1-8-5 戦利品の分配事情?問題児はやはり問題児?
戦利品を分け与えるという俺の意見を聞いて、皆のいろんな思惑で場が騒然となる。
「ねぇ、龍馬君。具体的にあなたはどれくらいの量を分けてあげる気でいるの?」
料理部員の将来に係わってくるので、桜が真っ先に聞いてきた。お宝を総取りすれば料理部員は安泰なのだからしょうがない。
「分ける量に関しては、料理部員の皆に任せるつもりだけど、参考までに俺の意見を聞いてくれるなら、1つの例として案をだしたい」
・現金は50万ジェニー残して全てあげる
・武器・防具等はうちの組で欲しい者だけ各自取ったら残りは全部あげる
・宝石・アクセサリー類はうちで全部頂く
・ゴブリンやコボルド等から獲れた屑魔石は必要分を残して全部あげる
・上位種の魔石は俺が個人で全部頂く
・キング・クイーン・プリースト・ジェネラル・ナイト以外のオーク肉は全てあげる
「「「あげすぎ! 却下です!」」」
あげすぎだと料理部の娘たち全員に怒られてしまった。ここで他のリーダーたちが意見を入れてくる。
「確かにそれだけ出してくれるなら嬉しいんだけど、俺的にもそれはどうかと思うぞ?」
「え? 多いってことですか?」
「そうね、うちとしては貰えるなら貰えるだけ欲しいけど、その条件だと料理部の娘たちが納得できないのも分かるわ」
「高畑先生もそう思われるのですか?」
「だって命懸けで手に入れたのでしょ? 柳生さんからそう聞いていますよ? うちから参加したのは柳生さんだけだし、命懸けで得た報酬を惜しげもなく皆にあげたら怒られて当然かな? リーダーとしてどうかとも思う。その資金次第でパーティーの将来も楽に暮らせるか左右されるでしょ?」
料理部の娘たちもウンウンと激しく頷いている。
じゃあ、ここらで俺の本心と意思を伝えときますかね。何故この時点で何もしていない奴らにここまで譲歩して分け与えるのか――
「桜たちのあげ過ぎって気持ちも分かるんだけど、敢えてうちの取り分は少なくしてある。宝石は売れば価値はあるけど加工前の原石が殆どだからそれほどの値にはならないしね。鑑定してみたんだけど、こっちの世界は地球より一杯採れるので目が点になるほど高価じゃないんだ。むしろ武器の方が高い。只、皆のご褒美に宝石は俺が後で綺麗に加工してプレゼントしてあげるつもりなので全部貰うことにしたんだ。現金は1億ちょっとあるので、向こうに着いても体育館の組もお金に困ることはないだろう。ミスリル製やオリハルコン製の武器はうちで貰うけど、格技場や体育館の主戦力組には戦力強化の為にも分配するつもりでいる」
「だからどうしてそこまでしてあげるのよ? あなた言っていたじゃない! お金は今後の活動資金として幾らあっても良いのでうちでキングのコロニーは落としてお宝は必ず総取りだって」
「うん、そのつもりだったんだけどね。でも、俺と桜がいる限り、うちのメンバーがお金に困ることはないかなって」
「ん、もしもフォルダ!」
「それもあるし、町に着くまでに狩った魔獣素材を売ればお金もどうにかなると思うんだ」
「そうなの?」
「で、兄様……本音は?」
うっ……流石我が妹よ。なんか見透かされている。
「あはは、流石菜奈。まぁ本音を言うと、他のグループの皆が暫く生活できるだけの資金を与えて、後は一切知らないって言いたいんだ」
「街に着いたら、後は見捨てるってことか?」
「三田村先輩、その言い方おかしくないですか? 俺は十分生活できる資金を先に与えるのですよ? ハローワークでも加入年数にもよりますが90日分の日当分程度しか支給してくれないのですよ? 逆に聞きますが赤の他人の面倒を俺にずっと見ろってことですか? 先に言っておきますがそんなの真っ平御免です。その為の先渡しの生活資金です。なくなったからくれと言ってくる奴は必ずいます。現に女子寮組がそうでした。体育館組の大影さんもそうですよね。自分は何もしないで人が先に手に入れた物を平気で寄こせと言ってくる。料理部の娘の中には優しい子が何人かいて、そういう非常識な奴らでも見捨てられない娘がいるのです。その娘たちにウル目で助けてあげて~ってお願いされたら、凄く断りにくいのですよ。前渡しの手切れ金と思ってもらって結構です。なので町に到着後はこっちのメンバーに変にタカってこないようにしてもらいます」
