第3話ああ失敗

洞窟、水の雫の音が響いている。


(アキ)「あっ?」

(仙人)「気が付いたか?」

(カズ)「ううーん」

(ヒデ)「いてててて」

(トラ)「うーん」


(仙人)「皆、気が付いたようじゃな」

(アキ)「人探しどころじゃなかったわよ」


(仙人)「そうじゃろうな。戦闘現場はそれどころではないわな。

じゃがしかし、人間、必死の戦いをしている時が最も美しい。

すばやくその者の手を掴み、オーイクモ!と叫ぶことじゃ」


(アキ)「ぱっと掴んでオーイクモ!ね」

(仙人)「そうじゃ」

(アキ)「皆、分かった?今度こそ絶対つかまえようね!」

(3人)「ははっ、かしこまって候」


(アキ)「で、どこへいくの今度?」

(仙人)「それでは、同時代の桶狭間の戦いをのぞいてみよう。

今度は必ず若者を連れてまいられよ。天界の第二指令!

桶狭間の戦い!」


大きな電源スイッチの入る音。

大画面が起動する音。


(仙人)「よいかここが桶狭間じゃ。今川義元は2万4千の大軍じゃが

隊列が延びて、ここ桶狭間に5千の兵で本陣を張った。早朝、この報を

察知するや信長は直ちに出陣。熱田神宮へ向かう。旗本や家来達が必死


になって追いかける。その数2千!その中にもぐり込むのじゃ。必ず

姫の探す若者がおるはずじゃ。心して探し出しここへお連れ申し上げよ。

よいな!」


(四人)「ははっ、かしこまって候」


小型宇宙船(3S)が来る音。

ホーバリングの音。ピポパピポパピポパ。

ステップが下りる音。

四人が駆け上がる音。


(アキ)「今度こそは必ず掴まえる。みんな!早死にするな!」

(三人)「ははっ、かしこまって候」


3S発進、遠ざかっていく。

ー間ー

稲妻、雷鳴、豪雨の音。

鎧武者が忍び歩む甲冑の音。

馬の鼻息。強い雨の音。


(トラ)「もう少しの辛抱ぞ」

(カズ)「激しい雨で今川どもはこちらに気付いておりませぬ」


激しい雨の音。

(信長)「皆のもの、止まれ!無用な旗指物は打ち捨てよ!

鉄砲火縄をぬらすな!大いに息を吸って心して待機せよ!」


激しい雨の音。


(ヒデ)「アキ姫、決して先駆けなさらぬよう」

(アキ)「分かっておる」

(カズ)「絶対に私の背から離れてはなりませぬぞ」

(トラ)「とにかく姫は若者を探してください」

(アキ)「わかっておる。腕を掴んでオーイクモ」


雨の音、次第に小さくなる。

(ヒデ)「あっ、雨がやんだ」

(トラ)「空が明るんできたぞ」


(信長)「天の加護!今じゃ!全軍総攻撃!」

(全軍)「うおーっ!」


鉄砲の一斉射撃音。弓矢の一斉射撃音。

群馬が駆け下る音。馬のいななき。

突撃の喊声。


(遠くの声)「織田の軍勢だ!」

(〃)「にげろーっ!」

(〃)「逃げるな!踏みとどまって戦え!」

(〃)「ぎゃーっ」


阿鼻叫喚。戦闘の音。

剣槍の響き。殺戮、断末魔の叫び。

音、遠のく。


歩む甲冑と砂利ふむ足音。

(トラ)「姫、離れてはなりませぬぞ」

(ヒデ)「あっ、あっちから雑兵が!」

(カズ)「どけっ、俺が切る!」


乱れる甲冑と足音。剣戟の響き。

(遠くの声)「おーりゃー!」

(カズ)「とう!」


ドバッと切られる音。

(雑兵)「ううっ」

ドサッと倒れる音。


(利家)「かたじけない!貴殿天晴れ!清洲のものか?」

(カズ)「いかにも。こちらはわが城主、清洲アキ殿じゃ。ぬしは?」

(利家)「前田利家と申す。急ぐゆえ、これにて御免」


戦闘の音、遠くに聞こえる。

(信長)「本陣は目の前ぞ!押せ押せ!」


近くの声。

(アキ)「マエダトシイエ。あの加賀百万石の?(大声で)

