1-7-4 ハティのお仕事?3対3の死闘?
その後の話し合いで大まかな案は俺の意見通りになった。料理部のみんなからは凄く怒られたけどね。
男子を見捨てて行くことに凄く悩んで心を痛めていたそうだ。男子までレベルを上げるには魔獣が足らない。かといってそのまま連れて行くにはレベルが低すぎて危険だし守りきれない。下手したらそのせいで仲間が死ぬ。
自分の感情に蓋をして見捨てる覚悟をしたのに、実際は何とかなりそうなことだったのが凄く腹立たしいそうだ。『もっと早く教えてくれればここまで悩まなくて辛い思いをしなくても済んだじゃない!』ということらしい。
俺からすれば自分でもっと考えて悩んでほしいとは思う。なんでも他人任せはダメだ。万が一の非常事態を常に色々考えておいてほしいのだ。
お昼のカレータイムになったのだが、皆から歓喜の声が上がった。確かにこのカレーはめちゃくちゃ旨い。食堂で出されていたカレーと全く違う。同じ材料なのに、凄いとしか言いようがない。お替り三杯しました。流石だ変態料理部! 中学生だけで作ったとは思えない。
その分、格技場の野郎どもには睨まれてしまった。美少女に囲まれてるだけでもあれなのに、こんな旨いもんを毎日食って、おまけに城崎さんと結婚だと! リア充、爆発しろということらしい。
食事を終えて満足してくつろいでいたら、目敏く見ていた女子の一人が俺に聞いてきた。
「あの小鳥遊君? 食事を持ってきてくれた女の子がさっき持っていたの何かな? いま小鳥遊君の服の中にいるよね?」
体育館に入る前にアレルギーがある人とかいたらいけないかとも思い、ハティを沙希ちゃんに預けておいたのだが、全員こっちに来たので一緒に連れてきたのだ。どうやらその時の受け渡しを見ていたようだ。
「見ちゃいましたか?」
「見ちゃいました。なんか凄く可愛いモコモコした子犬ちゃんです」
「この子は犬じゃなく魔獣ですので危険です」
「嘘ですね! 魔獣なのは本当かも知れないですが、危険なものをあなたが中学生の女の子に預けておくとは思えません」
横から高畑先生が参戦してきた。隠し通すには無理がありそうだな。
「ハティ、ちょっと出ておいで」
お尻のあたりを軽く突っついて寝ているのを起こしたら、いつものように俺の服の胸元からひょっこり顔だけ出した。
「ミャン!」
「「「キャー! 可愛い!」」」
「何なんですそれ!」
あまりの喧騒に驚いて、すぐに俺の服の中に潜ってしまった。
「「「ああ! 隠れちゃった!」」」
「「ハティちゃん? 出ておいで~」」
仕方がないので服の中から出してあげて、皆にも触らせてあげた。
「大人しいですが、一応この辺の魔獣では最強の種族です。この子の成体が3匹いれば、単体でこの辺では最強の熊も襲って狩るそうです。あまり嫌がるようなことはしないでくださいね」
アニマルセラピーとかあるが、この子の可愛さは神がかっているので、皆ちょっとモフるだけで癒されていく。
ハティも嫌がることなく皆に愛想を振りまいている。このわんこ、良い仕事しやがる。
ハティ大人気である。
食後に早速体育館組のメインパーティーから、順次【身体強化】のレベル上げを行った。Lv5まで上がるにはAP(アビリティーポイント)15ポイントあればいいので意外と簡単に上げることができた。種族レベルはみんな最低1はあるので15ポイントを得るには種族レベルを2つ上げればいいのだ。俺ぐらいのレベルになるとなかなか上がらなくなるが、一桁台のレベルは30人のレイドPTでも大きめのコロニー1つ程度で上げることができた。
レベル上げの補助に俺・雅・桜・菜奈・美弥ちゃん先生・穂香・美咲先輩が付いた。なので一度にレベル上げに参加出来るのは23人になる。
体育館にいる女子の人数だが、77人もいる。食料庫は一番大きいし、物資もここが一番多いのだが、77人は結構な人数だ。