「成程な……小鳥遊の言い分も分からんでもない。体育館での女子の言いがかりは、俺も聞いていて『何言ってんだ?』って思ったしな。でも、仕事がなくて本当に困ってても知らん顔するのか? それに90日分の支給とか言ってたのって失業保険とかいうやつだろ? 最近うちの兄貴が言ってたから知ってたけど、お前そんな知識どこから仕入れたんだ」
「仕事は選好みさえしなければ、幾らでもありますよ。要はやる気があるかないかです。この世界ではマジで働かざる者食うべからずの世界なので、鬱で仕事できないとか、ニートとか引き籠りなんか一切いないです。親の言う事を聞かないで働かない子供は奴隷商に売られます。働けなくなった老人は養えるだけの資金のない家庭では口減らしの為に泣く泣く死んでもらうそうです。神殿での安楽死だそうですが切ない話ですね。伝承や伝説としてですけど、日本でも姥捨て山とか田舎の方ではあったそうですから、こちらの世界ではもっと切実で深刻です」
「働かざる者食うべからずか……。国の社会保障が良くないのか? お前のその知識はどこで仕入れたんだ? 学校では習わないよな?」
「まぁ、俺の知識はちょっと変わった弁護士に強制的に教え込まれたもので、『学校では習わない、知ってないと損する豆知識』だそうです。高額医療制度や出産祝い金なんか、本来誰でも貰えるものだけど、申請しないと給付されない国や県の助成金なんかをいろいろ叩き込まれました。家の壁が壊れた時とかにも、初回限定で助成金が出るの知ってますか? 有用な知識は宝だと俺は思っています」
「知識は宝か、確かにそうだな。要はお前が言いたいことは、金がなくなる前に働けってことか?」
「ですね。何せ俺たち異世界人は、勇者補正のAPポイント制のスキル獲得ができるんですから、冒険者でもやれば楽に稼げるんですよ。それなのに何もしないで、お金がなくなったから助けてほしいとか言われても、そんなに動きたくないなら娼館にでも行って体売って稼げよって話です。娼婦ならベッドで寝てるだけでいいですからね」
「う~ん、なんか納得できない!」
「桜は何がそんなに不満なんだ?」
「手切れ金とか言ってるけど、そもそもそんなお金うちの方からあげる必要もないのよ? 逆に出世払い契約でもいいから町までの護衛料を貰いたいくらいだわ。うちの組で家を借りるにも、何か商売をするにも元手が要るってあなたも言ってたじゃない」
正論で返す言葉もない。
でも、ダメな奴らは必ず出てきて足を引っ張ってくる。
「100人も人が集まれば必ず足を引っ張る奴が出てくる。甘々な日本で育って未だに甘い考えを持ってるんだよ。香水付けてたチャラそうな女子たちとか真っ先に娼館行きになりそうだよね? そういう奴らをのちに切り捨てやすくするための、俺の個人的な事前処置と思ってくれると有難いかな」
料理部の子たちは、やはり無条件で大金をあげるのは気に入らないのか、いつもは可愛い顔が今はしかめっ面だ。
「同じ学園の仲間と思えば良いんじゃないかな?」
「「「甘々な美弥ちゃん先生は黙ってて!」」」
「あぅっ……私、先生なのに、先生なのに……グスン」
「美弥ちゃんは放っておくとして、料理部の皆は何も心配しないでいい。パラサイトは許さないけど、自立できるまでは俺が責任を持って面倒を見て養ってあげるから」
「「「キャー! 龍馬先輩カッコいい!」」」
「ん! 一生ついていく!」
「先生も養ってよ! 見捨てないでよね、ネ、ネ!」
「兄様……なんか腹立つ!」
「はぁ~、あなた天然ジゴロね。先が思いやられるわ」
