんなは、それからほどなく鶸松寮を出発した。

茉希は抹茶色地白の水玉サマーニットに桜色キュロットスカート。

詩織は水色のサロペット。

モニカはココア色のサマーニットにグレーのホットパンツ。

果帆は白の夏用カーディガンに黄色のプリーツスカート。

杏子はベージュの夏用ワンピース。

聡史はデニムのジーパンに黒の夏用セーターという組み合わせ。  

みんなそれほど派手ではない普段着で、最寄り阪急駅へと向かって歩いていく。

今日の天気は晴れ。少し蒸し暑いものの、絶好の行楽日和となった。

          ☆

 阪急電鉄と路線バスを乗り継いで、鶸松寮を出発してから一時間以上かけてようやく辿り着いたお目当ての『阪神サウスアイランド王国』。

みんなはまずは屋内プールで遊ぶことに。

屋外プールもあるが、例年通り六月三〇日まで休業中だ。

みんなはガラス張り吹き抜け開放感たっぷりのドーム内へ。

「水着のお店寄って行こう! 私、新商品見たいっ!」

「俺は全く興味ないや」

聡史以外のみんなはプールゾーンへ向かう前に、スイムショップへ立ち寄ることに。

「幸岡先輩達はビキニとか紐パンとかTバックタイプの水着は着ぃへんの?」

「杏子ちゃん、高校生の私には過激過ぎるよ」

「わたしはこれは無理です。こんなの着たら聡史お兄さんも目のやり場に困っちゃうよ」

「Tバックのは、お相撲さん以上におしり丸見えだね。あたしはワンピースタイプの方が好き♪」

「アタシもそれが一番落ち着くなぁ」

「みんなまだまだ子どもやね。このタイプの方がトイレに行きたくなった時便利やのに。まあワタシも紐パンとTバックのはさすがに着んけど。あっ! あの海パン、聡史兄さんにぴったりかも」

