1-7-2 コロニー狩り?格技場の野郎ども?

 朝食後、MAPで教頭たちの動向を確認する。教頭たちは既に移動中のようで、キングの巣を中心に西回りで小さめのコロニーを狩る気のようだ。あのレベルで三人のパーティーなのだ。せいぜい30頭規模のコロニーが安全マージンだろうと思う。


「桜、教頭たちが既に動き出している。次のコロニーまで4キロの距離があるけど、正確に其処に向かっているので誰かが探索スキルを習得しているのだと思う。教頭たちの進路上の魔獣は俺たちで全部先に喰っちまうから、急いで準備をしてくれ」


「でも探索スキル持ちなら、私たちが先に行って狩ったのが向こうに分かっちゃうよね? 文句言ってこないかな?」


「早い者勝ちなんだし、あいつらがレイプ目的にレベル上げしているのもこの動画がある限り皆にも実証できる。何の気を使う必要があるんだ? 皆にこの動画を見せてあの三人はハブる方向で良いんじゃないか?」


「それもそうね。うん、分かった。皆にも準備急がせるね」



 そして5分後。

 全員装備を整え、30人までパーティー参加できるレイドPTを組み、茶道室に集まっている。


「皆準備はいいかい? 戦闘はA班で行うから、他の皆は見学だけでいいからね。B班は非戦闘員の護衛ね。C班も一応戦闘時は武器を抜いて戦闘態勢は取るように。準備が良いなら転移魔法で飛ぶよ?」


「「「は~い!」」」


 なんとも可愛い気の抜けた返事だ。だが、みんな素直で良い娘ばかりだ。


「先輩! 私はどうすればいいですか?」

「ああ、まだどの班にするか決まってなかったね。穂香は今回盾を持ってA班と最前線で戦ってみようか?」


「はい、頑張ります!」


「龍馬先輩! 今回私も前に行きたいです!」

「薫ちゃんか。唯一の槍使いだし、戦闘経験を積むのもいいからやってみるかい?」


「はい!」


「他にも戦いたいって人いるかな? 全員に【マジックシールド】【プロテス】【シェル】のパッシブは張るので怪我人は出ないだろうけど、やっぱ喰らうと痛い。只、この辺では安全に狩りができるのは最下級魔獣のオーク以外にあまりいないし、戦闘の経験を積みたいなら今がチャンスだよ。平原の魔獣はちょっと強いそうだから、練習するならオークが一番良いよ。オークは弓や魔法も使ってくる人型だから、盗賊を想定した対人の練習にもなるしね」


 厳密に言えばスライムやホーンラビットとかのようなもっと弱い魔獣もいるのだが、集団戦はオークがうってつけなのだ。


 俺の説明を聞いて美弥ちゃん先生と綾ちゃんが名乗りを上げて加わった。先生も教頭たちと直接命のやり取りを本気でやるつもりでいるようだ。できることなら先生には皆から愛される優しい美弥ちゃんのままでいてほしい。


 茶道室のこの場で俺と菜奈とフィリアで班ごとに分かれパッシブを掛け、レイドPTで教頭たちが向かっているオークの拠点近くに【テレポ】で飛ぶ。


 キングのコロニー周辺の半径20km以内の拠点は、ハティの群れのテリトリー以外は全て家出の間にMAP登録してある。


 既にこの2日の間に4カ所ほど小規模コロニーを教頭たちに狩られてしまっている。



 俺たちが向かった最初の場所は30体ほどの小さな集落だった。わずか10分で狩りと収納まで終える。

 現在レベルが上がっても例の白黒世界に飛ばないようにしている。人数が多いと誰かがレベルが上がって何度もポンポン飛ぶから雑魚相手だと却って面倒なのだ。


 1kmの地点まで教頭たちが迫っていたのでさっさと次の登録地点に転移する。収納も俺と菜奈とフィリアの三人で行えば早いものだ。解体や魔石の抜き取りは後でやればいい。ナビー工房でやっても良いしね。


