命懸けの脱走劇5

「サギ様。雑炊をお持ちしました」




「うん、お疲れ様。貴生川さんに渡して」




くるりと振り返ると金属の腕が目に入る。




「・・・どうぞ」




明らかにこちらに睨みを効かせた枯草が雑炊をドンと置いた。昼の出来事を思い出し、サーっと血の気が引く。




「お、お疲れ様です」




咄嗟に出た一言。どこかの営業か。



そんな俺に枯草はチッと舌打ちをしてくる。



余程俺のことが嫌いらしい。



初対面の人間に嫌われることは慣れているが、



殺したいと思われるなんて俺も出世したものだ。





「貴生川さん、枯草の作る料理は美味しいから安心して食べてね」




目の前に出された雑炊は、ほかほかと湯気を立てて美味しそうな匂いを漂わせる。




でも、毒入っていたらどうしよう・・・。




「食べ物に毒など入れるか」




何、こいつエスパー?





まあ、枯草もサギに向けて作ったのだからきっと毒など入れないだろう。




俺は手を合わせて一口食べた。




「・・・」




暫しの沈黙。そして





「う、うまい!」




枯草の横で思わず大声で叫んでしまった。



思わずきょとんとする枯草。


それはそうだろう。


自分が殺そうとした存在が自分の料理で喜んでいるのだ。驚くだろう。





「ふふ。枯草、良かったね」





サギも満足そうに微笑む。




枯草は心なしか恥ずかしそうにしている。




俺、そんなに変なこと言ったか?





「枯草は人に料理を美味しいって褒めてもらえて嬉しいんだよ」




こんなに美味しい料理をサギは美味しいと面と向かって言ったことがないと思うと少し驚いた。





そうして豪華な晩餐は、一杯の雑炊によって全てかき消された。






「ふう・・・」




高級なベッドに顔を埋める。

なんとも落ち着かない・・・。




あのボロボロのアパートに帰ってペチャンコの布団で寝たい。




サギに頼めば、帰っていいって言ってくれるかもしれないな。





そう思いながら、俺は目を閉じた。

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