 女の子みんなでわいわい楽しそうに商品を眺めている中、

なんとも手持ち無沙汰だ。

 聡史は店外の休憩ベンチでスマホをいじりながら退屈そうに待機。

「聡史お兄ちゃん、杏子お姉ちゃんがかっこいい海パン買ってくれたよ。ほら見て。キングコブラさん柄。これ穿いて」

「聡史くん、せっかくだから穿いてみたら?」

「絶対似合うで」

「俺、そんな派手なのは着ないから。無駄遣いはダメだよ」

 五分ちょっとでみんな戻って来てくれた。

 いよいよプールゾーンへ。

やっぱ女の子達はまだ着替え終えてなかったか。予想は出来てたけど、カップルや家族連ればっかりだな。

 聡史が一番早く着替えを済ませ、プールサイドへ。ショートスパッツ型の地味な紺色水着姿で前方に広がる光景を眺めていると、

「聡史兄さん、どう、似合う?」

 杏子が露出たっぷりレモン色のビキニ姿で現れ、こう問いかけて来た。

「うん、まあ」

 聡史はちらっと見て即答する。

「サンキュー聡史兄さん、ねえ、ワタシといっしょにゴムボートに乗って遊ばへん?」

「お断りします」

「聡史兄さんったら、照れなくっても」

 杏子はくすっと微笑む。

「杏子、聡史お兄さんからかっちゃダメよ」

「聡史お兄ちゃん、やっぱりキングコブラさん柄の穿いてくれてなーい」

「サトシお兄さんにはそんなワイルドなのは絶対似合わないよ」

「聡史くん、お待たせー」

 他のみんなは露出の少ないワンピース型水着だ。詩織と果帆はお揃いのトロピカルフルーツ柄、茉希はオレンジ地白の水玉柄、モニカは和風な桜柄だった。

みんなよく似合ってるなぁ。

 聡史はちょっぴりにやけてしまった。

「果帆、流れるプールで遊ぼう」

「うんっ!」

 詩織と果帆は仲良く水辺へ駆け寄っていく。

「わたし、水泳の練習もしようと思ったけど、これだけ人多いと恥ずかしくて出来ないな」

「私もこの人ごみじゃ泳ごうとは思わないなぁ。ビーチボールで遊ぶ方がいいよ。ねえ聡史くん、ふくらませてー」

「足踏みポンプ使ったら簡単だろ」

「それだと聡史くんに見せ場を作れないと思って」

「作る必要ないと思うんだけど……ふくらませてあげるよ」

 聡史は地球儀型ビーチボールの空気穴部分を口にくわえ、息を吹き込んでいく。

「疲れたぁー」

 満タンにした時にはかなり息が切れていた。

「ありがとう聡史くん、さすが男の子だね」

 茉希から感謝されるも、

「聡史兄さん、肺活量少なそうやね。時間かかり過ぎ」

 杏子にくすっと笑われてしまう。

「聡史くん、こっち投げてー」

「分かった。それじゃ俺はあの辺にいるから」

「聡史くんもいっしょにビーチボールしよっ」

「俺はいい」

 聡史は茉希に向かって投げると、そそくさ三人がいる場所から離れていく。

「聡史兄さん、せっかくのハーレムやのに勿体ないで。幸岡先輩、こっち投げてやー」

「杏子ちゃん、いっくよーっ。それーっ。あっ、ヤシの木の方へ飛んでっちゃった。ごめんね」

「ドンマイ、ドンマイ」

「杏子、パス」

「それっ」

「ひゃっ、杏子、速過ぎよ」

三人は不器用ながらもビーチボールで遊び始める。

      *

 それから五分ほど経った頃、

「あたし聡史兄さんのとこ行って来るね」

 杏子はモニカに向けてトスを上げるとそう伝え、ここから立ち去る。

ガジュマルって独特な形だよなぁ。

 同じ頃、聡史はベンチに腰掛け、プールサイドに生えている熱帯植物を観察していた。

「ねえ聡史兄さん、幸岡先輩といっしょにこれに乗ってあげて」

 そこへやって来た杏子は、途中レンタルコーナーに寄って借りて来たビニールボートをかざす。

「嫌だって」

「あそこのカップルだってやっとうやろ?」

「俺と幸岡さんはカップルじゃないし」

聡史はベンチから立ち上がり、スタスタ早歩きで逃げていく。

「待って聡史兄さん」

「しつこい」

 聡史が不快な気分でこう呟いた直後、

「聡史くん、危なぁい!」

 茉希の叫び声。

 ビーチボールが飛んで来たのだ。

「ぐわっ!」

 それは聡史の後頭部に直撃した。

「ごめんね聡史くん、わざとじゃないの。怪我はない?」

 茉希はぺこぺこ何度も頭を下げて謝ってくる。

「幸岡さん、俺は平気だから、気にしないで」

 聡史は優しく伝えた。

「ねえ幸岡先輩、このボートに聡史兄さんといっしょに乗ってあげて」

「えっ、それは、ちょっと、恥ずかしいな。大勢の前では」

 茉希は照れくさそうに笑って躊躇う。

「ほら、幸岡さんも嫌がってるだろ」

「あぁん、残念や」

「茉希さん、聡史お兄さん、ほんの三〇秒だけでもいいので乗って下さい」

「それじゃ、乗ろっか、聡史くん」

「うっ、うん」 

 聡史と茉希はプールに浮かべたビニールボートに乗っかると、向かい合った。

「なんかバランス悪いね。ちょっと動いたら落ちそう」

「そうだな」

けれどもお互い視線は合わせられずにいた。

「二人とも、はいチーズ」

 杏子に防水デジカメでちゃっかり撮影されてしまい、

「こらこら」

「杏子ちゃん、恥ずかしいよ」

 聡史は苦笑い、茉希は照れ笑いする。

「聡史兄さんと幸岡先輩、どっからどう見てもカップルやで」

 杏子は微笑ましく眺めていた。

そんな時、

「うっ、うわぁっ!」

「きゃっ!」

 聡史と茉希の乗ったボートが突如転覆してしまった。二人とも水中へ放り出される。

「やっほー聡史お兄ちゃん、茉希お姉ちゃん」

 詩織が水中から底の部分を手で勢いよく押し、バランスを崩させたのだ。

「西風さん、危ないからそういうことはしちゃダメだよ」

「詩織ちゃん、私びっくりしたよ」

 苦笑いの聡史と、にっこり笑顔の茉希の反応を見て、

「えへへっ」

 詩織はえくぼを浮かばせ得意げに笑う。

「詩織さん、ダメですよ、そんなことしたら」

 モニカは叱らず優しく注意。

「はーい。あたし、これから果帆とウォータースライダーで遊んで来るね。果帆、行こう!」

「うん」

詩織と果帆は仲睦まじくその設備がある場所へ駆けて行った。

「わたしもウォータースライダーで遊んでこよっと。あれ大好き。位置エネルギーが運動エネルギーに変換される物理現象を体感出来るし」

「モニモニ、いっしょに乗ろう。聡史兄さんは幸岡先輩といっしょに乗ってあげなよ」

「俺は乗る気ないよ」

「あの、聡史くん、いっしょに乗って。一人じゃちょっと怖いから」

 茉希に手首を掴まれ上目遣いでお願いされ、

「わっ、分かった」

 聡史は少し緊張気味に承諾した。

「聡史兄さんと幸岡先輩は、二人乗り専用のあれに乗るべきやね」

 杏子は三種類あるウォータースライダーのうち、最も傾斜が急なのを指した。高さも最大だ。

「いやいや、俺は緩やかな青色の方に」

「私もそっちがいいな。もっと緩やかな子ども用の方ならもっといい。あれは見るからにものすごーく怖そう。厳つい表情のライオンさんの口からして」

「聡史兄さん、幸岡先輩、カップルに大人気やからぜひ乗ってみて」

「あっちの方が絶対楽しいですよ。わたしもあれに乗るので」

「モニカちゃんも乗るなら、乗ってあげてもいいかな」

「しょうがない、一回だけだからな」

 杏子とモニカはわくわく気分、聡史と茉希は億劫そうに待機列へ。

「杏子お姉ちゃん達、あれに乗るんだね」

「シオリちゃん、怖そうだけど、あっちにしよっか?」

「そうだね。あたし達ももう大人だもんね」

 青色の方に並んでいた詩織と果帆も聡史達のいる方へ移動した。

「すごく楽しそうにはしゃいでるね」

「よく楽しめてるね。俺には感覚が理解出来ないよ」

 乗ろうとしているウォータースライダーから急降下したカップルを見て、茉希と聡史は苦笑い。

 杏子とモニカの後ろに聡史と茉希。その後ろに詩織と果帆が並んだ。

「もう順番回って来たわ。ほな、おっ先ぃ」

「ちょっと怖いけど、楽しみです♪」

 杏子とモニカ、わくわく気分でゴムボートに乗り込み、

「それじゃ、行ってらっしゃい」

 お姉さん係員からの指示で出発。ちなみに杏子が前だ。

「聡史くん、前に乗ってね」

「分かった」

 ついに順番が回って来た聡史と茉希は、恐々とゴムボートに乗り込む。二人とも手すりをしっかりと握っていた。

「彼氏さん、怖がらずに頑張って♪ それじゃ、行ってらっしゃい」

 お姉さん係員からの気遣いの声もかけてもらっていよいよ出発。

 二人の乗ったゴムボートが、高さ十メートルの場所から急斜面を猛スピードで急降下していく。

「うをわぁぁぁっ!」

「きゃあああああああんっ!」

 落下地点でザブゥゥゥーンと高く水飛沫を上げ、二人ともずぶ濡れに。

「聡史くん、大丈夫?」

「当然」

 ボートの動きが落ち着いたのちそんな会話を交わした直後、

「杏子、あれもう一回乗ろう!」

「うん! 今度はワタシを前に乗らせてよ」

 プールサイドを走ってまた同じウォータースライダーの方へ向かっていくモニカと杏子の姿を目にした。

「杏子ちゃんも、こういうの好きなんだね。私はもうこりごり」

「俺ももういい」

聡史と茉希はくたびれた様子でプールサイドに上がり、ゴムボートを仲良く持ち合って返却しに行く。

「アタシ、けっこう恐怖を感じたよ」

「あたしもー。でももう一回だけ乗りたいって感じたよ」

 続いて落下した果帆と詩織も返却場所へ向かい、聡史と茉希と合流した。

 それから十分近く、四人で杏子とモニカが戻ってくるのを待つと、

「これから杏子とイルカボートで遊んでくるね」

「聡史兄さんも幸岡先輩とイルカボートで遊んであげなよ」

 モニカと杏子はそう伝え、いっしょに人工ビーチのあるプールの方へ向かっていった。

「ここのプール、ビーチでは今年から貝殻拾いも出来るようになったみたいだね」

「聡史お兄ちゃん、あたし達といっしょに貝殻拾いしよう」

「子どもっぽいから俺はいいや。俺、あの辺にいるから」

 聡史は逃げるようにここから立ち去っていく。

「聡史くん、大人もやってるのに」

「アタシ、サトシお兄さんの気持ち分かるなぁ」

「聡史お兄ちゃん不参加かぁ。スコップ三つ借りて来るね」

 そんなやり取りがあって、茉希達は貝殻拾いをし始める。


それから十五分ほどのち、

「ん? あれは」

 あの場所から三〇メートルほど先の休憩ベンチに腰掛け、熱帯植物を眺めながら過ごしていた聡史が茉希達のいる方へふと視線を向けると、異変が。

「きみ達、かっわいいね」

「おれらと遊ばへん?」

 大学生と思わしき男二人組が茉希達のもとへ近寄って来ていたのだ。一人は茶髪ショート系ウルフカット、もう一人は黒のロングヘアだった。背丈は二人とも一八〇センチ近くはあり、日焼けした褐色肌でそこそこがっちりしていた。