・剣道部女子4人
・バレー部の女子5人・バスケ部の女子6人
・野球部マネージャー1人
・女子寮に居た女性教員3人・女子生徒16人
・教員棟に居た女性教員1人・女子生徒11人
・中庭で保護した女子9人
・食堂で保護した女子生徒21人
これ以外に残ってる女性は。教員棟に女性教師1・女子生徒2、男子寮に女子生徒4人だけだ。この7名に関しては何度も忠告もしたし、これ以上は大きなお世話だ。というより知ったこっちゃない。好きにやってくれればいい。
77人もいるので、最大で30人までのレイドPTを組んでも、数回に分けて5カ所の大きなコロニーを潰す必要があった。剣道部の女子やメインPTの娘たちの中には既に【身体強化】Lv10の娘もいたので予想より若干少なくて済んだ。
2時間ほどで【身体強化】のレベルを全員必要数まで上げ切った。
この後は俺・菜奈・フィリア・雅・桜・未来・美弥ちゃん先生・穂香・薫・美咲先輩の10人でレイドPTを組み、種族レベル20になるまで手当たり次第に狩るつもりだ。
全員が20を超えてセカンドジョブを獲得できたら、このメンバーに体育館のメインPTと格技場の男子を加えて残ってる魔獣を全て狩りつくす予定だ。
美咲先輩を加えた10人PTを組んで出発しようかという時に、体育館の地下シェルターに例の3人が怒鳴り込んできた。どうやらわざと高畑先生が中に迎え入れたようだ。
あいつらが奥まで入って来た辺りで、生徒たちが入り口の扉を閉めてその前に数十人が立って入り口を塞いだのが目に入った。教頭たちは逃げ道を塞がれたのにまだ気付いていないようだ。
高畑先生は、どうやら彼らをこの人数で徹底的に糾弾する気みたいだ。
「君たちどういうつもりかね! 私たちが狩ろうとして向かっている先々で悉く狩っているじゃないか! わざとやっているだろう! コールやメールをしても誰も出ないし繋がらない!」
「それがどうかしましたか?」
「どうしたかだと! 横取りしておいて何て言い草だ!」
「あら坂下さん、横取りとは随分な言いがかりですね? 魔獣がいつからあなたたちの物になったのかしら?」
先日まで教頭先生と言っていた高畑先生が、蔑むような目で坂下さんと名前呼びしたのだ。この時点になって、大谷や一緒にきてた泉本も周りの女子の刺すような冷たい視線に気づいたようだ。
バカな奴らだ、もう遅いよ……こんな閉塞されたとこに来るから逃げ場もないな。
どうなるか楽しみだ。
念のためにうちのメンバーと教頭の直ぐ前の高畑先生には【マジックシールド】【プロテス】【シェル】を掛けておく。
「また貴様が何かやったのだろう!」
教頭が片目で睨んで俺に詰め寄ってくる。こいつちょっとレベルを上げただけで勝てるとでも思っているのだろうか? もう先日痛い目に遭ったのを忘れたのだろうか?
「そうだとしたらどうするんだ? 向かってくるならもう片方も抉り取るぞ?」
「まぁ、教頭先生も落ち着いて。白石君、どういう意図があって私たちの狙っていた獲物をわざと狩って行ったんだ?」
皆の方を見たら、頷いて例の動画を見せろと合図を送ってくる。女子が怖いので見せましたよ、90人近い女子を相手に逆らう気はありません。自分たちの下卑た会話を見せられた教頭たちは絶句している。
「まさかこのまま帰れると思ってないだろうな?」
「私たちをどうする気だ!? まだ何もしていないだろうが! 隠し撮りなんかしやがって!」
「何かされてからじゃ遅いからな。絶対お前たちが何かしてくるだろうと思って警戒していたんだよ。この世界じゃお前らのような奴はチョッキン刑だそうだ」
「何もしてないのにそんなことできる訳ないだろうが! そこをどけ!」
「あら、帰さないですわよ」
高畑先生が道を塞いだ。
そして美弥ちゃん先生が大谷に啖呵を切った!
