第5話 魔王軍の秘密
蟹パーティが終わった後、明日香はアリーナ姫を連れて、一度お城へ文字通り飛んで戻っていった。
現在アリーナ王女がお城から抜けた後どうするかという話し合いをいろいろやっている頃だと思う。
「タツ、今晩でも少し二人でじっくりと話をしないか?他の人には話しにくいことも
ライピョンさんが蟹の残骸を穴に埋めながら僕に話しかける。
「そうですね…。確かに護身術をライに習うことも含めて、いろいろ話が出来ればいいと思います。」
「それもとても大切な話なのだが、明日香殿についていろいろ時になることがあるのだよ。」
「え?明日香は幼馴染でものすごく繊細で優しい子で、人見知りで、俺を絶対的に信頼してくれていて…。」
「うん、その点に関しては全く疑っていない。タツのことを心から信頼し、何があっても君を守ろうとするだろうことは推察される。
どちらかというと、君に執着しすぎなのではないかというくらい、いつも君のことを案じているみたいだからね。」
???今一つライピョンさんの話の流れが読めないんだけど…。
「先ほど明日香殿の使われた『第六階梯魔法・蟹蒸し』について、どう思う?」
「…どう…て?すごく特殊な魔法だなと…。」
「うん、特殊どころか、おそらくそれまで存在しなかった魔法ではないかと思うのだ。」
「は?いやいや、いくらなんでもそんなことは…。」
「なぜなら、この世界では蟹を蒸して食べる習慣は存在しないのだよ。」
「はい?」
「以前一緒に戦った召喚者が君同様日本からの召喚者で、日本のこともいろいろ教えてくれてね。 『この世界では蟹を蒸す習慣がないから、蟹のおいしさが知られておらず、安価に入手できてうれしい!』なんてことを言って、一緒に蟹鍋や蟹蒸しを頂いたものだった。」
ええと…その時のライピョンさんは『もろウサギ』な外見だったんですよね…。
「待ってください!存在しない魔法をどうやって使うというのですか?」
「もちろん、『その場で魔法を創られた』のだと思う。」
「え、いくらなんでもそんな…。」
「『ナビゲーションシステム』の魔法もおそらくそうだろう。やはり召喚者の友人が『免許取ったあと、宝くじに当たったからナビゲーションシステム付きの車を買ったんだ!!』と嬉しそうに言っていたのをよく覚えているよ。」
ライピョンさん!あなた
「では、明日香はその場で即興的に魔法を創りだす能力があると?」
「恐らくそうだと思う。そして、先ほどもあれだけ大規模に魔法を使われたにもかかわらず、まるで疲労の後が見えない。通常の魔術師なら精神力を消耗してへとへとになっていてもおかしくないのに…。」
「待ってください、では、明日香はイワノフ師あたりが想定しているよりずっとスゴイ魔法使いだと言いたいのですか?」
「その通り、即興で魔王軍幹部を圧倒する適切な魔法を使い、なおかつ魔力も絶大だ。」
「それはすごい!でも明日香がそんなにすごいのなら助かることはあっても、それをどうして気にされるのですか?」
僕が首を捻ると、ライピョンさんはにっこりと笑った。
「さすがはタツ!君たちはそこまで深い信頼関係にあるのだね。
それは本当に素晴らしいことだし、これからも信頼し合ってほしいと思う。
しかし、あまりにも絶大な力を持つ者はえてして孤独になりがちなのだよ。特に明日香殿が酷い人見知りならその傾向は強いと思う。
それを踏まえた上で、明日香殿に配慮してあげるのがタツの役割なのではないかと思うのだよ。」
「ライ!ありがとう!俺は本当にいい友達を持った!」
「はっはっは、なに、友人として当然のことさ♪」
俺たちががっちりと握手した時、ちょうど明日香とアリーナ王女が戻ってこられて、俺はとても恥ずかしい思いをした…。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「ばかな!!たった二日で我が旗下の三銃士が全滅だと!ありえん!何かの間違いだ!」
獅子の顔をした筋骨隆々の大男、六魔将にして、魔界六公爵の一人、獣魔将ライガーが血色を変えて叫んだ。
「残念ながら昨日、ロジック王国が勇者召喚を成功させた後しばらくしてから、タランテラ殿の気配が感知できなくなり、先ほど、ドラゴファイター殿と、シオマネキング殿の気配が消えました。」
副官である、魔導師の言葉に獣魔将ライガーは激怒する。
「『気配が消えました!』で済む話ではない!一体どうやって三銃士程の強者を軍隊ごと消したというのだ?!!お前の魔法で感知できていないのか?!」
ローブで完全に顔が見えなくなっている魔術師は大きくため息をついた。
「タランテラの時はまだしも、ドラゴファイター殿とシオマネキング殿の時は監視に付けていた『魔道の目』が最初に破壊されて、具体的なことがさっぱりわからないのです。」
「なんだと?!敵は『魔法的に隠された監視魔法』に気付いていたというのか?!」
「その可能性があります。最初の戦闘時、ウサギの獣人は蜘蛛の兵士たちを倒した後、次に『魔道の目を破壊』しました。
おそらく勇者たちはわが軍に『魔道の目』がいることを想定したうえで動いていると思われます。
まずは勇者どもをもう一度攻撃する前にロジック城から追加情報を得ておいた方がいいでしょう。」
「わかった。その上で、勇者どもを確実に潰せる戦力を投入せねばな。場合によってはガイストと共同戦線を張る必要がありそうだ。」
ライガーは苦虫を潰したような顔で宣言する。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「すみません。私だけ特別扱いで…。」
俺たちが精霊馬に乗る中、アリーナ王女は空飛ぶ精霊の引く『エアカー風の乗り物』に乗りながら恐縮していた。
精霊馬よりずっと魔力消費が高いらしいが、明日香は『ちょっとくらい魔力消費が増えても大丈夫だから』とニコニコしながら答えたのだった。
俺がこっそり確認すると、『魔力消費は精霊馬の五倍だけれど、絶対値が少ないから全然問題にならないから安心して♪』と言われたので安心した。
これは王女が『王族だから特別扱い』したのではなく、精霊馬に乗ってもらったら五分としないうちに酷い車酔いならぬ、馬酔いを起こしてしまい、まともに乗れなかったため、『安定して乗れる乗り物』を明日香が選んでこうなったのだった。
なお、明日香が城までの往復で飛んでアリーナ王女を運ぶ時は飛んで一分くらいで『気絶してしまっていた』ため、問題にならなかったのだとか…。
「暗くなったので、今日はここまでにしましょう。」
日がそろそろ落ちようかという時、明日香が言いだした。
「宿泊用の携帯コテージを出します。二人用コテージが二つですので、二人ずつ泊まればいいですね。
組み合わせですが…。」
「ここは男女別でちょうどいいよな。明日香とアリーナ王女。それから俺とライの組み合わせで。」
「えええええ??!!!私、アリーナ王女は嫌ではないけれど、こちらの世界に来て、いろんな意味で本当に不安で…。お兄ちゃんと一緒の部屋でないと…。」
「明日香!落ち着け!俺と明日香が同じ部屋になったら、ライとアリーナ王女が一緒のコテージになるのだけど…。」
俺が言うと、明日香は『ああっ』と叫んだ。どうやら大切なことに気付いてくれたようだ。
「そうよね!お兄ちゃんの言う通りだわ。コテージをもう一つ用意しなくっちゃ♪」
違う!!そっちじゃない!!
結局明日香とアリーナ王女、俺とライピョンさんが同じコテージで寝ることでなんとか話し合いをまとめることができた。
明日香、俺の心理的な安定のためにあまり無茶を言わないでね!頼むから!
寝るまでの間、俺はライピョンさんといろいろな話をしたのだが、今まで武術をしたことのない俺にライピョンさんが『棒術』の稽古を付けてくれることになった。
今回出会った兵士クラスの相手でも俺が素手でとてもダメージを与えられるものではないので、何らかの武器である程度身を守れるようにしておいて、その間にライピョンさんと明日香が敵を殲滅すればいいのではということなのだ。
なお、アリーナ王女は今日の昼の戦闘でレベルが上がり、さまざまな防御魔法や神聖魔法を使えるようになったので、戦闘に関しても俺と違ってかなり活躍してくれそうだ。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「ナビによると、いよいよ魔族領との境界線ですね。皆さん気を引き締めていきましょう。」
明日香がナビを見ながら大きな森の手前で一旦停止した。
森の木々は今までの街道とは植生が違い、隙間のない真っ黒な森林を形成している。うかつに入り込んだらあっという間に迷子になってしまいそうだ。
「あら?敵対反応が多数近づいてきたわ。それも昨日よりも数も、そして質も上のようね!」
明日香の顔が厳しく、鋭く変化する。
「防御結界を張ります!!」
アリーナ王女が聖なる言葉を唱えると、俺たち全員が淡い光に包まれる。
ほぼ同時に森の奥から異様な殺気と共にイノシシのような風貌の獣人たちがゆっくり前進してくる。
レベルが上がったせいか、彼らの殺気がはっきりと感じられ、ライピョンさんが口を開く。
「兵士たちも、司令官も昨日の連中よりかなり強い。俺たちが本気になれば負けるようなことはないだろうが、油断しないように。」
そして、イノシシ兵士の後ろから一際大きなイノシシ獣人の戦士が姿を現す。
昨日のドラゴファイターよりもさらに一回り大きく、凶悪なオーラを纏っている。
「我は魔王軍六魔将が一、獣魔将ライガー副将のキングボアだ!!勇者の首は俺がもらいうける!!」
その巨体よりさらに大きな
キングボアの咆哮だけで、あたりの地面が震え、俺の心胆を寒からしめた。
だが、アリーナ王女とライピョンさんは毅然としてキングボアを睨みつけているし、明日香は全く表情を変えない。
「ライピョンさん。お兄ちゃんに変な攻撃が行かないうちにとっとと片づけちゃいましょう。私が
明日香の要請にライピョンさんが気合いを込めて、両手に雷撃を集めていく。
それを見て、イノシシ軍団は一気に駆け出し、同時にライピョンさんと明日香が叫ぶ。
『天空雷撃砲!!』『複合増幅!!』
ライピョンさんの掌に凄まじい光がともり、その光はイノシシ軍団のとある一点に収束して爆発する。
続いて、その爆発を起点にし、四方八方に雷撃が拡がり、あたりを席巻していく。
あまりの雷撃のすさまじい光に俺たちは目を開けていられなくなり、閃光が収まった時にはキングボア以外は黒こげになって倒れていた。
「馬鹿な?!!我が軍団を一瞬にして殲滅するだと?!!くそ!その魔術師だけでも刺し違えてでも倒してくれる!!」
半ば焦げながらもキングボアがハルバードを構え直して走ろうとするが、明日香が再び呪文を唱える。
「第七階梯魔法『イノシシの丸焼き』!!」
再び地面が割れると、キングボアは巨大なオーブンに飲み込まれ、断末魔の悲鳴を上げた。
「まあ、ちょうどお昼ご飯の時間だったのですね。まあ、いい味付けだわ。」
「まったくだ!明日香殿は本当に料理上手だな。いいお嫁さんになれるよ♪」
「そんな…。二人ともありがとう♪」
ねえ、君たち!!何を昨日と同じようにイノシシの丸焼きを食べているの?!!
「お兄ちゃん、ハーブソルトで上手に味付けができたんだよ。一緒に食べようよ♪」
ま、まあ、明日香がそう言うなら、お兄ちゃんも食べてもいいかもな♪
パッパカパッパッパー♪♪
俺が取り分けてもらったイノシシの丸焼きを口に入れようとした時、またもやレベルアップの効果音が響いた。
「おめでとうございます!!達則さんはレベルアップしました!今回はライピョンさんとちょっとだけ特訓もしたので、前回以上に身体系の能力も上がっています!加えて精神力、判断力と、召喚ポイントが向上しています。
それと、鑑定能力が身に付きました。パーティの仲間は無条件に、敵も抵抗を打ち破れば詳しいステータスを見ることができます。」
おおっ!!これがラノベでよく出る『鑑定能力』か!でも、仲間のステータスを勝手に見るのはどうかという気もするな。後でみんなに確認してから使ってみることにしよう。
…鑑定能力の説明部分はなぜか俺の頭の中だけに響いてきた。
…これはパーティ内に裏切り者がいる場合に使えるから…という配慮だろうか?
とはいえ、今のパーティにはそんな裏切り者がいるわけがないので、後で説明することにしよう。
「お兄ちゃん!!今度はレベルが三五から四四レベルにアップしてるよ!!今回も強敵相手だったようだからレベルアップがすごいよ!
召喚ポイントも三〇〇〇ポイントだよ。『闇の勇者』が二〇〇〇ポイント、『殲滅の勇者』二五〇〇ポイント、『巨大勇者』が三〇〇〇ポイントだから、闇の勇者を呼んでみたら?」
うん、確かに明日香の言う通りだ。
おれは魔剣士風のキャラをイメージし、心の中で『召喚!』と叫んだ。
いつものように俺の前に光が現れ、消えた時には豪華な机とともに美女が呆然として座っていた。
褐色の肌に黒目黒髪の二〇歳くらいのウェーブしたショートカットの髪の美女は俺たちをしばし見た後、口を開いた。
「ここはどこだ?君たちは何者だ?見たところ敵意はないようだが…。」
その女性を見た途端、ライピョンさんとアリーナ王女は厳しい顔になり、明日香の顔から表情が消えた。
「達則さん!この女性は魔族です!!気を付けてください!!」
アリーナ王女が俺に向かって叫ぶ。なんだって!!…でも、この女性からは悪意や禍々しいオーラは感じないのだけれど…。
「待ってくれ!君たちは一人を除いて人族のようで、私は確かに魔族だ。しかし、私は無用な戦いは好まない。そして、私を召喚したのはそこの青年だね。
君はなにか、止むにやまれぬ事情で私を召喚したのだろう?『君の魔法を解析』したら、悪意ある魔法ではないようだし、君からも変な邪気や悪意は感じないのだが…。
少し状況を説明してもらえるとありがたい。」
魔族の女性は理知的な瞳で俺に向かって話しかける。
最初は驚いていたようだが、だんだん冷静さを取り戻したようだ。
その様子を見て、アリーナ王女とライピョンさんも少し表情を和らげる。
確かに『闇の勇者』なら、魔族であってもおかしくないのかもしれない。
好戦的な魔王に抵抗するレジスタンスのリーダーのような女性…うん、カッコいい闇の勇者の役割にぴったりだね。
「ふううううん?そうやってお兄ちゃんを騙そうというのかしら?ま・お・う・様?」
氷のように冷たい瞳をした明日香の爆弾発言にその場にいた全員が凍りついた。
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