2-4-7 薫の射出槍?黒狼全滅?
拠点に戻ると、結界の外に6匹の黒狼が倒されていた。狼の数に圧倒されてこっちに気が回せなかったが、やはりこちらにも来ていたようだ。俺の結界は壊れていたが、美弥ちゃんの結界が生きているので大丈夫みたいだな。何か危険があれば、すぐコールしてくることになってたので、特に問題はなかったのだろう。
結界を解除して、美弥ちゃん先生が駆けつけてきた。
「龍馬君、お帰り! どうなったの? 急に狼たちいなくなっちゃったのよ?」
どうやら、黒王狼の遠吠えは【身体強化】されていても、ある程度離れると人の耳では聞こえていなかったようだ。
「狼のリーダーが、分が悪いと判断して、一時撤退の命令を出したようです。ここから3kmほどの場所で待機しているようですね。こっちにも来たようですが、怪我人とかは?」
「こっちは誰も怪我してないです」
「龍馬、一時撤退っていうことはまた襲ってくるのか?」
「三田村先輩、絶対とはいえませんけど、日が完全に落ちた後、闇に紛れて襲ってくるんだと思います。色が黒いので、夜来られたらめっちゃ厄介でしょうね」
「うゎ~、闇夜に鴉か! そりゃ見えんわな……どうするんだ?」
「そうですね、幸い俺たちは生活魔法の【ライト】持ちが多いでしょ? 襲ってきたら、一斉に放って目を潰しましょう。後はサクッと狩るだけです」
「なんか、聞いた感じでは簡単そうだが、そう上手くいくか?」
「どうでしょう? やってみてダメなら、これまでのように俺が魔法で全部倒します。毎晩こられて寝れないとかウザいですからね」
「確かにそれは嫌だな……今日はこれからどうするんだ?」
「もう日が暮れるので、このままここにテント設営ですかね。男子のテントも、今晩は密集した中に張ってもらいます。高畑先生、良いですね?」
「ええ、仕方ないでしょう。排卵周期中の者に近寄らせなければ問題ないのでしょ?」
「ええ、彼らのことはある程度俺も信用しています。何かやらかしたら、チョッキン刑ですので、そんなに警戒はいらないでしょう。それと、今晩はうちの戦闘班もテントで野営することにします」
「それは安心ね。そうしてくれると気分的に有り難いわ。よろしくね」
皆も慣れたもので、15分ほどでテント設営が完了する。いつ襲ってくるか分からないので、夕飯も早めに済ませる。当然、今晩は学園にあった保存食とスープのみだ。
スープを啜っていたら、薫がこっちをちらちら見ている。何か言いたそうなんだが、なんだ?
『……成程、どうやらマスターの造った武器が欲しいようですね』
『薫の武器も良い武器だぞ? オークキングの装備武器をあげた時は凄く喜んでいたはずだが?』
『……あの槍を薫にあげた時は、あれが一番良い武器だったので、とても喜んでいたでしょうけど、今日皆がマスターの武器を所持しているのを見て、雅に聞いてしまったのです。皆と一緒が良いと思うのは当然じゃないですか?』
『そうか、何か言いたそうなのは、自分にも作って欲しいと言い出せないでいるんだな?』
『……そのようですね。凄く作って欲しいのに遠慮なんかして、可愛いじゃないですか』
「薫ちゃん、ちょっとおいで!」
「龍馬先輩なんですか?」
「今日戦闘見てたけど、穂香といい連携だったよ。凄く槍の扱いも上手くなっているね?」
「ホントですか? 嬉しいです! 一生懸命練習していますので、褒められると凄く嬉しいです!」
「薫ちゃんの槍なんだけど、元々男性用の槍なので、薫ちゃんの手のサイズに合っていないんだよね。ちょっと長さも握り部分の太さも、中1の薫ちゃんには大きすぎるんだよ。今からちょっと造り替えてあげるけど、どうする? その槍、気に入ってるようだから、そのままが良いって言うならそれでも別にいいけど、使い辛いなら打ち直してあげるよ?」
「龍馬先輩の造った武器が良いです! 私、先輩の武器が欲しいです!」
近くでこのやり取りを見ていた、フィリアや桜はニヤニヤしている。
「武器を作ってやるのは良いのですが、兄様はそうやってまた愛想を振りまいて嫁を増やすつもりなのですか?」
また、お前は女子が絡むと不機嫌になって……面倒な妹だ。
「サイズの合ってない武器を使うのは危険だからな。早めに手直ししてあげるんだよ」
「ん、龍馬は優しいから、薫の欲しそうな視線に気づいて、自分から言ってくれた」
この娘は……それ言っちゃったら全部台無しだろ。恥ずかしいことを言うんじゃない。
「龍馬先輩ありがとう! 皆より良い武器を先にもらっているのに、私も作って欲しいとか言えなかったんです」
「ん、私が後で言ってやるつもりだったけど、龍馬はやっぱり良い男。ちゃんと先に気付いてくれた」
「雅、あまりそういう恥ずかしいことをさらっと言うな」
「ん、照れくさい?」
「うん。照れくさいし、ガラじゃない」
「ん、じゃぁ~気を付ける」
食後にログハウスの鍛冶場に行き、40分ほどで薫専用武器を造ってあげた。
【鬼灯(ほおずき)】
穂(刃部)(ブラックメタル90%・ミスリル5%・鋼5%)
柄部(ブラックメタル40%・ミスリル30%・鋼30%)
武器特性
・穂先部は槍の中に普段は収納されている
・手元のスイッチで穂先を出すことと、射出することができる
・射出必中距離は20m、噴出動力は魔石を利用した圧縮空気を利用する
・穂先部分は10秒後に自動転移で槍の柄内部に戻る
・結界を切ることができる
付加エンチャント
穂(刃部)
・結界切断
・自動転移