「すみません、他に連れがいるので」

「あの、申し訳ないですが他を当たって下さい。アタシ達よりももっと魅力的な若い女性他にもたくさんいらっしゃるでしょう? あそことか」

「……」

 予想外の事態に三人とも戸惑い怖がってしまう。詩織は言葉が出なくなってしまっていた。

「おれらきみらくらい歳の垢抜けてない子が好みやねん。遊ぼうぜ。なっ!」

「欲しいもん何でも奢ったるから」

「いえ、けっこうですから」

 果帆が震えた声で断ると、

「まあまあそう言わんと。なっ!」

 茶髪の方が果帆の腕をグイッと引っ張った。

まさか、ナンパするやつが現れるとは。漫画やアニメみたいな展開って、本当にあるんだな。どうしよう? 勝てそうな気がしないし、でも、行かなきゃダメだろ。

 聡史はこの事態にすぐに気付いた。数秒悩んだのち、勇気を振り絞って彼らのいる方へ急いで駆け寄って行った。

「あっ、あのう」

 到着すると、

「あっ、聡史くん♪」

 茉希の表情が綻ぶ。

「ん? 彼氏?」

「いや、まあ、正式には違いますが、そのようなものでして」

 茶髪の方に問われ、聡史はびくびくしながら答える。

「彼氏だよっ!」

 茉希は真剣な眼差しで強く主張した。

「どっちなんだよ?」

 もう一方の男に睨まれると、

「ハハハッ」

 聡史は苦笑いして、

胸永さん、助けに来てくれないかな?

 こう思いながら数十メートル先でモニカとイルカボートで楽しそうに遊んでいる杏子の方をちらっと見た。

 二人ともまだ気付いていないようだった。

「こんなひょろい男よりオレ達と遊んだ方が絶対楽しいぜっ!」

 黒髪の方がノリノリで茉希に近寄る。

「あの、やめてあげて下さい」

 監視員の人でもいいから早く助けに来てくれよっと願いながら、聡史が俯き加減でぼそぼそっとした声でお願いすると、

「あぁ?」 

 茶髪の方に顔を近づけられる。

「とにかく、ここは、お引き取りを……この子達、迷惑してるんで!」

 聡史はやや険しい表情を浮かべ、勇気を出して彼なりにきつい口調で伝えた。

「分かった、分かった」

「しょうがねえ」

 すると大学生風の男二人組は聡史を睨んだのち舌打ちし、素直にここから立ち去ってくれた。

「殴られるかと思ったぁー」

 聡史はホッと一安心する。けれども心拍数はなかなか治まらない。

「聡史くん、ありがとう♪」

「サトシお兄さん、すごく恰好よかったよ」

「聡史お兄ちゃん、男らしさを見せたね」

 みんなから感謝されるも、

「いや、まあ、みんな無事でよかったよ」

 聡史はまだ恐怖心でいっぱいで、照れくささは感じられなかったようだ。

「聡史くん、あの怖いお兄さん達がまた私達のところに寄ってくるかもしれないから、いっしょにいて」

「分かった」

 それからしばらく聡史も交じって貝殻拾いを楽しんでいると、

「ただいまーっ! イルカボートめっちゃ楽しかったわ~」

「わたし、お腹すいて来たわ。そろそろお昼ごはんにしましょう」

 杏子とモニカが戻ってくる。

「私達、さっき怖い大学生風のお兄さん二人組にナンパされちゃったんだけど、聡史くんがすぐに助けに来てくれて追っ払ってくれたよ」

 茉希は笑みを浮かべて嬉しそうにさっきの出来事を伝えた。

「聡史お兄さん、さすが男の子ですね」

「聡史兄さん格好ええ! 銭湯の時といい正義のヒーローやね」

「いや、俺は特に何も出来なかったけど、みんな、お昼ご飯、何食べる?」

 聡史は照れくささを隠すようにプールに隣接するファーストフード店へ目を遣る。

「ドリアンジュースも売っとんやっ! この夏の新メニューみたいやね。ワタシ、ちょっと飲んでみたい」

 杏子は興味津々。

「俺、小学校の時、家族で東京旅行行った時、夢の島の熱帯植物館でにおい嗅いだことあるけど、悪臭にしか感じなかったよ」

「わたしも嗅いだことありますよ。ドリアンは食べたいとは思わなかったな。あの1,プロパンチオールなどの強烈なにおい成分のせいで」

「私は嗅いだことないけど、腐った玉ねぎみたいらしいね」

「あたし、においちょっと気になる」

「アタシもー」

「せっかくやし、試しに買ってみるわ~」

 杏子は衝動に駆られ購入することに。三百五十円を支払うと、

「お待たせしました。ドリアンジュースでーす」

 店員さんからドロッとした黄土色の半液体が並々と注がれた、トロピカルなデザインの紙コップがストロー付きで手渡された。

「すごい色やね」

 ドリアンの強烈な香りが周囲に漂う。

「やはりきついです。杏子、絶対こぼさないようにしてね」

「久々に嗅いだけどやっぱきつい。水着がドリアン臭くなってしまいそうだな」

モニカと聡史は顔をちょっとしかめ、

「くっさぁーい」

 詩織は苦笑いしながら鼻を押さえる。けれども楽しんでいるようだった。

「こんなにおいなんだ」

「確かに噂通り腐った玉ねぎみたいなにおいだね」

 果帆と茉希は思わず微笑んでしまう。

「うーん、これはちょっと……」

 杏子は少し啜ってみて、後悔の念に駆られたようだった。

「私、ちょっとだけ飲んでみるよ。どんな味なのかな?」

「幸岡先輩、協力してくれてありがとね。はいどうぞ」

 茉希は勇気を出して杏子から受け取る。

 少し口に含んでみて、

「においはすごーくきついけど、甘みが強くて美味しい♪」

 そんな感想を抱く。

「意外に甘くてすごく美味しいよ」

 続いて果帆も恐る恐る試飲してみて、とっても幸せそうに飲み込んだ。

「めちゃくちゃ不味くはないけど、もういいや」

「……微妙だなぁ。これは加工されてるからまだ飲めたけど、そのままのドリアンは食べれそうにないです」

 詩織とモニカも結局少し試飲してみてこんな感想。

「聡史兄さん、まだ半分くらい残ってるけど飲んでみる?」

 杏子は目の前にかざしてくる。

「いや、いい」

不味そうだし、なにより間接キスになっちゃうだろ。

聡史はそんな理由もあって即拒否した。

「私が残りを飲むよ」

「マキお姉さん、アタシもまだ飲みたいから少し残しといてね」

「うん、癖になるよねこの味」

 茉希と果帆は協力して、残った分を快く飲んでくれた。

「幸岡先輩、カホちゃん、これ、口臭消し効果があるみたいやで」

 ちょっぴり罪悪感に駆られた杏子は、同じ店で売られていたジャスミンキャンディーを購入し、この二人に渡してあげたのだった。

「わたし、ロコモコにしようっと。あとマンゴーソフトも」

 モニカは他のお客さんが手に持っていたそのメニューをちらっと眺めて決断する。

「アタシはたこ焼きとナタデココとアイスカフェラテにする」

「南国系のメニューも豊富だな。俺はミーゴレンにするか」

「あたしはチョコバナナクレープとストロベリージュースとフランクフルトにするぅ」

「私はトロピカルフルーツカレーにしよう。あとパイン味のソフトクリームも」

「ワタシはお好み焼きにするわ~」

みんなお目当てのメニューを受け取ったあと、

「ここ、六人掛けのはないみたいだな」

「聡史兄さんと幸岡先輩は、あっちの席に座ってね。さあどうぞ」

「みんないっしょがよかったけど、仕方ないね。聡史くん、座ろう」

「……うん」

杏子→果帆→モニカ→詩織の並びで四人掛け円形テーブル席に、聡史と茉希はそのすぐ隣の二人掛け円形テーブル席に座った。

「聡史お兄ちゃん、あたしのフランクフルトちょっとだけ食べてもいいよ」

 詩織はトマトケチャップたっぷりマスタードちょっぴりのフランクフルトを眼前に近づけてくる。

「いや、いらないよ」

 聡史はちょっぴり俯き加減で拒否した。

「じゃああたしが全部食べるね。あ~、美味しい♪」

詩織はカプリッといい音を立てて味わう。

「聡史兄さんのフランクフルトは、もう少し大人になるまで幸岡先輩に食べさせちゃダメですよ」

「胸永さん、何下品なこと言ってんだよ」

「あいてぇっ」

 聡史は耳元でにやけ顔で囁いて来た杏子のおでこをぺちっと叩いておく。

「杏子、変なこと言わないで」

「ぎゃんっ」

 モニカは後頭部を平手でペシンと叩いておいた。

「聡史くん、私のカレー少し分けてあげるよ。はい、あーん」

 茉希はカレーの中にあったパパイヤの一片をさじで掬い、聡史の口元へ近づける。

「いや、いいって」

 聡史は困惑顔を浮かべ、左手を振りかざして拒否。右手で箸を持ち、麺を啜ったまま。

「あーん、やっぱりダメかぁ」

 茉希は嘆く。でも微笑み顔で嬉しそうだった。

「聡史お兄さん、お顔は赤くなっていませんが、きっと照れていますね」

「聡史兄さん、一回くらいやってあげたら?」

 モニカと杏子はにこにこ笑いながらそんな彼を見つめた。

「出来るわけないだろ」

 聡史は苦笑いしながら伝え、引き続き麺をすする。

「シオリちゃん、はいあーん」

果帆は真似してたこ焼きを詩織の口元に近づけた。

「果帆、赤ちゃんみたいで恥ずかしいよ」

 詩織はにっこり笑ってチョコバナナクレープを美味しそうに頬張りながら伝える。

「カホちゃんシオリちゃんもお似合いの百合カップルやね。ワタシ、お好み焼きだけじゃ少し物足りへんわ~。かき氷買ってくるね」

 杏子はそう伝えて席を離れた。

「シオリちゃん、波の出るプールで泳いで来よう」

「うん」

 果帆と詩織はほぼ同じタイミングで昼食を取り終えると、すぐに席を立ってその場所へ駆け寄っていく。 

「詩織さんと果帆さん、小学生みたいに元気いっぱいね」

「そうだね。若さだね。パインソフトすごく美味しいよ。聡史くん、少しあげるよ」

「いらないよ。そんな酸っぱいの」

「酸っぱくないよ」

「それでもいらない」

「もう、全部食べちゃうよ」

 茉希はにっこり笑顔でそう伝え、最後の一口を味わう。

「聡史お兄さんはフルーツあまり好きじゃないみたいですね」

 モニカはマンゴーソフトを頬張りながら呟いた。

「うん、いちごとか柑橘系は特に苦手なんだ。俺は麻婆豆腐とか担担麺とか、辛い物が好きだな」

「聡史くん、それは人生を損してるよ」

「味の好みは男らしいですね」

 そんな会話を交わしてから約五分後、茉希がカレーも残り僅かまで食べ終えた頃に、

「聡史兄さん、幸岡先輩、ヤシの実ジュースも買って来たよ。はいどうぞ。二人で仲良く飲んでや」

 杏子が戻って来て、聡史と茉希の目の前に置いていった。

 まさにカップルでどうぞと言わんばかりに、ヤシの実にストローが向かい合わせに二本刺さっていた。

「俺、これは飲みたくないな。昔飲んだ時、めっちゃ不味かった記憶が」

「私一人じゃ飲み切れないよ。聡史くんも協力してね」

「飲み切れなかったら協力してあげる」

「絶対飲み切れないよ」

 茉希はカレーも平らげると、

「いただきます」

 ストローに口をつけ、美味しそうに飲んでいく。

「じゃあこれ、捨ててくるね」

 聡史は席を立って、近くのごみ箱に紙皿を捨てに。

「予想通りの行動ですね」

「ワタシもこうなると思ってた。聡史兄さんもいっしょに飲まなきゃ」

 モニカと杏子は、ブルーハワイかき氷を頬張りながら二人の様子を微笑ましく観察する。

「もうお腹いっぱい。あとは聡史くんが飲んで」

「やっぱり残したのか。まだ半分以上はあるな……やっぱあまり美味くはない」

 聡史はこう思いながらも、もう一方のストローで快く飲んであげる。

 そんな時、

「みんなーっ、あたし、これから映画見に行きたいんだけど」

「アタシもちょうど見たいのがあって」

 詩織と果帆が戻ってくる。

この二人の希望により、みんなこのあとは泳がずに屋内プールゾーンをあとにした。

         *

隣接する大型ショッピングモール内のシネコンへ辿り着くと、

「あたし、これが見たかったの。さすがに果帆と二人だけじゃ入り辛いなぁって思ったから、この機会にみんなでいっしょに見よう」

「大人が見ても、絶対嵌ると思うの」

詩織と果帆は壁にいくつか提示されてあるポスターのうち、お目当てのものに近寄った。

「これ、CMで予告流してたね。私もちょっと気になってたんだ」

「わたしも同じく。次の回は一時半からみたいですね。もうすぐですね」

「ワタシの好きな声優さんも何人か出とうし、けっこうおもろそうやん。動物キャラが中心でイケメンショタキャラもおるから、大友ウケは悪そうやね」

それは、GWに公開され次の金曜日には上映終了となる女児向け魔法もありのファンタジーギャグアニメだった。

「俺は、この辺で待っとくよ。チケット代の節約にもなるし、そもそも大人の見るものじゃないし」

 聡史は当然、見る気にはなれず。

「聡史お兄ちゃんもいっしょにこの映画見よう。さっき聡史お兄ちゃんの倍くらいは年上に見えるおじちゃんが一人で入って行ったよ」

「仕方ない」

 詩織に背中をぐいぐい押されチケット売り場の方へ連れて行かれる。

「シオリちゃん、これはどないや? ゾンビがいっぱいやで」

 杏子は他に上映されている3Dホラー映画のポスターを指した。

「それは絶対に嫌ぁっ!」

 詩織は顔をしかめ、すぐにポスターからぷいっと顔を背けた。

「わたしもそれは見たくないです」

「アタシもー。こういうの好きな人の気が知れないよ」

「私もこういう実写のホラー映画はものすごく苦手だよ」

「ワタシは誘われたら見るけどね」

「俺は誘われても見る気は全くしないよ。大人一枚、中学生四枚、高校生一枚で」

 聡史が代表して、お目当ての映画六人分のチケットを購入。受付の女性がその入場券と共に入場者全員についてくる、キラキラして可愛らしいおもちゃのペンダントをプレゼントしてくれた。