 【自動拾得】を使っても良いけど、皆に説明するのが面倒なのでOFFにしてある。


『……マスター、教頭たちが何事か分からず慌てていますね』

『そうだろうね。急に目指していた場所の魔獣の反応が消えたんだから警戒して慌てるだろう。既存の探索スキルだと味方の詳細は分からないんだよな?』


『……男子生徒が習得した探索スキルは雷系なので、探索範囲は広いですがレベル10まで上げても敵味方の判別ができる程度のモノです』


『雷系のスキルか。【ソナー探知】だっけ?』

『……そうです。電波を飛ばしその反射を利用したものなので探索エリアは広いですが、マスターのスキルと比べるとね。フッ』


 ナビーのやつ鼻で笑いやがった。小馬鹿にするとか、こいつだんだん人間臭くなってくるな。


 2カ所目は100頭ほどのやや大きめのコロニーだ。ここで残り10頭を切った辺りで白黒世界行きに変更する。

 タイミングよく、オークを狩り切る前に途中で誰かがレベルアップしたようだ。


「皆、取り敢えず貯まったポイントで【身体強化】をLv10にするんだぞ」


「「「は~い!」」」


「龍馬先輩! 既にLv10のA班やB班の者はどうしたらいいですか?」

「自分の目指す戦闘スタイルに割り振ればいいよ。C班の者で達した娘は【格闘術】とか取っておくのもいいかもね」


「え~っ! ダサい~! どうして【格闘術】なんですか!?」


「男たちの危険性は十分すぎるほど理解したよね? 町に行ってもこの世界の男性がいるんだし、危険がないわけじゃないんだよ。念のための護身用だね。【剣術】とかは剣が要るけど【格闘術】は自分の体が武器になるから、いざという時、武器がなくてもどこでも使えて良いと思うよ。例えば一人で買い物中に荒くれ冒険者とエンカウントイベントが発生したとしてもパンチとキックだけで華麗にKOできるでしょ。非戦闘員の場合あくまで護身用としての獲得だね」


「成程、了解です! 余った分は【格闘術】に振っておきます!」


 【身体強化】と【格闘術】の相性はバツグンに良いはずだ。

 【身体強化】Lv10の者が一般人を本気で殴ったら、殴った腕が体を貫通するかもしれない。



 3カ所目も100頭規模のコロニーだが、俺は戦闘に参加しないで、皆の戦いぶりを眺めていた。

 やはり雅が一人抜きんでている。フィリアも俺の意図を理解してか、極力皆に戦闘をさせていた。桜もまだまだ拙いが、回避を心掛けて戦えるようになっている。自分から名乗りを上げただけあって薫ちゃんの動きもかなり良い。B班のメイン火力になりそうだな。

 A班で参加したいようなら未来ちゃんと入れ替えても良いかもしれない。


 100頭規模のコロニーだったが、俺とフィリア抜きでも20分ほどで難なく殲滅できた。


「みんなお疲れ様! 戦闘組は良い感じだったよ。C班の者も流れ矢とかちゃんと回避できていて動きも良かった。次の地点ではA班は【マジックシールド】は張らないで戦闘してもらうね。ヒール担当は未来ちゃんと美弥ちゃん先生の2人で回して、先生は攻撃も兼任でよろしく。穂香もそのまま前線で継続ね。薫ちゃんも良い動きができていたからそのまま前線でお願いするね。何か質問あるかな?」


「私はちゃんとできていたかな?」

「雅を100点としたら桜は85点かな。回避はちゃんとできていたけど、まだ周りの状況判断が遅いね。一般オークなら問題ないだろうけど、連携してくる上位種や、狼などの群れが相手だとその一瞬の遅れが致命的になってくるから、もっと全体を見るように心掛けるといいね。今のままだと死角からの弓矢とか危険だよ。全体を見るようにすれば、周りの魔獣や仲間の動きから判断できるようになって、死角もなくなるからね。この中だとフィリアを除けば雅がやっぱり凄いね。はっきり言って俺より上手だ」


「ん、でもまだまだ龍馬の方が強い!」



 4カ所目は50頭ぐらいの中規模コロニーだったが、シールドなしでも余裕だった。ここを狩り終えた時点で皆の【身体強化】のレベルが10に達したので一旦拠点に戻ることにする。


「美弥ちゃん先生、今から各技場の人に体育館に集まるよう連絡網を回してもらえるかな?」

「ええ、次は他の娘たちのレベル上げをするのね?」


「そうですけど、そのことは集まってから話すようにします。教員棟と男子寮の奴らに知られたくないので、格技場の奴らの呼び出しだけでお願いします。それと料理部の中から何人か残って皆が食べられるカレーとオークのステーキとか昼食用に作ってくれないかな?」


「それって、体育館と格技場の者の分もってこと?」

「うん、ダメかな? 桜と茜の許可が下りるならお願いしたいんだけどね……」


「なんで私たちの許可がいるのよ?」

「そうよ、桜はともかく私の許可はいらないでしょ?」


「いやいや、食材の管理は二人に任せてあるんだから、足りなくなるようならオークしか出さないし、余裕があるなら、そろそろ皆も米が食いたい頃かなと思ってね。食が乏しいと心まで荒れちゃうからね」


「お米も野菜も十分にあるから、問題ないわよ。お米は特にかなりの量があるので大丈夫よ。毎日とか言い出したら却下するけどね」

「じゃあ、A班以外の者から何人か残って調理の方頼めるかな?」


 居残り組はフィリアとB・C班が残って作ってくれることになった。C班的にB班に護衛をしてほしいということだ。桜も残るとか言っていたが『お前は教頭たちの直接のターゲットになってるんだから参加は絶対だ』と言ったら渋々行くと言ったほどだ。どんだけ料理が好きなんだ……まったく困った娘だ。


 解体済みのオークを5頭分渡し、中庭で直火焼きでどんどん焼いてもらうことにした。肉を焼くのにガスは勿体ないからだ。森で木も大量に拾ってあるからこっちの方が後々のことを考えれば無難な選択だと思う。焼いた肉は熱いうちにフィリアの時間経過のない【インベントリ】に保存する。




