第13話『タツキの決断』
俺は困惑していた。
というのも、深夜にいきなり起こされたかと思えば武器を渡され逃げろときたもんだ。これで冷静でいられるほうがどうかしているだろう。
一体なんだっていうんだ…。
このまま何も見なかったふりをして、もう一度眠りにつくことを考える。しかし、ここは二度寝したらまずいような気がしたので、とりあえず起きることにした。
「ふぁーあ」
俺はここで大きく伸びをする。こわばっていた体が弛緩していくのが心地よい。
そんな半ば寝ぼけた状態で耳に注意を向けてみると、もう日はとっくに暮れているというのに何やら外がガヤガヤと騒がしい。これが明らかにおかしい状況だということは寝ぼけている俺にだって分かる。
一体何があったのだろうか。
寝ぼけた頭で、起こされてからのの記憶をたどってみる。母さんは先ほど何と言っていたか…。
そうして、俺は記憶をたどろうとして眠りについてしまわないよう、細心の注意を払って少し前の記憶を思い返す。
――どうやら、村が反乱軍の襲撃にあっているみたいなんだよ――
母さんの非常に緊迫した様子の声が思い出された。
あれ?
ちょっとまてよ、これって結構やばいんじゃない!?
え?何?反乱軍が攻めてきてるって。
そういうのって、物語の中だけの話じゃないの?
別の意味で冷静でいられなくなってきた。今までは寝ぼけながらに困惑していただけだったところが、徐々に焦りを含んだ感情に変化していく。
なるほど、確かに反乱軍が攻めてきているのならこの深夜の騒ぎにも納得がいく。
……って冷静に分析している場合じゃない!!
「早く逃げないとっ!!」
俺は急いでベッドから飛び降りる。しかし、そこで俺の行動は止まってしまう。
そもそも逃げるってどこへ逃げるんだ?
反乱軍が、どこから攻めて来ているのか分からないというのに、どこを目指して逃げればいいなどと判断できるはずもない。
運に身を任せて適当な方向に走っていこうものなら、下手すると反乱軍にバッタリ遭遇なんて言う羽目になりかねない。
「ど、どうしたらいいんだ……」
途方に暮れてしまった俺は、一人で部屋に突っ立ったまま頭を抱える。
せめて母さんがどこに逃げたらいいかを教えてくれれば…。そんなことも思うが、今となっては後の祭りだ。
まぁ、もしここで自分の腕に自信がある魔物ならばこうはならないのだろうが、俺の実力は折り紙付である。もちろん悪い意味で。
もし、反乱軍と村人がタイマンで戦闘ということになれば、真っ先にやられるのは俺だろう。いや、俺だ。ここは断定形にしておく。
そんな俺よりも遥かに強い村人たちが必死に逃げているということは、その反乱軍の強さは相当なものだということだ。
まぁ、相手がどれほど強くても最弱の俺からすれば結局勝てないので関係のない話であるが…。
こんな時だが、俺は自分の弱さに一人萎える。
しかし、萎えている場合ではない。俺は自分の弱さを責めるのをやめると、これから取るべき行動を考える。
逃げるにしても方向が分からないからなぁ…。普通、こういう時はその場でじっとしているのがいいんだよな。山の中で遭難した時とか。逆に自分から外へと出ていく勇気がない。
外には反乱軍が存在しているのだ。それに比べて、うちは安全である。
そこまで考えた俺は、ベッドの下に引きこもってみる。
しばらくそこでじっとしてみるが、やはり不安はぬぐえない。
ドタドタと村人たちが逃げていく足音が心臓に悪い。
まるで、恐怖感だけが遥かに増大したかくれんぼをしているようだ。ただのかくれんぼですら、ヒヤヒヤするというのに、このかくれんぼの恐ろしさに関しては言うまでもないだろう。
ちなみに、遊び相手は反乱軍カタストロフ。見つかったら鬼交代ではなく、見つかったら人生終了だ。笑えない。
あー、なんかこのまま隠れててもなんかまずい気がするなぁ…。どうしたもんだろうか。
あーでもない、こーでもないと一人で考えをめぐらせる。
普段であれば考えても何も浮かばずに終わってしまうところだが、危機的状況に俺の頭が普段以上の働きをみせたのだろうか。なんとここで名案が浮かんだ!!
「そうだ、シュナちゃんに守ってもらおう!!」
我ながら完璧な提案だ。
今まで胸の中で渦巻いていた得体のしれないジメジメした不快感をもたらすものが、すっと失せていくのを感じる。
バジュラ最強の魔物であるシュナちゃんに守ってもらえれば、安心この上ない。男としては情けない態度かもしれないが、背に腹は代えられない。
死んだらそこで終わりなのだ!!
そうと決めたら善は急げだ、早くシュナちゃんに庇護してもらいにいかなければ!!
俺は、自分に外へ出る勇気が溢れ出してくるのを感じる。今までは、外というのはただの恐怖を感じる場所でしかなかったのが、一転希望の場所になったからだ。
俺は家を飛び出すと、一目散にシュナちゃんの住む家を目指して、混乱する村の中を村人の流れに乗って駆けだした。
ふと空を見上げると、空は正門のほうから上がった火によって怪しい明るさに包まれていた。
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