「西風さん、これ。俺こんなのいらないから」

「ありがとう聡史お兄ちゃん♪」

 聡史は速攻詩織に手渡す。詩織が受け取ったものとは種類違いだった。 

チケット売り場向かいの売店でドリンクやポップコーンなどが売られていたが、みんなお腹いっぱいなため何も買わず、お目当ての映画が上映される5番スクリーンへ。

「果帆、楽しみだね」

「うん♪」

 詩織と果帆はわくわく気分でいち早く座席に着いた。

「幸岡さん、周り幼い女の子ばっかりだから、やっぱり、俺達は入らない方が……」

「まあまあ聡史くん。気にしなくてもいいじゃない。たまには童心に帰ろう」

 聡史は否応無く、茉希に背中をぐいぐい押されていく。

「聡史お兄さん、気になさらずに」

「聡史兄さん、幼い娘を連れたパパの気分になればいいじゃん」

 モニカと杏子はその様子をすぐ後ろから微笑ましく眺める。

 真ん中より少し前の列の席で、聡史は詩織と茉希に挟まれるように座った。座席指定なのでそうなってしまった。詩織の隣が果帆、茉希の隣が杏子、杏子の隣がモニカだ。

視線を感じるような……。

 聡史は落ち着かない様子だった。他に五〇名ほどいた客の、七割くらいは小学校に入る前だろう女の子とその保護者だったからだ。

         ☆

 上映時間七〇分ほどの映画を見終えて、

「果帆、とっても面白かったね」

「うん、アタシまた見に行きたいな」

「私もだよ。すごく興奮出来た。童心に帰れたよ」

詩織、果帆、茉希は大満足な様子で5番スクリーンから出て来た。

「しゃべる野菜や果物やお菓子さんもかわいくて、思ったより面白かったわ」

 モニカもけっこう満足出来たようだ。

「ワタシも愉快な気分になれたで。たまにはああいうのもええなぁ。聡史兄さん、上映中一度も幸岡先輩と手ぇ繋がんかったね。しかも途中寝てたし」

 わりと気に入った様子の杏子ににやけ顔で突っ込まれると、

「退屈な映画だったからな」

 聡史はほんわか顔で感想を述べる。

「聡史お兄ちゃんは面白く感じなかったの?」

「うん、もろに幼児向けだし。西風さんや二星さんより七つくらい年下の子でも、子どもっぽいからってこの映画見ない子の方がずっと多いと思うよ」

「幼児向けでもあたしはすごく面白いと思ったけどなぁ」

「サトシお兄さん、本当は面白いと思ったけど見栄張ってきっと照れ隠ししてるんだよ。そんな表情してる」

 詩織と果帆にこんな反応をされると、

 確かに思わず見入ったシーンはあったけど。

聡史はこう思いつつも何も言い返せなかった。

続いてみんなは隣接するアミューズメント施設へ。

「せっかくみんな揃ったことだし、みんなで記念にプリクラ撮ろう!」

「いいねえ、幸岡先輩」

「聡史くん、どこへ行こうとしてるの? 逃げないでいっしょに撮ろう」

「俺はいいって。状況的に考えて俺は写らない方がいいだろ。俺も写りたくないし。わわわっ」

 茉希に腕をガシッと掴まれ、格ゲー筐体の方へ向かおうとした聡史は抵抗するも敵わず無理やり最寄りのプリクラ専用機内へ連れて行かれた。

他のみんなも杏子を先頭にその専用機の中へ。

「プリクラは女の子同士で楽しんだ方が絶対いいって」

「聡史兄さん、ハーレム王になれるこのチャンスを思う存分楽しまなきゃ損やで」 

「聡史お兄さんは、プリクラ撮ったことってありますか?」

「一度もないよ」

「では尚更撮らなきゃダメです。日本の誇れる文化ですし」

「ポランスキーさん、その必要は全くないって」

「聡史くん、きっといい思い出になるよ」

「サトシお兄さんもせっかくの機会なので写りましょう。照れくさがらずに」

「いや、いいって」

 聡史は気が進まなかったが、

「聡史お兄ちゃんもいっしょに写ろうよう」

「分かった、分かった」

 詩織に服を引っ張られ、無邪気な表情でねだられると断り切れなかった。

 そりゃ大勢の女の子達と写れることは嬉しいけど、イケメンでもない俺なんかがいっしょに写っていいのかな?

 聡史は今、こんな幸福感と罪悪感が入りまじった心境だ。

前側に果帆、詩織、杏子。後ろ側に聡史が茉希とモニカに挟まれる形で並ぶ。

「あたしこれがいいな」

詩織の選んだパンダさんのフレームに他のみんなも快く賛成。

「一回五百円か。けっこう高いな。どこもこんなもんなのかな?」

聡史はそう言いつつも気前よくお金を出してあげた。

   *

 撮影落書き完了後、

「きれいに撮れてるよ」

 取出口から出て来た、十六分割されたプリクラを真っ先にじっと眺める詩織。自分が見たあと他のみんなにも見せてあげた。

「胸永さん、聡史兄さんハーレム体験中、ハートマークって落書きしないで」

 聡史は迷惑顔を浮かべる。

「いいじゃん聡史兄さん、事実なんだし」

 杏子はてへっと笑い、舌をペロッと出した。

「聡史くん素の表情過ぎるね。もっと笑顔で写らなきゃ。モニカちゃんは、表情がちょっと硬いね。モニカちゃん写真写る時こんな風に写っちゃうこと多いね」

「モニモニ性格のきつい女弁護士みたいやな」

「モニカお姉ちゃん、話しかけづらいがり勉少女っぽいね」

「あれれ? 笑ったつもりだったんだけどな。生徒証の写真はもっと表情硬いよ」

 モニカは照れくさそうに打ち明ける。

「アタシも生徒証の写真は今年のは表情めっちゃ硬いよ。睨んでるような感じだな」

 果帆がさらりと打ち明けると、

「果帆さんも同じなのですね。それを聞いて安心しました」

 モニカに笑みが浮かんだ。

「モニカちゃん、今の表情いいね」

 茉希はサッと携帯電話をかざし、カメラ機能でモニカのお顔をパシャリと撮影する。

「モニカちゃん、いい笑顔が取れたよ」

「茉希さん、恥ずかしいからすぐに消してね」

 モニカの表情はますます綻んだ。

「幸岡先輩、見せて見せて。モニモニ、ほんまにええ笑顔しとうわ~」

「あたしにも見せてーっ。モニカお姉ちゃん本当にかわいい」

「モニカお姉さんのこの笑顔素敵♪ 消すのは勿体無いよ」

 杏子と詩織と果帆はその写真を眺め、和んだようだ。

「あーん、これ以上見ないでー」

 モニカは表情を綻ばせたまま、頬を赤らめる。

ポランスキーさん、どんな表情してるんだろ?

