1-8-8 雅、消沈?桜、歎美?
華道室で雅を膝の上で抱っこしながら、少し俺の秘密を話した。他の嫁候補の娘たちも来たがったが、やんわりと断った。
「ん、凄い。【魔法創造】チートすぎる」
「このことはフィリア、奈菜、美咲先輩しか教えていないことなので、皆には秘密だぞ?」
「ん? 桜とか沙織には教えてあげないの? 穂香も知らないんだよね?」
「コピーできる数に上限があるんだよ。レアスキルほどコピー回数が少ない。連弾魔法がそれにあたる。魔法職の人にあげないといけないから、雅は我慢してくれな。代わりに近接から中間距離に役立つスキルは全部コピーしてやるからな」
「ん、時間停止の【亜空間倉庫】も欲しい。ダメ?」
「ああ、そういうのも全部コピーしてやるぞ。【無詠唱】や【マジックシールド】や各種回復もコピーしてあげるからな」
「ん、いいの?」
「勿論いいぞ」
「ん、桜たちは?」
「彼女たちは悪いがまだ話せない……」
「ん、どうして?」
「いくら結婚してくれるとか言ってくれてても、知り合って1週間しか経っていないんだぞ? 桜なんてまだ手すら握ってない。俺は吊り橋効果を心配しているんだよ……いざ街に着いて彼女たちが安堵して、不意に冷静になった時に『どうして触れたこともない人と結婚しようと思ったのだろう?』とかありそうで怖いんだ」
「ん、吊り橋効果……ありそう」
「雅にもそれは当てはまるんだけど。もしそうでも、雅ならまぁスキルあげても良いかなって思ってね。後で、やっぱ婚約なし……ごめんなさいでも、別にスキルあげても惜しくないと思ったんだよ」
「ん、龍馬は逃がさない。約束したし、お風呂も一緒したんだから絶対結婚する」
「あくまで仮定の話だよ。もし雅の心変わりがあって離れることになっても、スキルはコピーしてあげても全然惜しくないって話。だから、スキルあげたからとかで縛る気は一切ないので、他に好きな人ができても俺に気兼ねしなくていいからな」
有用なスキルは粗方コピーしてあげた。
雅はタブレットを開いて、ステータスを眺めて悔しそうにつぶやいた。
「ん、最初から信用してコピーしてほしかった……最初から増量系パッシブを得ていたフィリアと菜奈に凄い差がついちゃった」
【獲得AP増量】【獲得HP増量】【獲得MP増量】のことだな……これらはレベルアップ時に得られるAPやHP・MPが増量される効果のあるものだ。確かにLv1から得ているのと、Lv20を超えてからでは得られるステータス補正値が格段に違ってくる。戦闘狂の気がある雅にすれば凄く残念で悔しいのだろう。
「ごめんよ。『私も欲しい!』『何で私はダメなの?』とか詰め寄られたら困るから、言えなかったんだよ」
「ん、それは分かってる……でも」
雅は現在種族レベル23、補正値を得られなかった分がどうしても惜しいようだ。
「雅、俺も最初からあったわけじゃないからな。最初は振れるAPも少なかったから持ってなかったんだ。そうむくれないでほしい。代りに雅専用武器を作ってやるから」
「ん? 私の専用武器? 今のより良い物?」
「ああ、キングのコロニーで希少金属のインゴットが手に入ったからね。凄いのを造ってやろうと思っている」
「ん、美咲先輩の斬鉄剣より凄いのが欲しい」
「いやいや、あれは無理だろ? あれ、フィリアが直接神力使って創った神器だぞ? 幾ら何でもハードル高いって」
「ん、龍馬ならできる」
なんかめっちゃ期待されてる……雅の目が爛々と輝いてる。
「まぁ、頑張るよ」
「ん、私の斬鉄剣いつできるの?」
「だから斬鉄剣は無理だって……それに炉を造るのに耐火煉瓦用の土が要るんだ。明日、桜と採ってくるのでそれ以降になるな。ここを出発するまでには造ってやるからな」
「ん、私も明日一緒に行く」
「ああ、ごめん。明日は桜との親睦を深めたいって意図があるんだ……実際婚約したけど、手すら触れてないからね。桜がどこまで本気なのかちょっと不安なんだよ。雅のように本気なのが感じ取れたのなら、桜にも出発前に戦力増強してあげたいのでいろいろコピーしてやろうと思っている」
すごーく雅が不機嫌になった。恋敵と親睦を深めたいからついてくるなと言われたら、そりゃーね。でも一夫多妻のハーレムを受け入れたのだから、その辺は気持ちの折り合いをつけてくれないとね。
俺は好きな子を他の男とシェアとか無理だけど……自己中でごめんなさい。
それから少し不機嫌な雅を宥める為にお風呂に誘って、俺の最終兵器の【アクアフロー】を施した。
雅の体に先天性的な病がないかとかのチェックも兼ねていたのだが、どこもおかしなところもなく健康優良児で良かった。成長もちょっと遅いだけで安心した。
「ンミャー! 痛い! でもイタ気持ちいい!」
「ここ数日、雅は最前線で頑張っていたからね。疲れが相当溜まってるんだよ。筋肉痛も酷かったんだな。これからは我慢しないですぐに俺に言うんだぞ」
「ん、分かった。これ凄くいい♪」
俺もやり方を雅に教えてマッサージをしてもらった。菜奈やフィリアとまた違う気持ち良さがある。雅の手は小さいので、親指での指圧がピンポイントで刺さる感じだ。マッサージの仕方にも皆それぞれに個性が出て凄くいい。マッサージをしてもらいながら、雅にあるお願いをする。
「雅、ちょっとフィリアのことが心配だから、雅の個人香でそれとなく癒してやってほしい」