「綺麗ごと言っても仕方ないから本音を言うけど、甘々な日本の子供がチートを手に入れて異世界に来たんだ。必ずと言っていい……こちらの世界の打算的な大人に何人かは騙されて酷い目に遭うはずだ。隷属の首輪とか奴隷紋という魔法とかで、精神支配を受けるような魔法まであるんだぞ。甘い言葉にホイホイ付いていってたら気づいた時には娼婦にされてたとか、隷属の首輪を嵌められて一切逆らえないようになっていたとかいう奴が出てくるはずだ。そんな馬鹿どもをいちいち助ける義理もないし、助けたくもない。だから、今のうちに生活資金をあげるから、後は自己責任で自活してほしいというのが本音だ。後のトラブルは一切関知しないという意思表示だ」
料理部の皆には俺が必ず面倒を見るからという約束をして納得してもらった。
体育館組の代表で来ている高畑先生には、料理部のメンバーに町に行った際に一切迷惑行為をしないと確約してもらった。口約束なのだが、今後何かあったとしても、俺の良心が痛まなくてすむ。
午後から産床にされていた女子たちの【身体強化】のレベル上げを行う為に集まってもらった。
「では、オークを捕らえてきたので、柴崎先輩は後2レベルアップ、他は1レベルアップして【身体強化】をLv5まで上げてもらいます。そうしないと草原で俺たちに付いてくるのもままならないでしょうからね」
コロニーでの生き残りの11名とレイドPTを組み、経験値均等割りでオークを3頭殺した時点で皆のレベルが上がった。【身体強化】にポイントを振ってもらい、現実世界に帰ってくる。皆のステータスを確認してちゃんと【身体強化】Lv5が付いているか最終チェックをする。
ここで問題が発覚する。
例の柴崎友美だ――前回俺の話を無視して【剣術】に全振りして俺と少し揉めた人だ。また【身体強化】に振らず、聖属性の初級回復魔法の【治癒回復】をLv3にしてきている。
「柴崎さん、どういうことです? 昨日凄く反省してくれていたのじゃないのですか?」
「ああ~ごめんごめん。まだオークはこんなに残っているのだから別にいいでしょ? 次で獲得してくるわ」
「そうですか、残念です」
舐めた女だ。全くいまの現状を理解していない。
いや、ちゃんと分かっていてやっている。単に俺を舐めてかかっているのだ。
いま組んでるレイドPTを解散し、格技場男子と料理部B班、体育館組の主戦力にパーティー申請を飛ばし新たなレイドPTに誘う。
「あの? 残念ってどういうこと? 私にもパーティー申請飛ばしてよ」
彼女が何やら言っているが知ったこっちゃない。
申請を出した人が全員PTにいるのを確認してオークと繋がっている【魔糸】を引っ張り、わざと彼女の面前で残ってたオーク49頭の首を中級魔法の【ウィンダラカッター】の【多重詠唱】で一斉に狩り落とした。当然彼女はオーク49頭分の首から噴水のように噴出した血飛沫をシャワーのように浴びる。で、俺たちレイドPTは現在レベルアップして白黒世界の状態だ。
「おい小鳥遊……さっきのはやり過ぎじゃないか?」
「あ!?」
「いや、俺に怒るなよ! 気持ちは分からんでもないが……流石にさっきのはやり過ぎかな~と。それに残ってたオークを全部狩りつくしたってことは、彼女は見捨てるのか?」
「昨日の時点であの女には個人的に呼び出してまで説明してあげているんだぞ? そして彼女は昨日の時点では理解して反省してくれていた。ちゃんと謝罪してくれたので昨日の件は別にいい。なのにまた無視して自分のことしか考えないで回復スキルを取ってきてた。俺はもう彼女のことは一切知らない! 気になるなら三田村先輩が面倒見てあげてください。元新体操部だそうでスタイル良いし、顔も可愛いから先輩は気になっているのでしょうが、出発時刻までに【身体強化】がLv5に達してなかったら約束どおり彼女は置いて行きます。教員棟か男子寮に庇護を求めればいいだけの話ですし、もう俺の知ったこっちゃないです」
レベルアップした人に好きなスキルを獲得させ現実世界に戻ってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます