第9話 井戸が出来た!

「ただいま~」

 疲れきった声で廃屋に戻ると2人が駆け寄って来た。

「どうだった? 上手くいった? 」

 モニカが首をかしげながらこっちを見つめてきた。


「うん一応、建材とか全部はさすがに持って来れないから農耕具と苗床、土に含ませる肥料とかを荷車に乗せて持ってきた。建材とかはあとで街の大工さんたちが持ってきて一緒に家作り手伝ってくれるって! 」

 それを聞いた2人は不安そうにこちらを見つめる。

「大丈夫なんですか? 私たちみたいな魔物が一緒に居て」

 モニカが一緒に居ても平気なのか尋ねてきた。


「うん伝えておいたから大丈夫だと思うよ♪ ただ、攻撃的な態度はダメだからね」

 モニカに伝えたあとにユキにも同じ事を伝える。

「なんだ、それなら私たちが居ても大丈夫なんだね♪ ねぇライム、伝え忘れたんだけど鍛冶場の他に製鉄炉が欲しいんだけど…余分なお金ってある? 」

 ユキが申し訳なさそうにこちらを見てくる。


「そんなとこだと思ったよ…。大丈夫だよ、作ってもらうから。ただ次からは忘れない様にね! 」

 ユキの額を人差し指でつつくとユキはニコニコしながら「ごめ~ん」といっていた。

「ねぇライム、大工さん達はどのくらいでこっちに着くの? あと私が正妻だってこと忘れないでよね。ユキ、ワタシガ、セイサイ、ダカラネ! 」

 モニカが頬を膨らませながらユキと俺に話しかけてきた。

 

…? 最後の言葉が物凄くカタコトだったのだが?

 するとユキが「もう…少しライムといちゃいちゃしてただけなのに、モニカは嫉妬しちゃって…私だってライムの妻なのに…仕方ないなぁ~。ワカッタワヨ」

「ねぇ、どうして最後の言葉がカタコトなの? 」

 モニカに聞くとモニカは苦笑いをしながら


「実はライムが街に行ってるあいだに人の言葉を2人で覚えたんだけど、やっぱりまだカタコトだよね…でも頑張るよ! 」

 そういって手を胸の前でギュッとしてニッコリしている。

「ありがとう、そんなに真剣になってくれて嬉しい」

 そういって2人に抱きつくと2人共驚きながらも、しっかりと俺を受け止めてくれた。


「もう、こういうときだけ照れ隠しで人の言葉を使うのは、ズルいよ! 」とモニカから耳元で囁かれた。

 隣にいるユキからは「最後の言葉は分からなかったけど私たちは何時だってライムの力になりたいと思ってるから…だから困ったこととかがあったら私たちを頼ってね♪ 」と目尻に涙を浮かべながら腕の中で2人共微笑みかけてくれた。


「2人共、ありがとう! あとは大工さんがくるのを待つだけだね! 2人にさっそく相談なんだけど井戸を掘ろうと思うんだけど手伝ってくれる? 」

 それぞれに井戸を作りたいと伝えるとユキは、「ライムってムードを読めないというか空気が読めないというか…まぁ、そんなところも全部含めてライムなんだなって思うけど、さすがに今のは普通抱き寄せてるんだからキスをするとか、もう少し余韻を味わおうよ…」と言って、ユキが腕の中でジト目でこっちを見てくる。

「ごめん、そこまで気が回らなかった」


 ユキに謝ると隣のモニカが笑っている。

「どうしたの急に笑いだして? 」

 不思議そうに声をかけるとモニカは笑いながら「ごめん、ライム…ユキがライムになんて言ったのか分からないけど何となく分かるような気がして…それで怒られてるライムを見てたらおかしくて…」

 そういってモニカはまだ笑っている。


「何か釈然としない…じゃあ俺がユキに何て言われたのかモニカの予想でいいから教えてよ」

 モニカに聞くとモニカは

「悪気は無いんだよ、本当にごめん。ただライムは空気が読めないとか、雰囲気をぶち壊す様な事をしないでってユキに怒られてるんじゃないかなぁ~って思って、笑ってたんだけどごめんね、そんなこと無いよね? 」

