1-5-4 龍馬の要望?穂香の受け入れ?

 俺は穂香が盾職希望だと聞いて、どうしても彼女が欲しくなった。

 盾職は勇気がないとできない職だ。俺のように熊が怖いからと遠距離から魔法を放ってるようなビビりには務まらないのだ。俺でもオークなら戦える、猪もなんとかいける。だが校舎の2階ぐらいもある熊に近付きたくない……マジおっかない。



 まだ彼女の実力を見ていないのだが、自分で盾を作ってゴブリンを倒しているのだ。兎やスライムにも自分から果敢に向かっていった心意気は認めたい。未知の生物に向かっていくのだ……怖くないわけがない。


 只の恐れ知らずのバカなのだったらとっくに死んでいる。この森はそれほど甘くはない。慎重に行動して観察し、いけそうだなと判断した場合のみ果敢に挑んだのだろう。


 もし桜のようにPSがなくても教えればいい。ダメならC組に行ってもらうが、おそらくこの娘は優良物件だ。是が非でも確保したい。それに超美人だ。桜や未来程ではないが、お色気ムンムンだ。



 美弥ちゃん先生にコールをしたら真っ先に謝罪してきた。


『龍馬君ごめんなさい! みんな反省してるので帰ってきてください! ネ、ネ、ネ?』

「ちょっと皆に相談があるのですが、全員其処にいますか?」


『ええ、いるわよ? 皆、本当に反省してるの! だから帰ってきて? ネ、ネ?』

「そのことは後です。ハンズフリーにしてオープン通話にしてもらえますか」


 俺の方もハンズフリーにする。


 この【クリスタルプレート】は携帯のハンズフリー機能のように、数人が一斉に話しだしてしまっても、プツッという話が途中で切れたような聞き取りにくい違和感がない。


「沙織ちゃんいるかな?」

『はい、龍馬先輩ごめんなさい! 相談もしないで勝手に行動してしまいました!』


「沙織! 良かった! 本当に生きていたんだね!」

『エッ!? 穂香!? 嘘! 穂香なの?』


「ええ、森で死に掛けていたところを、さっきこの先輩に助けてもらったの」


『穂香! 良かった~生きていたんだね! 死に掛けていたって、あなた大丈夫なの? 怪我とかしてない?』

「栗林先輩こそ無事で良かったです! 山下先輩も無事だと聞きました。本当に良かったです」


『穂香、こっちでゆっくり話しましょうね』

「はい、山下先輩!」


「積もる話もあるだろうが、ちょっといいかな?」


『兄様ごめんなさい! 菜奈は皆を守るためについて行ってあげただけですので、置いて行ったりしないですよね?』


「ちょっと黙ってろ。話の邪魔だ」

『そんな! 菜奈は兄様のためにと思って……エグッ、ウェーン』


「未来ちゃん、五月蠅いからその駄妹を下がらせて。美弥ちゃん先生、今から皆で話し合ってほしいことがある。今、俺と一緒にいる娘は、茶道部2年の小西穂香ちゃんだ。転移があった日に食堂でオークに襲われて逃げ惑っている間に沙織ちゃんとはぐれ、どんどん森の奥に追われて最終的に迷子になってたみたいだ。寒さと空腹と戦いながら、ゴブリン2頭を自力で倒したけど、魔素の影響で動けなくなったところを偶然熊を追っていた俺に発見されて現在保護中だ。で、ここからが相談なんだけど、彼女は盾職希望なのだそうだ。【マジックシールド】を持っている俺がいない時に、きっと役に立つ職だと思う。B班の守護役としてうちで是非欲しいので、リーダー推薦枠として仲間に加えるのを認めてほしいのだけど、今からうちでの受け入れが可能か不可か話し合って決めてくれないか? 優ちゃんの友人は拒否しているので、彼女の意見もちゃんと聞くようにしてあげてね」


『龍馬先輩、そんな言い方したら認めるしかないじゃないですか? なんか、私がダメって言ったら一人白い目で見られちゃいますよ~』


「優ちゃん悪い。それもそうだね……う~ん、何でもかんでも話し合いってのも良い面と悪い面があるな。よし今から投票で決める。俺にメールで受け入れ可か不可かのメールを送ってほしい。別に多数決で決めるんじゃないからね。他の人に絶対見せたりしないので、ダメな人は理由も書いてくれ。ダメな人がいて、その理由が納得できる内容なら、たとえ一人の反対意見でも穂香ちゃんは受け入れしない。だけど、何人反対者がいたとしてもその理由が容認できない内容なら、俺の判断で受け入れを認めるものとする。それでいいかどうか話し合って各自でメールを送ってほしい」