「大谷さん、ちょっといいかしら? 私とエッチなことをしたいなら決闘しませんか? 決闘と言うより死闘ですね。私を参ったと言わせることができたなら私を好きなようにしていいわよ」
「ちょっと美弥ちゃん先生! なに言ってんだ」
「龍馬君、襲ってくる前にこうなっちゃったんだから仕方がないじゃないかな~。先生このまま見逃したくはないんだよね~。この人たちが生きてる限り先生安心して寝られないんだもん」
「ハゲ! 菜奈を苛めたいんだって? じゃあお前は菜奈と決闘しろ!」
「菜奈まで勝手に何言ってるんだ! それにお口がちょっと汚いよ……」
「先生と菜奈ちゃんに先こされちゃいました。じゃあ、あなたでいいわ。あなた誰でしたっけ?」
「泉本だよ! って桜まで!?」
「どうしますか? 決闘なら相手は三人で済みますが、逃げるなら問答無用でここの全員で襲いかかってチョッキン刑にしますよ。まさかこの人数で囲まれて逃げられるとは思ってませんよね?」
三人が集まってコソコソ話し合っている。なんだ? 何か作戦があるのか?
『……マスター、泉本という少年が鑑定魔法を持っていて菜奈・桜・美弥のレベルを鑑定したようです。全員自分たちよりレベルが低いのを確認したので安心しているようですね。それでも支援系の泉本が剣士の桜とタイマンは嫌だとごねているようです。どうやら3対3のチーム戦にしたいようですね』
「個人対決だと、回復職の泉本君が不利になる。チーム戦にしてくれないか?」
桜と美弥ちゃんが俺に確認の同意を求めてこっちを見ている。
「お前たちに殺人はしてほしくないんだけどな……」
「兄様、冒険者のBランク試験に殺人経験がいるそうです。冒険者をするなら殺人は必ず通る試練だからだそうです。護衛任務で盗賊が出た時に殺人ができなければ護衛任務を任せられないからというのが理由です。兄様が4つの覚悟と4つの決意をして行動しているように、菜奈たちもちゃんと決意と覚悟を持って行動しています。お気持ちは嬉しいのですが、それ以上兄様が口出しするのは菜奈たちの覚悟を否定する行為ですよ」
菜奈の奴、しっかりとした信念をちゃんと持っているようだ……殺人なんかしてほしくないのに、これじゃあ反論できない。
「分かったよ。桜も美弥ちゃん先生も同じ気持ちなんだな?」
二人とも無言で俺を見つめたまま頷いた。
「確認だが、三人に勝てばちゃんと帰してくれるんだな?」
「勝てるなら好きにしていいと言ってるじゃないですか」
「森里先生、俺は白石君に聞いているんだ」
「俺はタカナシだ。こいつらに何言ってもダメなんで、もう勝手にすればいい。6人を残して他は全員ここから出て行くから、勝負がついたら勝った方が外に出てこい」
「審判としてお前には残っていてほしい」
『ナビー、俺を残して奴はどうする気なんだ? さっぱり想像ができない』
『……勝てると思っているのですよ。そして勝った後にマスターにレイプするのを見せつけるのが目的です』
『ハァ? 鑑定魔法持ってるんだろ? 俺のレベル見たら勝てるとか思わないだろ?』
『……マスター、【フェイク】のスキルを使っているの忘れていませんか? マスターのレベル、いま鑑定魔法では10しかないですよ? ファーストジョブ獲得時に弄ったままになっています』
『あ! 忘れてた……そういうことか』
「分かった。俺が審判をする。他の者は巻き添えとかあるといけないので、一時ここから出てもらえるかな? 外でやる方がいいんだけど、こいつらが逃げかねないのでこの中で行う」
見たいという者もかなりの数がいたが、人が死ぬところなんて見るもんじゃない。必ず心に傷を負う。消防士が放火魔になることがあるように、殺人を見て興奮を覚え、この中から快楽殺人者が出ても嫌だしね。
皆を追い出して3対3の死闘が行われることになった。
雅が出て行く前に一言俺に告げた。
「ん、動画ヨロ」
雅はブレがないからやっぱり好きだな。
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