 聡史は気にはなったが、罪悪感に駆られ見ようとはしなかった。

「幸岡先輩、今度は聡史兄さんとツーショットで撮ったら?」

「杏子ちゃん、それはなんか照れくさいよ。撮りたいけど……」

 杏子に耳打ちされ、茉希はほんのり頬を赤らめて微笑む。

「あたし、次はこれがやりたぁーい」

 詩織はプリクラ専用機すぐ隣の筐体に近寄った。

「詩織ちゃん、動物のぬいぐるみさんが欲しいんだね」

「うん!」

 茉希からの問いかけに、詩織はえくぼまじりの笑顔を浮かべ、弾んだ気分で答える。彼女がやりたがっていたのはクレーンゲームだ。

「あっ、あのナマケモノさんのぬいぐるみとってもかわいい! あれ一番欲しいっ!」

 お気に入りのものを見つけると、透明ケースに手のひらを張り付けて叫び、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

 めっちゃかわいいな。

 聡史はその幼さ溢れるしぐさに見惚れてしまった。

「詩織さん、あれは隅の方にあるし、他のぬいぐるみの間に少し埋もれてるよ。物理学的視点で考えても難易度は相当高いよ」

モニカのアドバイスに対し、

「大丈夫!」

 詩織はきりっとした表情で自信満々に答えた。コイン投入口に百円硬貨を入れ、押しボタンに両手を添える。

「詩織ちゃん、頑張ってね」

「シオリちゃん、頑張れー」

「健闘祈っとうよ」

「落ち着いてやれば、きっと取れるんじゃないかな」

「詩織さん、ファイトです」

 他の五人はすぐ後ろで応援する。

「絶対とるよ!」

詩織は慎重にボタンを操作してクレーンを動かし、お目当てのぬいぐるみの真上まで持っていくことが出来た。

 続いてクレーンを下げて、アームを広げる操作。 

「あっ、失敗しちゃった。もう一度」

 ぬいぐるみはアームの左側に触れたものの、つかみ上げることは出来なかった。再度クレーンを下げようとしたところ、制限時間いっぱいとなってしまった。

「もう一回やるぅ!」

 詩織はぷっくりふくれてとっても悔しがる。お金を入れて、再チャレンジ。しかし今回も失敗。

「今度こそ絶対とるよ!」

この作業をさらに繰り返す。詩織は一度や二度の失敗ではへこたれない頑張り屋さんらしい。けれども回を得るごとに、

「全然取れなぁい……」

 徐々に泣き出しそうな表情へと変わっていく。

「わたし、クレーンゲームけっこう得意な方だけど、あれはちょっと無理かな」

 モニカは困った表情で呟いた。

「私にも無理だよ。ごめんね詩織ちゃん」

「アタシも取れそうにないよ」

 茉希と果帆も申し訳無さそうに伝えた。

「詩織さん、他のお客さんも利用するので、そろそろ諦めた方がいいかもです」

 モニカは慰めるように忠告したが、

「嫌ぁ」

 詩織は諦め切れない様子。お目当てのぬいぐるみを見つめながら不機嫌そうにぷくぅっとふくれる。

「気持ちは分かるけど……わたしだって、一度やると決めたことは最後までやり遂げたいから」

 モニカは深く同情心を示した。

「このままだと詩織ちゃんかわいそう。ねえ聡史くん、取ってあげて」

「聡史兄さん、シオリちゃんにええとこ見せたげなよ」

 茉希と杏子に肩をポンッと叩かれ要求されると、

「俺も、クレーンゲーム得意じゃないし。真ん中ら辺のスッポンのやつはなんとかなりそうだけど、あれはちょっと無理だな」

 聡史は困惑顔で呟いた。

「聡史お兄ちゃぁん、お願ぁい!」

「わっ、分かった」

 詩織に寂しがる子犬のようなうるうるした瞳で見つめられると、聡史のやる気が少し高まった。クレーンゲームの操作ボタン前へと歩み寄る。

「ありがとう、聡史お兄ちゃん」

 するとたちまち詩織のお顔に、笑みがこぼれた。

「シオリちゃんもよく健闘してたよ」

 果帆は褒めてあげ、詩織の頭をそっとなでてあげた。

まずい。全く取れる気がしないよ。

 聡史の一回目の挑戦、詩織お目当てのぬいぐるみがアームにすら触れず失敗。

「聡史お兄ちゃんなら、絶対取れるはず」

 背後から詩織に、期待の眼差しでじーっと見つめられる。

どうしよう。

 聡史は窮地に立たされた。なにせ聡史は、今までクレーンゲームと遊んだ経験はあるが一度も中の景品をゲット出来たことはなかったのだ。

「聡史くん、頑張れーっ!」

「聡史お兄さんなら、きっと取れるわっ!」

「聡史兄さん、絶対いけるで」

よぉし、いい所見せてやるぞっ!