 そういってモニカは申し訳なさそうにしているが大体当たっている。


「いや、当たってるよ…俺ってそんなに空気読めてないのかな…なんかショックだよ…」

 俺は肩を落としてうつむくとそこには2人の顔があって2人とも俺の顔を見てクスッと笑って両頬にキスをされた。

「? どういうこと? 何でいま俺はキスされたの? 」

 それぞれに話を聞くと

「「そういう鈍感なところも全部、全部大好きです! 」」と言って微笑んでくれた。

◆◇◆◇

「「ねぇライム、井戸を掘るのはいいんだけど掘る場所はどうやって決めるの? 」」

 後ろをついてきている2人が同じタイミングでどうやって水脈を見つけるのか聞いてくる。

「う~ん、っと簡単に説明すると、このL字ロッドって言われるもので辺りを歩いていると水脈の上に立つと持ってるロッドが外側に開くから、そこを簡易式の掘削機と削岩機を使って地面に穴を掘っていって水脈を掘って井戸にします。だから見つけるまで少し時間がかかるかも? 」

 そういって拠点となる廃屋の周辺をダウジングする。

 

まさかこの世界で俺の黒歴史が役に立つとは…何か複雑だなぁ~。

 そんなことを思っている俺を知ってか知らずか2人は俺が地面に書いたやり方を見て興味津々にしている。

「う~ん、なかなか反応が無いな…」

 廃屋の周辺には水脈が無いのか反応が無い。

「もう少し行ってみよっか」そういって近くの小川と廃屋の中間付近に着いた瞬間L字ロッドが外側に開き反応を示す。


 モニカとユキはロッドが反応したことに驚いている。

「ねぇねぇ、コレってここに水脈があるってこと? 」

 モニカが不思議そうにこちらを見つめてくる。

「100%じゃないけど確率は高いと思う、だからとりあえずここを掘ってみよう! 」

 

そう2人に伝えて3人で持ってきたスコップを用いて穴を掘っていく。

「ねぇライム、結構掘ったけどまだ水は出てこないね…」

 上の方からユキの声がする

「ユキ、オリル、イッショ、ホル」

 

モニカがカタコトの言葉でユキも降りて一緒に掘るように声をかけている。

「ツカレタ、ヤダ~」

 穴の淵に腰掛け足をブラブラさせている。

 2人の会話を聞きながら穴を掘り進めていくと何かにぶつかった…。


「ユキ~、岩盤に当たったみたいだから上にある削岩機を持って降りて手伝って! 」

 上にいるユキに声をかけると

「えぇー疲れたよ~」

 と言いながらもユキが縄梯子を降りてきてくれた。


「ほい、お待たせ! 」

 降りてきたユキは削岩機を岩盤に当てて起動させる。

「うぉぉぉぉぉぉぉっ、すっすごい震動! 」

 削岩機が岩盤を削っていく。


「よーし! 貫け~! 」

 ユキは削岩機を持って叫んでいる。

 削岩機を持っているせいなのか豊満なバストも震動していて正直顔をむける事が出来なかった…。

「あっ! もうすぐで岩盤を貫けそうです」

 モニカが地面を見つめて叫んでいる。


その瞬間、岩盤に亀裂が入る…。

 ピシッィィィ…。

 その亀裂から水が染み出てきた。

「ちょっ、ストップ、ストップ! 」

 

ユキに声をかけたが少しタイミングが遅かった…。

 亀裂から噴水の水のような勢いで噴き出してくる。

「うわっ、ちょっ、早く道具を持って上に上がるよ! 」声を2人にかけて俺は削岩機を止めさせて、その削岩機を持って2人を先に上がらせる。

 2人はスコップを持って縄梯子を昇っていく。


「やったー! 水が出た!!! 」

 いち早く昇って行ったユキが嬉しそうに昇ってきたモニカと手を合わせてピョンピョン跳ねている。俺もようやく上にあがりきり縄梯子を回収する。井戸の中を確認すると地表から3mぐらいのところで水の勢いは収まる。

「よしっ! 井戸が出来た! あとはこの水が飲めるかどうかが問題だなぁ~」

 そういって滑車を作り、井戸に手桶を入れて水をすくい投げる。


「私が確かめよっか? 」

 後ろから俺が持っている手桶を覗き込んできた。

「確かめるってどうやって? 」

 モニカに聞くと彼女いわく、毒素の有無や飲料水に適するかどうかが口に少し含むだけで判別が出来るみたいだ…。


「そんなことが出来るんだ…。それじゃあ頼んでもいい? 」

 モニカに聞くと

「任せてよ! 」

 と言って口に水を含むと親指を立ててウインクをしてきた。


「よっしゃぁ~! やっと井戸が出来たぞ! 」

「ミズガノメル~! 」

 俺は、叫ぶと同時に地面に寝転ぶ。ユキは水を飲みに井戸に向かう。

「よかったね! あとは家の完成を待つだけだね♪ 」

 そしてモニカは俺の隣に座り俺の髪を梳かしながら俺を覗き込んでくる。

 そう、あとは家の完成を待つだけ。







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