みんな!今川の本陣へ向かうのじゃ!」

(トラ)「姫、危のうございます」


(アキ)「前田利家殿を探すのじゃ!」

(ヒデ)「分かりました、姫。絶対に私どもから

離れてはなりませぬ」

(カズ)「本陣はあそこだ!」


阿鼻叫喚。戦闘の音。

(信長)「あの円陣が今川の本陣ぞ!」

(遠くの声)「お歯黒がいたぞーっ!」


阿鼻叫喚。戦闘の音。

(遠くの声)「今川義元討ち取ったりーっ!」


大歓声が上がる。

(信長)「勝ち鬨用意!」

(全軍)「おーっ!えいえいおーっ!えいえいおーっ!えいえいおーっ!」


勝どきが遠くで続いている。

(カズ)「アキ姫、前田殿はあそこに」

(アキ)「あっ、あそこね」


砂利を歩みだす音。

(カズ)「前田殿」

(利家)「これは清洲殿。残念じゃ、義元が首取れなんだ」

(カズ)「わが殿が貴殿に相談あり申す」

(利家)「何?相談とな?」

(アキ)「前田殿、御免!」


乱れる足音。甲冑の音。

(利家)「何をなさる、清洲殿」

(アキ)「御免。オーイクモ!」


3S瞬間出現の音。ボヨヨーン。

(四人)「それっ!」


3S一気に遠ざかる。ウィーン。


洞窟。水の雫の音が響いている。

3Sが近づく音。ホーバリングの音。

ドアが開きステップが下りて、

五人が転げ落ちる音。


(仙人)「おっ、戻って来よったな」

(利家)「ややや、ここはどこじゃ?」

(カズ)「地の底の砦にござる」

(利家)「今川の者か?」

(ヒデ)「今川ではござらぬ」


(利家)「わしを桶狭間へ返してくれ。わしは信長殿に

嫌われておるのじゃ。手柄を立てねばならぬのじゃ!」

(皆)「・・・・・」

(仙人)「アキ姫、このお方がアキ姫の一目ぼれのお方か?」

(皆)「・・・・・」


(アキ)「ちょっと違うみたい」

(トラ)「まだ戦は続いておりまする」

(カズ)「前田殿!急ぎ帰り支度を」

(仙人)「わしが送っていく」


3Sが来る音。ウィーン。

ドアが開きステップが下りる音。

(仙人)「さ、前田殿!」

(利家)「かたじけない」


3Sの飛び去る音。


(アキ)「皆、ごめーん!」

(トラ)「難しいと思うよ」

(ヒデ)「そうだよな」

(カズ)「姫、諦めてはなりませぬ。あと

四百年あります。がんばりましょう!」

(ヒデ・トラ)「がんばりましょう!」

(アキ)「ありがとう、みんな!」


3Sが戻ってくる音。ドアが開きステップ

がおりて、仙人が落ちる音。ドサッ。


(仙人)「ああ、疲れた。・・・姫!」

(アキ)「ごめんなさい」

(カズ)「我々が付いておりながら、誠に申し訳ない」


(アキ)「彼らは悪くないの。慌て者の私が悪いのよ。

叱らないでください。今度はうまくやりますから」

(仙人)「あと四百年もありますぞ」


(アキ)「全てはこれからです。今までのはウォーミングアップ

ということで。ね、みんな!」

(カズ)「ははっ、これからが本番だと思われます。

我々も心して姫をお守りいたします」


(仙人)「ようし分かり申した。では少し飛ばして、

天界の第三指令に入る。新撰組、池田屋騒動じゃ」

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