 茉希達からの声援を糧に聡史は精神を研ぎ澄ませ、再び挑戦する。

 しかしまた失敗した。アームには触れられたものの。

けれども聡史はめげない。

「聡史お兄ちゃん、頑張ってーっ。さっきよりは惜しいところまでいったよ」

 詩織からも熱いエールが送られ、

「任せて西風さん。次こそは取るから」

聡史のやる気がさらに高まった。

 三度目の挑戦後。

「……まさか、こんなにあっさりいけるとは、思わなかった」

 取出口に、ポトリと落ちたナマケモノのぬいぐるみ。

聡史はついに詩織お目当ての景品をゲットすることが出来たのだ。

「聡史くん、お見事!」

「おめでとうございます、聡史お兄さん。三度目の正直ですね」

「おめでとうサトシお兄さん」

「聡史兄さん、さらに株を上げたね」

茉希達はパチパチ大きく拍手した。

「ありがとうっ、聡史お兄ちゃん♪」

 詩織はとっても嬉しそうに抱き着いてくる。

「俺、たまたま取れただけだよ。先に、西風さんが少しだけ取り易いところに動かしてくれたおかげでもあるよ。はい、西風さん」

 聡史は照れくさそうに語り、詩織に手渡す。

「ありがとう、聡史お兄ちゃん。ナマちゃん、こんにちは」

 詩織はさっそくお名前を付けた。受け取った時の彼女の瞳は、ステンドグラスのようにキラキラ光り輝いていた。このぬいぐるみを抱きしめて、頬ずりをし始める。

「詩織ちゃん、いい思い出が出来て良かったね」

 茉希は優しく微笑みかけた。

「うんっ! あたし次は三階のペットショップ寄りたーい」

 みんなは詩織の希望したお店へ。

ショッピングモール内のペットショップ、昔はよく来たな。小三の頃、カブトムシを父さんに飼ってもらったことがあるよ。

 聡史が懐かしさに浸りながら店内を見て回り、

「シオリちゃん、エリマキトカゲちゃんがいるよ。かわいい♪」

「本当だー。あたしこの動物けっこう好き」

「私もー。ネオンテトラもすごくかわいいよね」

 果帆と詩織と茉希が水槽で売られているペットに夢中になっている間、

「寄ったついでにコニちゃんのエサ買っておこう」

モニカは杏子といっしょにペットフードコーナーへ。コニちゃんとは理科部で飼われているニホンイシガメの名前だ。

「モニモニ、最高級のを買うんやね。太っ腹やなぁ」

「一回これ与えたら、コニちゃんすっかり舌が肥えちゃって、市販品の亀のエサはこれしか食べてくれなくなっちゃったの」

「あらら。コニちゃんはモニモニに似てめっちゃ頭ええみたいやね」

「わがままなだけだと思うけど」

この店を出たみんなは続いてアイスやお菓子を買うために一階食品&日用品売り場へ。

聡史がカートを押して、茉希はその横を並ぶようにして歩き、他のみんなはその後ろをついていく。

「聡史お兄さんと茉希さん、新婚夫婦みたいになっていますね」

「まさに新婚夫婦やで」

 モニカと杏子からにこにこ顔で突っ込まれ、

「そうでもないだろ」

 聡史は困惑顔。

「そう見えるかなぁ?」

 茉希はちょっぴり照れた。

「ここって、ボールペンも売ってたような……」

 聡史は逃げるように文房具コーナーへ向かい、お目当ての商品を取りに行った。

「茉希さん、お菓子は買い過ぎないようにね」

 モニカから念を押されるも、

「分かってるけど、新しいのが出てるからついつい手が」

 茉希は新商品コーナーに陳列されていた南国フルーツ味のポッキーやコロン、キャラメル、マシュマロなどを吸い寄せられるように手に取り、買い物籠へ入れてしまった。

「この夏の新作アイスも出てたよ」

「アタシんちの分もついでに買っといていいかな?」

 詩織と果帆は協力して一箱八本くらい入りのアイス《ゆず味、メロン味、コーラ味、オレンジ味、ソーダ味、レモン味、ミルク味、抹茶味》をそれぞれ一箱ずつ運んで来て買い物籠へ。

「どうぞ。果帆さんの分もわたしの方で支払っておくね」

「ありがとうございますモニカお姉さん」

「どういたしまして。あっ、あれも買っとかないと。そろそろ少なくなって来たし」

 モニカは日用品コーナーから、おりものシートと生理用ナプキンを取って来て買い物籠へ。

 あれは思春期を迎えた女の子の必需品だよなぁ。

 聡史は意識しないようにしようとしたが、どうしても意識してしまった。彼が代表してレジを通したあと、みんなで協力して買った物を袋に詰めていく。

「果帆、このジュゴォォォーッて出てくるの面白いよね」

「うん、夏を感じるよ」

アイスを入れた袋の方には溶けないように、詩織と果帆が専用機械にコインを入れてボタンを押し、粉状ドライアイスを入れた。

食品&日用品売り場をあとにしたみんなは、バス停へ通じる出口へ向かって通路を歩き進んでいく。

途中、

「あっ!」

詩織は何かに気付き、急に表情をこわばらせた。そして茉希の背中側に回る。 

「詩織ちゃん、いきなりどうしたの?」

 茉希が不思議そうに問いかけると、

「あっ、あそこ。一年生の時、同じクラスだった子がいるの」

 詩織は前方を指差した。十数メートル先に、四人で楽しそうにおしゃべりしながら歩いているおしゃれな感じの中学生らしき女の子達がいたのだ。まもなくエスカレータに乗り姿が見えなくなると、

「シオリちゃん、あの子達にいじめられてたんか?」

 杏子は少し心配そうに尋ねた。

「あの子達は違うけど、会いたくないの。もし声かけられちゃったら、反応に困るし」

 詩織は俯き加減になり小声で伝える。

「シオリちゃん、アタシもほとんど話したことない子達だけど、そんなに怖がらなくても大丈夫よ」

「詩織さん、きっといつか克服出来るようになるからね」

 果帆とモニカは優しく微笑みかける。

「俺も学生時代、学校以外の場所でクラスメートに会って声かけられると気まずく思ったなぁ」

 聡史は深く同情した。

 みんなはこのあとはまっすぐモール内から出てバスに乗り、阪神サウスアイランド王国をあとにした。

        ※

 地元駅へ戻り、杏子と果帆と別れ、聡史と寮生とで鶸松寮への帰り道を歩き進んで行く途中、

「あっ! 私、明日までに提出しなきゃいけない英語の宿題まだ全然出来てないよ。どうしよう」

茉希はふとその現実を思い出してしまった。

「じゃ、いつものように俺がやってあげるよ」

 聡史は快く救いの手を差し伸べてあげようとする。

「ありがとう聡史くん。いつもごめんね」

「聡史お兄ちゃん、優しいね」

茉希と詩織はそんな彼に対する好感度がさらに上がったが、

「聡史お兄さん、甘やかし過ぎるのは良くないです」

 モニカは困惑顔を浮かべた。

「やっぱり、そうなのかな?」

 聡史は少し反省する。

「あーん、聡史くん、お願ぁい。私、先生に叱られちゃうよぅ」

 茉希はちょっぴり涙目を浮かべてお願いしてくる。

「でっ、でも……」

 聡史は思わず茉希から目を逸らし、視線をちらっとモニカに向けた。

「茉希さん、自力で頑張りなさい。テストの時に絶対後悔するわよ」

 モニカはやや険しい表情で忠告する。茉希にはけっこう厳しいのだ。


この四人が鶸松寮へ帰り着いた頃には午後七時過ぎ。

「みんなおかえり。今日は楽しかったかい?」

 みつゑさん特製の美味しい手料理が用意されていた。

         ※

「聡史くん、ありがとね」

「いやいや、どういたしまして」

聡史は結局、茉希が入浴中に彼女の宿題を大方仕上げてあげたのだった。


     ☆


翌日。六月十四日、月曜日。

夕方四時頃、聡史は近所のスーパーでみつゑさんから頼まれていた買い物を済ませ、鶸松寮へ向かって帰り道を歩き進んでいた。

 そんな時、

「聡史くーん、ここなら学校帰りに逢えると思った通りだよ」

 初めて出会った場所とほぼ同じ場所で、茉希から声を掛けられた。

「あっ、幸岡さん」

 聡史はちょっぴり緊張気味に反応する。

「あの、聡史くん、私から、ちょっとお願いしたいことがあるの……」

 茉希はそう伝えて、すぅと息を吸い込む。

「今度は何かな?」

 あの時とほぼ同じ状況だな。まさかデートのお誘いとか?