『龍馬よ、其方はそのおなごが、うちの仲間として欲しいと思ったのじゃろ?』

「うん、盾職はやれと言ってできる職じゃないんだ。俺は今日熊を倒したんだけど、3mもあるそいつにビビッて近づくことさえできなかった。俺みたいなビビりではまずできない。かと言ってただの無謀な奴なら、この危険な森で何日も生きながらえることなんかできない。冷静な判断力と勇気、生きようとする意志、創意工夫、なかなか貴重な人材だと思う。雅との二択なら雅を選ぶけど、桜との二択なら俺はこの娘を取る」


『龍馬君ごめんなさい! 怒っているのは分かってるけど、そんな見放す言い方しないでよ! 本当に相談なく行動したことは謝るから!』


「桜、名指しで引き合いに出したことは悪かったよ。だが桜と美弥ちゃん先生は後でお仕置きだ! 許さん! 俺がいないときのサブ的存在なのに、率先して行ったそうじゃないか? 他の者はともかく、お前たちは何かお仕置きする!」


『龍馬よ、お仕置きはともかく、其方がそれほど買っている娘じゃ、反対する者がいる訳なかろう? 面倒なのでそのような回りくどいことはせぬでよい。皆もそれでよいな? ほれみろ、全員受け入れるそうじゃぞ、はよう帰ってこい。其方がおらぬと皆が不安がって、夜もおちおち眠れんそうじゃ。可哀想なので今すぐ帰ってこい』


『『『龍馬先輩帰ってきてくださ~い』』』


 可愛いではないか後輩ども! 可愛い後輩に慕われて良い気分だ。


「う~ん、もう1日泊まっていくことになりそうだ。帰るのは明日だね。今いる場所は学園から20kmも離れているんだ。穂香ちゃんはまだレベル1になってないので、速攻でレベルを上げる必要がある。体力もかなり落ちているので1日で帰るのは厳しいだろうと思う。今日何レベルか上げて、体を休ませてから、明日レベル上げをしながら帰るよ」


『了解じゃ、気を付けるのじゃぞ』

『兄様! その娘と今晩二人きりで過ごすのですか!? ダメです! 菜奈も今からそっちに行きます! 方角さえ言ってくれれば20㎞なら1時間以内にそちらに向かいます!』


「フィリア、その駄妹にきついデコピンを頼む! じゃあ、受け入れOKということでよろしく頼む。少しレベル上げしながら明日には帰るので、できれば腹に優しい食事を出してやってほしい。桜、メニューは任せる」


『分かったわ。あの……本当に相談しなかったことは反省しているのよ? 怒んないでね』

「その話は帰ってからだ」


 菜奈はともかく、桜も美弥ちゃん先生もビビりすぎでしょ?

 俺、そこまで怖いのかな……ちょっとショックです。


「あ、それとちょっと聞くけど、ペットの毛とかの犬アレルギーがあったり、犬が苦手な人とかいる?」


 特にアレルギーがあったりはないようだ。怖いとかなら克服できるだろうけど、アレルギーは対処しようがないからね。その時は俺だけ4階にでも行こうかと思っていたけど問題はなさそうだ。


 ハティのお披露目は明日になってからだ。超可愛いから皆喜ぶだろうな~。楽しみだ。



「穂香ちゃん、そういうわけだ。一応聞くけど、勇者である柳生先輩がいる体育館に行くのもありだと思うんだ。友人や部活の仲間がいるこっちの方が気心が知れている分居易いかもしれないが、一応勇者のことも踏まえて考えてみてくれ。それと、俺という男が一人いることも忘れないでしっかりと考えてほしい」


「はい、答えは決まっています。先輩のところでお世話になります。それと、口利きありがとうございました。先輩、皆に凄く信頼されているんですね」


「まぁ、なんだかんだで命を救ったと思ってくれているようだからね」


「あの、『ごめんなさい』とか『帰ってきて』とか、まるで恋人に置き去りにされて捨てられた女たちみたいな会話だったのですが、あれは何なのでしょうか? ちょっと聞いていて引いたというか……」


「ああ、桜と美弥ちゃん先生たちが俺が眠ってる間に教員棟の女子を救出に行っちゃったんだよ。リーダーに相談なしで、危険な行動を勝手にしたんだ。ちょっと懲らしめるつもりで2日あっちを空けたんだ」


「えっ! 相談なしでハブられたので、拗ねて家出中だったのですか!?」

「おい! 言い方ひとつで、めっちゃ俺が矮小な奴に聞こえるぞ!」


「悪い事じゃなくて、問題案件を1つ解決したのなら、別に怒らなくて良いのじゃないですか?」

「そんな簡単な話じゃないんだよ。穂香ちゃんにもこれから行ってもらうけど、レベルが上がるとスキルを獲得できるポイントがもらえて、初回だけレベルアップ専用の部屋に行けるようになる。アビリティポイント、これからAPって言うけど、そのAPを使うと勇者補正で誰でも強くなれるんだ。剣にポイントを極振りすればこの世界で誰も到達できない剣士になれる。魔法を覚えさせたら、本来適性がない属性の魔法も勇者補正で発動できるようになる。種族レベルさえ上げていけば、運動音痴でもバカでもそれなりに強くなっちゃうんだよ」


「それはいいですね! 楽しみです!」

「いいのだが、全部が良いとも言えない。もう一度言うけど、バカでも運動音痴でも誰でもAPさえ割り振ればそれなりに強くなれるんだ。今回桜と、美弥ちゃんは乗り込んだあげく、理不尽に女子を軟禁拘束していた男性教師を殴って強制的に黙らせて女子を助けてきているんだよ。ここで穂香ちゃんに質問だ……大勢の前で一方的に殴られて女子を奪われたエロ教師たちはこの後どうすると思う?」


「あ~、そういうことですか」


 どうやら頭の回転も良いようだ。


「可能性として、どこかでレベルを上げまくって強くなって戻ってきて、皆の前で大恥をかかせた美弥ちゃん先生たちに仕返しするんじゃないかな? あの粘着質でエロそうな大谷ならやると思うんだよな~」


「相手はあのキザったらしいエロ大谷なんですか!? うわ~あいつならやりそう! そもそもなんで教師たちは女子を拘束していたのですか?」


「さぁ? 単に色気がなくなるのを嫌ったのか、英雄願望や勇者願望があったのか、本気で教師として守る責任があると思ってのことなのか、当人たちしか分からないけど、棟を出たがってる娘を脅して監禁した時点で悪役決定なのだから、只のバカとも言えるよね」


「先輩はヒーロー志願者なのですか? しかもハーレムルート一直線の勇者ハーレム?」

「ラノベ小説の読み過ぎだよ。あ、それと大事なことがあった。うちにはそのやらかしちゃった女神様を保護しているんだ。創造神とかいうありとあらゆる世界全てを仕切ってる神から罰を受けて、人として生きるように降格させられたようで、あの学園に神界から落とされたみたいなんだよね」


「先輩のパーティーには堕天使までいるの!?」


「いやいや、天使じゃなくてもっと上位の女神様だよ。まぁ、ドジッ子なんだろうけど、俺の恩人でもあるので俺が面倒見るつもりだ。他の人に知れたら暴力を振るわれたり、最悪殺されたりする可能性もあるので、このことは絶対内緒にしてほしい。彼女は相当悔やんでいて、もし殺されそうになっても無抵抗で殺されることを選ぶと思うから、皆で気に掛けて保護しているんだ」


「でも恨まれても自業自得じゃないんですか?」


「そうなんだけどね。自業自得で片付けていいような娘じゃないんだ。やっぱ彼女は女神様なんだよ。純善なんだ。悪意や害意はこれっぽっちもない。ミスで大量に人を死なせてしまったけど、そのせいで誰かから害されるのは俺的に絶対納得できない。フィリアを害する奴はいかなる理由があったとしても俺が殺す。フィリアに殺意を向けるなら、殺意を向けられないフィリアの代わりに俺がそいつらを殺意を持って殺す」


「分かった。要は先輩のグループに入るなら、そのフィリアって女神様のことは秘密にしたらいいのね?」


「ああ、頼むね。仲良くしろとは言えないけど、まぁ~会えば分るよ。美弥ちゃん先生以上に庇護欲をそそるから、彼女を平気で害するとか、まともじゃないからね。あまり向こうの世界に固執がない君ならフィリアのことをバラしても大丈夫だろうと思って話したけど、やっぱ正解だったね」


「分かりました。会ってからの話ですね」

「じゃあ、穂香ちゃんを本当の意味で助けようか」


「はい、レベルアップですね? サポート宜しくお願いします」



 テントから出て手頃な魔獣をMAPで探すのだった。

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