女神湖伝説(ラジオドラマ)
きりもんじ
第1話姫が淵
蝉しぐれが聞こえる。
(カズのナレーション)「そうあれは暑い真夏の信州だった」
蝉しぐれがずっと聞こえている。
突然、車の爆音。加速、シフトダウンのギアの音。
タイヤのきしむ音。再び加速、ギアの音。
(ヒデ)「おっとっとっと」
(カズ)「まだヘアピンが続くぞ」
タイヤのきしむ音。
(アキ)「キャー!」
(トラ)「吐きそう」
車の加速、シフトダウンのギア。
タイヤのきしみ。再び加速。
ターボでトップに入る。
(カズ)「これで終わりだ。後は白樺湖まで一直線」
(トラ)「あー、疲れた」
(ヒデ)「白樺湖は通過して、女神湖まで行くんだろう?」
(カズ)「ああ、そうだ」
こころよいターボの音が続いている。
(アキ)「女神湖、姫ヶ淵を探しに」
(ヒデ)「姫ヶ淵にはUFOの基地がある」
シフトダウンのギアの音。
加速の爆音。
(カズ)「ここからまた坂道だ」
(トラ)「ふう」
(アキ)「トラ、大丈夫?」
(トラ)「あー、大丈夫」
(ヒデ)「カズ、ゆっくりと走ってくれ」
(カズ)「あいよ」
こころよいターボの音が続く。
(アキ)「姫ヶ淵には昔から伝説があるのよ」
(ヒデ)「ほう、どんな?」
タイヤのきしむ音。
(アキ)「戦国の頃、諏訪城のお姫様が、武田の
荒武者に追いつめられて、恋仲の若者と二人で
飛び込んだのが姫ヶ淵」
(ヒデ)「そうだったのか」
ターボの心地よい響きが続いている。
(アキ)「それだけじゃないのよ。二人が飛び
込んだすぐその後に無数の蝶が舞い上がって」
(カズ)「へー」
(アキ)「最後にひときわ美しく大きな紫色の
蝶が二匹、空高く飛び去って行ったんだって」
(カズ)「で、その二人の死体は?」
(アキ)「それが、いくら探しても見つからなかったらしいの」
(ヒデ)「蝶になったんだ」
(アキ)「そう。天然記念物のあの蝶はその末裔よ」
(トラ)「そうか、この近辺にしかいないよな、
紫色のあのちょうちょ。とてもロマンチックですね」
急勾配、シフトダウンのギアの音。
サードで上る車の音。
(ヒデ)「かなりきつい坂だ」
(カズ)「白樺湖は通り過ぎた。もうちょっとで女神湖だ」
サードが続く。
(アキ)「姫ヶ淵、そこがUFOの基地だって言うのよこの人は」
(ヒデ)「うーん多分な。昔からそういう伝説がある」
(トラ)「それも面白いですね」
ターボのトップに入る。
(カズ)「見えてきた。あれが女神湖だ」
(アキ)「まあ、可愛い湖」
(ヒデ)「もう天まで届きそうだ」
(トラ)「夜空の星は、きっと素敵でしょうね」
(カズのナレーション)「高原ホテルとペンション街を離れると
人家はなく、訪ねる人もいない。女神湖畔の車止めに車を止めて
御泉水湿原林という所まで歩くことにした」
カッコウの声、小鳥のさえずり、
山鳩の飛び立つ音。砂利を踏む四人の足音。
(アキ)「まあきれい、見てみて、すずらんにキスゲ、しゃくなげよ」
(ヒデ)「それ、トリカブトじゃないの?」
(アキ)「まあ、トリカブトやリンドウはまだ早いわ」
水のせせらぎ。滝の音。
木橋を歩むみんなの足音。
(トラ)「きれいな滝だな」
(アキ)「冬は凍るんでしょうね?」
(カズ)「ああ、凍るさ。全てが綺麗にクリスタルの森になる」
変な鳥の鳴き声。急に飛び立つ大きな羽音。
(ヒデ)「何か、薄暗くなってきたみたい」
ふくろうの声。がま蛙の声。
気味の悪い声が不気味に響く。
みんなの砂利を歩く音。
(ヒデ)「もう疲れた戻ろうよ、日が暮れる」
(カズ)「そうだな腹も減ったことだし」
ふくろうの声。奇妙な鳥の声。
飛び立つ羽音。犬の遠吠え。
(アキ)「急ぎましょう!」
(皆)ああ」
砂利道を走る音。
(カズ)「こっちだ」
砂利道を走る音。
(カズ)「あそこに車が見える」
(ヒデ)「もう真っ暗だ」
足音がアスファルトに変わる。
(アキ)「やっと着いたわ」
(トラ)「あー、疲れた」
車のドアを開け、乗る音。ドアを閉める音。
(カズ)「やあ、ひと安心だ」
(アキ)「もう真っ暗。曇ってて星も見えない」
(皆)「ふう(ため息)」
(ヒデ)「・・ジュースあったよね?」
(アキ)「あ、ここ、ここ」
(カズ)「俺にもくれ」
ジュースを飲む音。
(ヒデ)「あー、うまい!」
(アキ)「私にも」
(カズ)「あー、うまかった。トラも飲めよ。ほら」
(トラ)「ああ、ありがとう」
ジュースを飲む音。
(アキ)「あー、おいしい」
トラが鼻で匂いを嗅いでいる。
(トラ)「(くんくん)?」
(ヒデ)「どうしたトラ?」
(トラ)「(くんくん)何か匂う」
(カズ)「えっ!何が?」
(トラ)「いや、すごく甘い、いい香りだよ」
(アキ)「そういえばさっき、ボート乗り場の林の中で
おじいさんが、落ち葉を燃やしていたわよ」
(ヒデ)「それだよ、それ!」
(トラ)「皆は、匂いませんか?」
(ヒデ)「そういえば・・・・・」
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