 聡史がこう思っていると、

「今から私と、ティータイムに付き合って下さいっ!」

真剣な眼差しでこんなお願いをされ、

「……それは、ちょっとなぁ」

 ティータイムって、デートのお誘い、だよな? これって……。

ちょっぴり動揺してしまう。

「いつも勉強でお世話になってる、お礼がしたいの」

「いや、俺、そんなに役に立ててないと思うけど……」

「大いに立ってる、立ってる。今日も聡史くんのおかげで先生からお叱りを受けずに済んだもん。ねえお願ぁい」

「じゃぁ、いいけど」

 聡史は戸惑いつつも、引き受けてあげた。

 こうして、茉希が前、聡史が後ろをついていく形で徒歩圏内の大型ショッピング施設へと向かっていった。

 店内に入ると、

「あの喫茶店でおやつ食べよう。私が奢るよ」

 茉希からこう誘われる。

「えっ、あそこ?」

「うん!」

「なんか、内装が可愛らし過ぎて、男の俺には入り辛いよ」

 ガラス窓から店内を覗いてみて、聡史は苦笑いを浮かべた。

「そんなこと言わずに。男の子にも人気のお店だよ」

「わっ、分かった」

けれども茉希に手を引っ張られ、聡史は強引に入店させられたのだ。

「二名様ですね。こちらへどうぞ」

ウェイトレスに二人掛けテーブル席へと案内された。向かい合って座ると、茉希がメニュー表を手に取り、

「聡史くん、いっしょにこれ食べよう。カップル割引になってお得だし。ここのお店の新作メニューだよ」

 迷わず抹茶パスタを指差した。

「カップルって……」

 聡史は思わず顔を引き攣らせた。

 そんな彼の有無を言わさず、

「抹茶パスタ二つお願いします♪」

茉希は嬉しそうにそのメニューをウェイトレスに注文する。

 ウェイトレスがカウンターの方へ戻っていくと、

「聡史くん、今日も悪いんだけど、数学の宿題頼むよ」

 茉希は演習プリントを手渡して来た。

「もちろんいいよ」

「ありがとう♪」

 聡史はいつものように快く引き受けてあげる。

 よかった。幸岡さんから意識を逸らせる依頼くれて。待ってる間、幸岡さんからずっと話しかけられるのは気まずいからな。

 こんなホッとした心境で。

 聡史が問題を解き始めると、

「私も今日の復習をしておくよ」

 茉希は数学Ⅱの教科書を取り出して、今日習った内容を見直し始めた。

数学は特に、教科書眺めるだけじゃなく、自分でこの問題解かないと復習したことにならないと思うんだけど……。

聡史はそう思いつつも、引き続き茉希の宿題に励む。

 それから五分ほどのち、茉希が飽きたのか数学の教科書を鞄に仕舞い、聡史が演習プリントを四分の一くらい片付けた頃に、

「お待たせしました。抹茶パスタでございます。ではごゆっくりどうぞ」

 ウェイトレスが運んで来てくれ、二人のアフタヌーンティータイムが始まる。

「聡史くん、残りは寮に帰ってからでいいよ。先に食べよう。はい、あーん」

 茉希は生クリームと小倉餡もまざった聡史側の抹茶パスタの一片をフォークに巻き付け、聡史の口元へ近づけた。

「いや、いいよ。自分で食べるから」

 聡史は左手を振りかざし、拒否した。彼は照れ隠しをするように、おまけで付いて来たコーヒーにブラックのまま口を付けた。

「聡史くん、かわいい♪」

 茉希はにっこり微笑みながら、その様子を眺める。

「あの、上に乗ってるみかんとさくらんぼは、幸岡さんにあげるよ。俺好きじゃないし」

「ありがとう♪ あーんって食べされてくれたら嬉しいんだけど、この場所じゃ恥ずかしいね」

「そっ、そうですね」

 傍から見ると、聡史と茉希は本当のカップルのようだった。


 二人が喫茶店から出たあと、

「あの、聡史くん、このあとは観覧車に乗って下さい」

 茉希はこんなことまでお願いして来た。

「いや、それはちょっとなぁ」

 聡史はさすがに躊躇ってしまうも、

「聡史くん、高いとこは苦手?」

「いや、苦手じゃないけど」

「じゃあ、乗ろう!」

「わわわっ!」

 ぐいっと手を引かれ、強引に連れて行かれてしまう。

これは百二十パーデートだよな。幸岡さんはそんなつもりじゃ、いや、そんなつもりなのかも。ついに愛の告白をして来そうな予感が……。

嬉しさ半分照れくささ三割気まずさ二割といった心境だった。

「じゃぁ聡史くん、観覧車乗りに行こう!」

 茉希が前、聡史が後ろをついていく形で目的地へと向かっていく。

このショッピング施設の外側には、最高地点では地上からの高さが三〇メートルにまで達する、おしゃれなデザインの大観覧車が設置されているのだ。

「聡史くん、せっかくだし、二人だけだし、あっちの方に乗ろっか?」

「……うん、いいよ」

 シースルーの方かぁ。あれは平気だけど、もろにカップル向けだよな?

 聡史は今からそれに乗ろうとしていた大学生らしき男女カップルにちらっと視線を向ける。もう一方のゴンドラは四人乗りのファミリー向けノーマルタイプだ。

聡史と茉希は五分ほど待って四人乗りのシースルーゴンドラに乗り込むと、向かい合って座った。

係員に鍵をかけられ、ゆっくりと上昇していくと、

「ちょっと怖いけど、いい眺めだね。夕日もきれーい」

 茉希は幸せそうな笑みを浮かべて下を見下ろす。

「そっ、そうだね」

早く、一周してくれないかな?

 聡史は気まずさと若干の恐怖心が相まって、高いドキドキ感と居心地の悪さを感じていた。目のやり場にも困っていた。

「聡史くん、今日は付き合ってくれてありがとう♪」

「どっ、どういたしまして」

「これからも、宿題とか、勉強のお世話よろしく頼むよ」

茉希からほんのり赤らんだ満面の笑みで顔を近づけられてお願いされ、

「うっ、うん。分かった」

 やばい。めちゃくちゃかわいい。いい匂いもするし。これは、キスして来そうな予感……。

 聡史はそんな期待を抱いてしまうも、寮の生活は慣れて来た? など結局は取り留めのない会話を交わしただけで、観覧車は一周し終えた。

 観覧車から出たあとも、茉希は手を繋いでくるとか抱き付いてくるとかキスしてくるとか、恋人同士らしいことは人前だからかして来ず、二人はショッピング施設をあとにしたのだった。

       ☆

「ただいま戻りました」

「たっだいまーっ、今日は学校では家庭科で裁縫の針、指にプスッて刺しちゃって災難な目に遭ったけど、放課後に聡史くんと付き合えて一気に運気が好転したよ♪」

 聡史と茉希は、午後七時ちょっと過ぎに鶸松寮に帰宅した。

「聡史さん、茉希さんとの放課後デートは楽しかったですか?」

 さっそくモニカから質問される。

「うん。けっこう、楽しかったよ。デートじゃないけど」

「感情が表情にしっかり出ていますね」

「聡史ちゃん、とっても幸せそうだねえ」

「聡史お兄ちゃん、最高の笑顔だね」

 モニカとみつゑさんと詩織は聡史の満足げな表情を見て、にっこり微笑んだ。

 ニャァァァ~♪

 萬藏の表情もほころぶ。

 そして今夜も、鶸松寮での楽しい夕食の団欒が始まる。


観覧車の中で、聡史くんにキスをしようと思ったけど、誰かに見られてると思って恥かしくて出来なかったな。普通のゴンドラでも外から見えるしたぶん出来なかったと思うなぁ。

茉希はそんな照れくさい心境で、美味しそうに天むすを頬張るのだった。

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