・自動修復
・個人認証
柄部
・硬度強化
・重量半減
・自動修復
・個人認証
面白いモノが出来た。
なんと槍の先端が射出でき、飛び道具にもなるのだ。
普段はうっかり人を傷つけないように、柄の内部に穂先を収納することにした。
最初、穂先部分の保護はカバーケースにしようかと思ったのだが、付与魔法や魔石を使った魔道具があるのだから、どうせならと思い、面白いギミック武器にしてみたのだ。
薫を呼び出し、武器を渡してあげる。
「武器出来たよ。銘を【鬼灯(ほおずき)】って名にした」
「どういう意味があるのですか?」
「いろいろ掛けてるんだけどね。鬼って字が雅の刀に掛かってるんだ、それと頬突きって当て字的な意味もある。砲付きって意味も掛けてるんだけどね」
「雅ちゃんの般若とか夜叉とかいうやつですか?」
「うん。薫ちゃんの身長と、手の大きさに合わせたので、前のより使いやすくなったはずだよ」
「少し短くなったんですね? 刃が無くなって棍棒ですか?」
「違うよ、そこの手元にあるスイッチを押してみて」
カシャンという音とともに刃が槍の穂先に出てきた。
「刃の部分は内蔵になったんですね! カッコいいです! 槍としても棒としても使えるのですね!」
「まだあるよ、危険なので気を付けてね。さっきのスイッチに魔力を込めたらその穂先が射出されるんだよ。人のいないあっちに射出してみて」
「魔力を込めるのですね?」
『バシュッ!』と結構大きな圧縮音とともに穂先が闇に消えていった。
「ああっ! 先っぽが飛んで行っちゃいました!」
「ふふふ、大丈夫だよ。10秒で穂香の盾のナイフみたいに自動で返ってくるから」
魔力反応が有り、カシャっという音が聞こえた。ちゃんと内部に自動転移されたようだ。
「外ではなく内部に戻るのですね?」
「うん。穂先が戻るまでの10秒間と、刃を再度出すまでの間は、柄の部分だけになっちゃうけど、棍棒のように扱えばいいからね。その素材はブラックメタルという素材なので、絶対折れたり曲がったりしないから」
「カッコいいです! 遠距離攻撃もできるようになったのですね! 嬉しいです!」
「穂香の盾のナイフと同じで、射出と回収にMPを使うから魔力切れに注意ね。射出時は周りをちゃんと見るんだよ。仲間に当てると笑えないからね。それと必中距離は20mぐらいだけど、飛距離自体は100mほどあるので練習すればもっと離れてても当てられるようになるよ。ちゃんと練習するようにね」
「うん、分かった! 龍馬先輩ありがとう!」
穂先と柄の部分にある龍馬印に血を垂らして、個人認証させる。
スイッチを押しても、薫以外は反応しないようになった。これで完全にこの槍は薫専用だ。
夜10:30過ぎにヤツらは再度やって来た。
こちらに優秀な探索魔法があるとも知らず、忍び足で姿勢を低くして忍び寄ってきている。だが、こちらは奴らが動き出したと同時に全員起こして、戦闘態勢に入って待ち構えているのだ。
普段は幾つか出している【ライト】も今は1つも出していない。
俺と非戦闘組の数名以外は全員目を瞑って、手で目を塞いで待機している。目を開けている者たちは、俺の指示で【ライト】を最大光量でフラッシュのように発動させる者たちだ。
狼たちの先頭が30mを切ったので、手を1回叩き【ライト】発動の合図を出した。きっちり3秒後にタイミングのあった閃光が起こる。
俺も片手で覆って目を保護していたが、それでも瞼に明るさを感じたほどだ。もう片手は、ハティの目を守ってあげていた。手で覆っていてこれなのだ、瞼をタイミングよく閉じていたとしても、瞼越しに目に光が焼き付いてしまっているだろう。
「皆、GOだ!」
狼たちは目をやられ身動きできず、忍び足状態のままその場で硬直していた。
俺たちの足音で危険を察知したようで、何頭かは体を反転させて逃げの姿勢を見せたが、盲目状態じゃ全力で逃げられない。
【身体強化】MAXの俺たちにあっという間に狩られていく。俺は既に全部の狼にマーキングを入れ終わっている。倒そうと思えばすぐにでも倒せるのだが、皆に戦闘訓練をさせているのだ。
薫も渡したばかりの槍を上手く使いこなしているようだ。近くにいる奴は槍で突き刺し、逃げ出したヤツは射出で穂先を飛ばして倒している。ガントレット組も、上手く殴り倒しているようだ。ギミックの針で頭部を殴って、脳を直接破壊している。
三月先輩はわざと足の脛当てを噛ませて、その隙に上から頭部を針で殴って一撃で倒していた……上手い。
剣道部員も切れ味に一喜一憂してノリノリのようだ。生き物を殺しているんだから、もう少し彼らは自重してほしいな。
ウォーン! また遠吠えだ!
『……マスター、タイムリミットです』
ナビーの合図が出たので、俺の多重魔法を発動する。上級魔法の【ウィンダガカッター】を逃走し始めた狼に撃ち込んだ。一瞬で一頭を残して殲滅する。
「ハティ!」
「ミャン! ミャオーーン!」
ハティのめっちゃ可愛いハスキーな遠吠えが響き渡る。ハティを使って、あえて残した一頭にメッセージを送らせたのだ。勿論、俺が残したのは黒王狼だ。ハティの発した遠吠えは、狼が縄張りを主張する意思表示。
つまり狼的に捉えると挑戦的に『カカッテコイヤー!』的な意味がある。
ヤツはそれに答えたようだ。
馬くらいありそうな真っ黒な狼が、俺の下にやって来た。
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