 体育館に行くと既に格技場のヤローどもも来ていた。


「まず、集まってくれてありがとう。今回の招集は皆の意見を聞きたかったのと、ちょっと見てもらいたい動画があったからなんだ」


「けっ! 呼び出しておいて下らないことだったら許さないからな!」


 この発言は剣道部の主将さんだ。まだ柳生先輩の件を根に持ってるんだろうな。柳生先輩可愛いから、気持ちは分かるけどね。分かるんだけど、ヤツはちょっとウザい。


「またあんたか。じゃあ帰っていいよ。他のみんなにはいまうちの料理部の娘たちが美味しいカレーライスとオークのステーキを一生懸命作ってくれていますのでお昼に出しますね」


「「「カレーライス!」」」


 皆の歓声が上がった。やはり災害用の携帯食だけじゃ流石にきつかったのだろう。


「白石君! 俺が悪かった! 俺にも美少女カレー食わせてくれ!」

「美少女カレーってなんですか!? そんな涙目にならなくても……へんに絡んでこないなら三田村先輩にも食べさせてあげます。それと小鳥遊です。タ・カ・ナ・シ、覚えておいてくださいね。白石で検索掛けてもフレンドリストに登録できないですからね」


「分かった。それでタカナシ、今日は何の用なんだ?」


「ええ、そろそろここを移動しないと食料的にもヤバいかなと思って。このままだと殆どの者がここで餓死します。うちのパーティーは既にレベ上げも終えていつでもここを出て行けるのですが、パーティー内の話し合いの結果、見捨てて行くのも後味悪いし可哀想という意見が多く、このあとうちの主戦力で皆のレベル上げを手伝おうかという話になっています」


「それは有り難いわね。うちのメイン火力だとちょっと不安があって中々森に行けなかったのよね」


「高畑先生のとこなら行けるでしょ?」

「メインPTのリーダーの岡村さんと探索魔法持ちの田淵さんが、あの薬草採取以来怖がっちゃってね……」


 探索担当って言ったら俺と一緒に猪を狩りに行った彼女だよな? 理知的で好感の持てる人だったのにどうしたのだろ?


「田淵先輩? 猪狩った時は普通だったのに何かあったのですか?」

「小鳥遊君……あの猪が怖かったのよ。物凄くデカかったでしょ! あんなのが森にウヨウヨいるかと思うと……無理! しかも熊はもっと強いんでしょ? とてもじゃないけど怖くて行けないよ」


 成程ね~確かに森はオークやゴブリンだけじゃないよね。


「小鳥遊君に猪狩りを一緒にって言ってたけど、全然誘ってくれないから……」


 確かに牡丹鍋をした後、岡村先輩に何度か声を掛けられていたな。


「そうでしたね。こっちも色々あったので行けませんでした。それと格技場の男子に質問です。あなたたちは何でレベル上げに行かないのですか? 一度森に向かったのは確認しましたが40分ほどですぐに帰ってきましたよね? それ以来行ってないと思いますがどうしてです?」


 剣道部主将の三田村先輩がサッと視線を逸らした……何か言えない理由があるのかな?


「三田村先輩?」

「あ~、いや~。ま~な……」


 う~ん、何なんだ? 話の分かる空手部の主将に聞いてみるか。


「水谷先輩どういうことです? 話せない訳とかあるのですか?」

「いや~、何と言うかね……」


 こいつも言い淀んで話さないときた。ナビーに聞いても良いけど、それは納得いかない。


「言えないなら、もういいです。先輩たちがレベル不足で平原に行けなくても俺は無視して置いて行きますからね」


「あ~待ってくれ! 分かった! 言うから。はぁ~、一度森に行ったのは事実だよ。そこで10頭の集団でいるオークを見つけて戦闘したんだけど、そこであることに気が付いたんだ……」


「水谷先輩、焦らしてないでさっさとゲロっちゃってください。時間が勿体ないです」

「分かったよ! うちのパーティーには探索持ちも回復持ちもいなかったんだよ! 10頭のオークは瞬殺できたんだ! でも掠り傷程度だが怪我して『ヒールよろ~』って誰かが言ったんだけど、誰も持ってなかったんだ。そして一旦話し合いに戻ろうとなったんだけど、狩ったオークを【亜空間倉庫】に誰が入れるって話になった……誰も持っていなかった。そして探索魔法もないので帰り道で迷子になりかけた」


 聞いていて呆れたが、そういうことらしい。


「じゃあ、話し合って誰かが獲得したのですね?」


「そこが大問題だったんだよ……。皆が戦闘系スキル以外無駄振りしたくないと言ってね。だから下手に森に分け入ると迷子になるし、怪我したら致命傷になりかねないので流石に怖くて狩りに出られなかったんだ」


 アホだ!


 こいつら根っからの戦闘バカだ! 戦闘スキル以外に無駄振りしたくないとか、頭おかしいだろ!

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