1-2-10 牡丹鍋?個人香?
さぁ、お楽しみの夕餉の時間だ。
味噌仕立ての猪肉を一口放り込む……なんだこれ?
「兄様、美味しいです! 去年食べたのと全然違います!」
うん、全くと言っていいほど違う……なぜだ?
「めちゃくちゃ美味しい! 噛むと肉の甘みがどんどん出てくる。去年近所のお裾分けで貰ったの食べたけど、こんなに美味しくなかったよな?」
「ちょっと硬くてパサパサしていました。少し臭かったですしね」
「この猪が異世界仕様で特別なのかな?」
「美味しい猪の条件もあるし、近所に配るのは大抵良い部位じゃないしね。良い部位は普通自分の家で食べるからね」
「いや、あのじいさん、菜奈のこと大好きだから、一番良い所持ってきたとか言ってたよ」
「じゃあ、血抜きか、冷却、オスだとかだね」
「メスの方が旨いのか? それに冷却って何だ?」
「龍馬君が狩ってきたこの猪メスなのよ。木の実なんかを大量に食べててよく肥えて良いさしも入っていたわ。まるで天然イベリコって感じだったわよ。それに血抜きも完璧だったし、冷却の方は受け取ってすぐ魔法で冷やしたからね。そのおじいさんが狩った時に、近くに冷やせる沢とかなっかったんじゃないかな? すぐ冷やさないと肉焼け起こすのよ。血抜きした後沢に浸けて冷やさないと駄目なの。マグロとかもそうね。テレビとかで見たことない? 血抜きして内臓を抜いてから氷で直ぐ冷やしているでしょ?」
やはり料理部の知識半端ない。普通猪の解体とかできないだろうし、血抜きは知っていても冷却とかまで知らない筈だ。
「この肉も旨いな」
「それはオークよ。一度に全部使うのは勿体なかったから。半分残してオークを混ぜたの。薄い方がオークよ」
「半分残したってことはまた食えるのか、嬉しいな」
「ロースは鍋に、ヒレはカツに、バラは角煮、内臓はモツ煮、その他は煮込みやカレー、等々まだまだお楽しみはこれからよ」
「桜と茜がいると旨い物が食えるんだな。プロ並みの味とかおかしいけど、素直に感謝だな」
「肉系は私と茜が得意だけど、他の子も凄いわよ。スープ系は綾が一番だし、デザート系は優とみどりと愛華が得意よね。サラダ系は亜姫や沙希が得意だし、各方面で知識の偏りはあるけど、皆が揃えば大抵美味しくできるわね」
「へ~、楽しみだな。皆も食事は任せるので今後もよろしくね。でも、菜奈と雅は?」
「あはは、兄様、菜奈たちは入部したばかりなのでもっぱら食べ専です」
食の貧困は精神も侵される。美味しい物さえ食べていれば、人はそれなりに何とか生きられる。
幼女組が無言で小さな口をモキュモキュさせて食べている……可愛い。
「フィリア、雅、美味しいか?」
「ん! ウマウマ!」
「このような物が食べられるとは思わなんだ……なんて美味しいのじゃ」
生き物を殺したんだ。猪には悪いが美味しく食べるなら食物連鎖の理から外れてはいない。感謝して美味しくいただくことにしよう。
食事を終え、皆で食休みをしていると、美弥ちゃん先生がフィリアに質問をしてきた。
「フィリアちゃん、女子の排卵周期中の性欲処理とかはどうすればいいのでしょう?」
「人それぞれじゃな。特に何もしなくても平気な者もおれば、異常に高まって男漁りをする者もおるようじゃ。その辺りはそちらの世界と変わらぬ筈じゃが?」
「向こうではなんともなかったようですが、こちらの世界では異常に高まって混迷してる子もいるみたいなの。対処法があれば聞きたいなーって」
ここには女子が15人もいるんだ……周期に入ってる娘が美弥ちゃんに相談したのかな? おそらく一人は沙織ちゃんだろうけど――
「龍馬にしてもらうのが一番スッキリするじゃろうが、そうもいかぬじゃろう。自分で処理するのじゃな。絶頂をむかえればとりあえずは治まるはずじゃ」
聞いてるだけでちょっとドキドキする。俺も溜まってきているのか? 少し気を付けよう。
「あ、そうだ……これ購買部から持ってきたのだけど、共有物にするのか個人で先に分配するのか決めてほしい」
生理用品をインベントリから1つ出して皆に見せる。
「なんで? 共有でいいのじゃない?」
「うん。まぁそうなんだけど、こういう限りのある物品は後でトラブルになることがあるんだよ。口に出さなくても心の奥で溜め込む場合もある。菜奈が言うには人によって多い少ない、月によっても多い少ないがあるって言ってた」
「ええそうね。多い月は結構大変だよ。気も滅入るしね」
「休み時間毎に替える人とか、逆に勿体ないとか言って結構ギリギリまで交換するのを我慢する人もいるんだろ?」
「そうね。私は制服とか汚れたら嫌だからすぐ替える派かな。確かにその辺は個人差があるわよね」
桜の生理事情とかなにげにドキドキしてしまう。綺麗なモノじゃないのにこの感情はどこからくるのだろう。俺は変態ではないと思うのだが……う~~む。
「問題になってくるのは、限りある資源があるうちはいいけど、後少しで無くなるとなった時、あの人がバカスカ使ってたからとか不平不満が後になって出てくるんだ。口に出さなくてもね……」
「そういうことね……先に平等に割り振っておけってこと?」
「うん。あくまで使用しない立場の第三者の意見としてはだけどね。多い人のことを考えたらちょっと可哀想だけど、その辺を皆で決めてほしい。均等にまず分けて、多い少ないで友人同士でやり取りした方がトラブルにならないかなとは思う。納得して個人であげたのなら誰からの文句も出ないでしょ?」
結局先に均等に分配することにしたようだ。
ある程度は女子寮の在庫を漁って各部屋の亡くなった人の分も回収はしてあるそうだが、あくまで個人の持ち物だ。大した量は確保できてなかったそうで感謝された。
「龍馬君が【亜空間倉庫】を全員に取らせた効果がここでも発揮されるのね」
「個人の私物は各自で保管するのが一番いいからね。桜の布団や下着なら俺がいつでも預かるよ?」
「冗談はいいとして、明日の予定と今晩の夜番は誰にするのかとか教えてほしいわね」
さらっと流された……別にいいけどね。
「夜番は俺の索敵の熟練度が上がっているので特にやらなくても心配ない」
「昨日もそうだったけど、任せきりで大丈夫? 本当に無理してない?」
「ああ、ちゃんと眠っているので大丈夫だ。警戒域に仲間以外が侵入すると目覚めるようになっているから寝てない訳じゃないんだ」
「うーん、よく分かんないから任せるわね」
「オークも初日と違って、仲間が殺されまくってる。そろそろ何か対処してくる頃だと思う。薬草を集めてる間、上位種がまったく来なかったのは多分そういった兆候だと思う」
「明日が3日目か……たった2日なのに、学園生かなり減ったよね」
「すまぬな……すべて妾のせいじゃ」
「あ、そういう意味で言ったんじゃないの。ごめんなさい……」
「フィリア、気にするなって言っても無理だろうけど、過敏に反応し過ぎだぞ。見ていて痛々しくなる」
「そうよ、私たちに気兼ねし過ぎてるわよ。フィリアの情報は凄く助かってるんだから、もっと気を抜いていいのよ」
「じゃがのう……いや、ありがとう」
「で、沙織ちゃんは今晩オナニーするのか? それとも俺を襲いに来るのか?」
「龍馬先輩! 場の雰囲気を変えるのに毎回私を下ネタで利用するのって止めてください! 信じらんない!」
「雰囲気を変えるのに下ネタとか、兄様アホですね」
「ん、救えない……しかも全然面白くない」
そこまで言わなくても……まじ凹むんですけど。助けてもらおうと桜を見たらプイッてされた。
「すみませんでした。沙織ちゃんならいじってもノッてくれると思ってた俺が浅はかでした」
雅の側に走って行きクンクンする……あ~癒される。
「あんた何やってるのよ! 雅ももっと嫌がるとかしないとダメだよ!」
すぐに桜に引き剥がされるが、俺の心はすでに癒されている……一家に一人雅だな。
「ん、別にイヤじゃないから大丈夫。龍馬は匂いで籠絡するの」
「桜よ、この個人香を利用するのは別に悪い事ではないのじゃぞ?」
「え? でも男子が女子の匂いを勝手に嗅いでたら日本じゃすぐ捕まるわよ」
「ふむ、この個人香もこの世界の住人にこれほど其方らのように顕著にでることはあまりない。一部の巫女や王族や貴族にみられる程度のものじゃ。個人香も神の祝福じゃからの、それほど多くは持っておらぬ」
「そうなんだ。結構貴重なモノなんだね」
「そうじゃ、寝る前や戦闘前に嗅いでリラックスするとか有意義に利用すると良かろう」
「俺のスキルの中に【嗅覚鑑識】ってのがあって、その人の体調やら個人香の効果の鑑定とかができる。一度皆の匂いを嗅いでちゃんと調べておいた方が良いと思う」
「ん、さすが龍馬。変なスキル持ち。変態の極み」
「兄様、どうしてそんなスキルをお持ちなのでしょう?」
うわ~、皆ドン引きしてる。どう言いつくろう。
「【スティール】ってスキルがあるの知ってるか?」
良かった。結構な人数が知っていた。
「あれの亜種を俺も持っていて、女子寮の前で倒したオークナイトがこの【嗅覚鑑識】のスキルを持っていたんだ。豚鼻のオークらしいスキルだけど結構レアスキルだと思う」
「龍馬君が色々スキルを持っているのって、オークから奪っていたの!?」
「ここだけの話にしといてくれな。皆が【スティール】を獲得しても俺のようには奪えないからね。あくまで俺のはレアなユニークスキルと思ってほしい」
さっと桜の後ろに回りクンクンする。
「キャー! いきなり嗅がないでよ!」
あー、うん、やっぱりね……うん、予想はしてた。
「えっ! 何、その残念そうな顔!? やっぱり私って嫌な匂いなの? 嗅いだ人が皆そんな顔するのよ? 聞いても教えてくれないし、自分じゃ分からないのよ」
「嫌な匂いとかじゃないよ……」
皆の方を見たら同じような顔をしている。
「ちょっと教えてよ! 気になるじゃない! 私、泣いちゃうよ――」
桜はちょっと涙目になっている。
「桜の泣くとこちょっと見てみたい」
マジ切れされた―――
「いや、凄く良い匂いだよ。嘘じゃない! ただ予想通りでがっかりしただけだ」
「どういうこと?」
「フローラルな優しい花の香りだね。うん、入浴剤とかである桜の花の香りだ」
「あぅ……そういうことね……臭くなくて良かったけど、なんか微妙」
「効能は、【リラックス効果】と【疲労回復効果】があるね。なんかお風呂に入った効果みたいだ」
「龍馬君! 私は?」
「どれどれ、クンクン、茜はスパイス系になるのかな。ジンジャーっぽい匂いだね。効能は【心の浄化】?【心を温める】? よく分からんが、心にいい影響があるようだ。ささくれだってる時とかに嗅ぐと安らぐみたいだよ。個人香の中でもレアな部類みたいだ」
「ふーん、良い匂いなのね? 生姜とかババ臭くないよね?」
「ああ、良い匂いだよ。全然ババ臭くないから安心して。むしろ通な喫茶店でしか飲めない生ジンジャージュースのような爽やかな芳香で癖になりそうな香りだよ」
俺の説明に満足したのか、茜の機嫌が良くなった感じがする。
「沙織ちゃんはハーブ系かな、ローズマリーのような感じだね。爽やかな匂いだよ。クリアでしみとおるような香りだ。集中力や頭がクリアになるようで、魔法使いには良い効能じゃないかな」
ああだこうだと皆の匂いを鑑定していった。
クククッ、凄く役得だった。
個人的にはフィリアや未来ちゃんのようなアクアマリン系が一番気に入ったが、雅や菜奈のシトラス系も捨てがたい。
一人も嫌な匂いがなかったのは良かった。これで性格の悪い奴とかが露見してしまったら大騒ぎになるとこだ。
明日の予定を報告し、【インベントリ】からお菓子とジュースを配って各自解散となった。
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