夏夜に見た悪夢

雨想 奏

モノローグ

ネクロフィリア

 日々募るばかりなストレスを解消するための一つとして、逃避、という手段がある。


 ファンタジー、SF、ミステリー、恋愛――


 多くの人は、趣味として、そんな、現実とは別な世界が描かれた創作物に触れて、癒やしを得たり、また、刺激を得たりする。


 現実からの逃避なんて言うと、みっともない、情けない、なんて言葉が返ってきそうだけど、人間、勉強や仕事にばかり精力を注いでいると、いつかダメになってしまう。


 ぜんまいが壊れた、人形のように。


 そうなってしまって、犯罪などに手を染めるなんかするよりは、一時のストレス解消になる、自分の好きな世界へと逃避して没入するのは、決して悪いことじゃないはずだ。


 ボクの場合は、たまたまそれが、現実に起きる、凶悪な殺人事件だったりするだけ。


 くだらなく他愛ない、同じような毎日が繰り返されるだけの、漫然とした日常。


 予定調和という名の、平穏。


 そういった惰性的に動かされてばかりなことに、もっともストレスを感じてしまうボクは、リアルな凶悪事件に触れることで、新鮮さと刺激を得ることで、耐え難い日々の退屈さをしのいでいる。


 そこには、創作物のホラーなどでは決して味わえない、スリルと甘美さがある。


 だけど、そんなことをしていて、逆にストレスにならないのか、みたいに聞かれることは多い。


 『より辛い現実を突きつけられて、まいってしまうだけなんじゃないか』って。


 ボクはそんな時、決まってこう答える。



 『死があるから、生があるんだろ? その死に触れていると、生きてるって実感できるんだよ』



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