「ん、今日の全体集会も凄く辛そうだった」
「雅はやっぱりよく周りを見ているんだな。料理部全員から、フィリアは謝罪や身バレなどの行為は禁止されているからな。皆の集まる場では、終始無言でなんか感情を抑えて辛そうなんだよ」
「ん、それとなくフィリアにくっついて、個人香効果でリラックスさせておくね」
「ありがとう。お願いね」
その日の夕方、三田村先輩からコール機能で連絡があった。柴崎さんの【身体強化】をLv10にし、種族レベルも15まで上がったと報告してきたのだ。
「三田村先輩、子守ご苦労様でした。で、彼女どうです?」
『自分で役に立つって言ってただけはあるな。彼女かなりやるぞ……既に剣道部の女子と同じくらい強い』
「やっぱそうでしたか。MMO歴の長い人って全体の動きを客観的に上から見たように冷静に即時判断ができるんですよ。周りがよく見えているって言ったほうがいいかな。剣道部のように1対1の試合で慣れてしまっている人はタイマン勝負にはかなり強いけど、集団戦では死角からの攻撃や、倒す優先順位なんかが分かっていないから、どうしても初動が出遅れるんですよね」
『成程な……俺も指示出しが苦手なのが今日分かったよ。パーティーリーダーの器じゃないって、料理部の女の子たちにダメだしされた』
「優ちゃんの駄目だしか……ご愁傷様でした。でも、1秒の遅れで死人が出ますからね。そういうのは少しでも優れている人に任せた方が良いです。三田村先輩はパーティーリーダーより生徒会長とかの方が似合ってますよ」
『俺をからかってるのか? そんなの無理に決まっているだろ』
う~ん。PTLと生徒会長は全く別物なんだけどな……俺はPTL向き、桜はどっちもいけるけど、どっちかと言うと生徒会長向きかな。
指示出しが瞬時にできるのと、皆を纏め上げるのでは求められる能力が違うのだ。PTLぐらいだったら、正確な即時判断ができればいい。でも生徒会長には人望や人徳、信頼が要る。信頼は努力で得られるけど、人望や人徳は持って生まれた資質も大きい。誰もが得られるものではないのだ。
今日の夕飯にささやかなキング討伐パーティーを行った。キングやクイーンのお肉で豚尽くしのフルコースが料理部の手によって出された。美咲先輩と高畑先生、主戦力組のPTLの岡村先輩と、三田村先輩も呼んであげた。
「申し訳ないですが、皆に配布するだけの分量がないので、リーダー会議と称して三人だけお呼びしました。他の者に申し訳ないと思わず、重責を買ってでているちょっとした褒賞と思って存分にお食べ下さい」
「皆に悪いって気持ちはあるけど、俺は遠慮なく食べていくぞ。見てるだけで涎が出そうだ」
「三田村先輩、それで正解です。どのみち全員分はないのですから、俺ラッキーと思って素直に喜んで美味しく食べた方が良いんですよ。申し訳なさそうに食べていたら、料理部の女子に嫌われちゃいますよ?」
今ここにいる男子は俺と、三田村先輩の二人だけ……当然こういう反応が返ってくる。
「龍馬お前、羨ましすぎる……リア充爆死しろ!」
爆発通り越して即死しろと?
まぁ、気持ちは分かります。それほど羨ましいシチュなのは理解しています。菜奈様々です。たまたま妹が所属してた部が美少女集団だっただけです。
「冷めないうちに頂きましょ。龍馬君一言お願い」
折角の料理が冷めるのが許せない茜が話を進めてきた。
「国王が賞金を懸けるほどのお肉だそうです。数がないのでキングとクイーンはこれが最後と思って味わって食べてください。残っている分はあるのですが、王命で賞金を懸けているってことは暗黙的に国に納めろって言ってるのと同義なので、本来王族でもない限り口にできないモノなのだと思います。『知らなかったんだもん!』ととぼけるつもりですが、手土産代わりに渡すのも交渉材料になるかもと思うので、残りは保管しておきます。なので、今回の分は存分に味わいましょう。皆、無事でキング討伐ができたこをささやかに祝いましょう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
俺の乾杯の音頭で始まった宴だが、皆一口食べて絶句した。
先ずはキングとクイーンのステーキだ。間違いなく今まで食った肉の中で一番旨い。キング派とクイーン派とで分かれるが、俺はクイーン派かな。コクと肉の旨味はキングの方がある。だが肉汁と軟らかさはクイーンの方が良い。俺は噛んだ時にジュワーッとでるクイーンの肉汁に撃沈した。
「美味しいなこれ……でも日本じゃ味わえないんだよな。そう思うと感慨深いな」
「龍馬! 呼んでくれてありがとう! マジありがとう!」
三田村先輩、泣くほどですか!?
美咲先輩も喜んでくれて上々だ。フィリアも皆の笑顔のおかげで微笑みも戻ったようだ。ずっとフィリアの横でいてくれてた雅には感謝だな。
「今度のお肉はジェネラルよ。とんかつにしてみたけどどうかな?」
桜がやたらと興奮気味に料理の解説をしてくれた。
とんかつも旨い、ジェネラルもオークションに懸けられるお肉なのだ。やはり旨い。
キングの討伐祝いは盛況に終えることができた。
毎日こうだと良いな……と思いつつ、祝宴会もお開きとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます