第85話 最後に巨大化するラスボスみたいな

 ユーキに盾代わりにされてボロボロになっては治療されてまた盾にされてを繰り返しているうちに、遂に人質天使の心が折れる。


「も、もうイヤだ‼︎ もうこれ以上痛いのも苦しいのもイヤだ‼︎」

「そう。その痛みや苦しみこそが生きてるって証なんだよ。生きるというのは楽しい事ばかりじゃない。だけどその痛みや苦しみ、悲しみを乗り越えた先には必ずその分幸せも……」


 ユーキが目を閉じて熱く語っている間も、天使達の攻撃を食らい続けてボロボロになって行く人質天使。


「ぐはあっ‼︎ うぐっ‼︎ ぶへぇっ‼︎ ひでぶっ‼︎」

「この世にはどんなに生きたくても生きられない人だって居るんだ。だから軽々しく死ぬとか殺すなんて言っちゃダメだよ! 分かった⁉︎」

「わ、分かったから、もう殺して……」

「もおっ! まだそんな事言って! 全然わかってないじゃなわあっ‼︎」


 ようやく人質天使の状態に気付くユーキ。


「ゴ、ゴメン! つい熱くなっちゃって気付かなかった!」


 すぐに人質天使を治療するユーキ。


「もう、ホント……勘弁してください。我が悪かったから……これからは命を大切にしますから……」

「ん。分かってくれて嬉しいよ! じゃあもう解放してあげるね」


 そう言って、ようやく人質天使を自由にするユーキ。

 人質天使に背を向けて他の天使に対して啖呵を切るユーキ」


「さあ! 次にこうなりたい奴は誰だ⁉︎ まだ向かって来るって言うなら、片っ端からぶっ殺しちゃうぞ⁉︎」

「いや、自分も殺す言うとるやないか〜いっ‼︎」


 人質天使のツッコミを合図に、四方を取り囲む天使から一斉に魔法攻撃を受けるユーキ。

 しかし人質天使共々巨大な丸い魔法障壁を張り、魔法攻撃を全て防ぐユーキ。

 障壁に当たって粒子となった魔力を、エターナルマジックで全て吸収して行くユーキ。


「終わった? じゃあ返すね!」


 ユーキが右腕をバッと前に出し手の平を広げると、ユーキを中心に全方位にレーザービームのような魔法が飛んで行き、前衛に居た天使を次々に落として行く。


「ぐわあっ‼︎」

「つ、強い‼︎ 強過ぎる‼︎」

「な、何なんだこいつのデタラメな強さはっ⁉︎」


 ユーキの圧倒的な力により、当初100人は居た天使達が、今や約半数にまでその数を減らしていた。

 そんな光景を、地上から信じられないといった表情で見上げているベリル。


「なっ⁉︎ バ、バカなっ‼︎ ひゃ、100人だぞ⁉︎ 私と同等の強さを持つ天使が100人も居たんだぞ⁉︎ それが何故イースひとりにここまで圧倒されるんだ‼︎」

「あんた達が雑魚だからじゃないの?」

「何だと⁉︎」


 ベリルを挑発するパティ。

 それに乗っかるセラ。


「そういえばババちゃんはぁ、パラスで覚醒したユウちゃんに一撃でぶっ飛ばされてましたもんねぇ」

「あ、あれは目にゴミが入ったからだ‼︎」

「神様のくせに、セコイ言い訳してんじゃないわよ!」


「フ、フフッ。いいだろう。まさかイースひとりに奥の手を使う羽目になるとは思わなかったが……」


 両手を左右に広げて叫ぶベリル。


「聖なる神々よ‼︎ 我とひとつになりて、我と共に悪を討ち滅ぼそうぞ‼︎」


 ベリルの言葉に呼応するように残った天使は勿論、ユーキに倒されて地上に落ちていた天使までもが光に変わり、ベリルの元に集まって来る。


「何だあ⁉︎」

「い、一体何が始まると言うのだ⁉︎」


 同じく光となったベリルと次々に合体して巨大になって行く光の塊。

 そして全ての天使が合体して光が消えると、そこには身長約20メートルはあろうかという、翼を持った巨大なケンタウロスのような生物が現れた。


「あれってまさか⁉︎」

「ケンタウロスニャ‼︎」

「ケンタウロスニャ? そんな可愛い名前でしたっけぇ?」

「そのパターンはもういいニャ‼︎ いや、そんなふざけてる場合じゃないニャ! 奴から感じる魔力は尋常じゃないニャ! さすがのユーキでもヤバイかもしれないニャ‼︎」

「そんな!」


「さあかかって来いイース‼︎ 我等の力、見せてやろうぞ!」

「なら、試してあげるよ! でやああああ‼︎」


 ユーキが巨大化させたロッドをベリルの頭に振り下ろすが、特に変わった様子もなく平然としているベリル。


「ありゃ⁉︎」

「そんなものか?」


 とてつもない速さで振り抜いたベリルの左腕に吹っ飛ばされて、激しく地面に叩きつけられるユーキ。


「ユーキ‼︎」


 頭を押さえながら体を起こすユーキ。


「あいったああ〜‼︎ 何てパワーだよ⁉︎」

「どうしたイース⁉︎ 私は痛くも痒くも無いぞ?」

「大勢で合体しておいて、偉そうにゆ〜な!」


 すぐにまたベリルに向かって行くユーキだったが、かなり不利な状況なのは誰の目にも明らかだった。

 そんな状況に危機感を感じた猫師匠が、ユーキの加勢に動く。


「マズイニャ! フィー! カオス! 奴に対抗出来るのはあたし達神ぐらいニャ! あたし達でユーキの加勢に行くニャ!」

「仕方ありませんね。報酬はシャル様の首と言う事で……」

「お前はあたしをどうしたいニャッ⁉︎」


 しかしカオスが待ったをかける。


「ま、まて猫! 行くのは構わんが、俺はユーキとの戦いで消耗しきっている。こんな状態では大して戦力にならん」

「だったらぁ、傷は私が治療してあげますぅ」

「お、お前は⁉︎」


 かつてリーゼルにおいて、自分がセラを殺した事を思い出すカオス。


「セラちゃんですぅ。以後お見知り置きをぉ」


 そう言ってカオスに治癒魔法をかけるセラ。


「カオスはセラに任せるとして、あとはパティ! お前も来るニャ!」

「え⁉︎ あたしも⁉︎」


 まさかの猫師匠の指名に驚くパティ。


「お前はまがりなりにも、神であるフィーの血を宿しているニャ! 覚醒した今のお前なら、充分奴に対抗出来る筈ニャ! それとも怖気付いて動けないかニャ⁉︎」

「冗談でしょ⁉︎ 当然行くわよ! 愛する妹兼嫁がピンチなんですからね!」


「という事であたし達は先に行くニャ! カオスの事はセラに任せるニャ!」

「ハァイ、セラちゃんにお任せぇ」


 一足先にユーキの加勢に向かう猫師匠、フィー、パティの3人。

 残されたカオスは治療を受けながら、複雑な表情でセラを見つめていた。


「お前は……俺が憎くないのか?」

「どうしてですかぁ?」

「お前は、あの時ユーキの側に居たヒーラーだろう⁉︎ お前を殺した張本人がここに居るんだぞ⁉︎ その俺を治癒するなど……」


「確かに私はあなたに殺されましたけどぉ、あなたの妹のフィーちゃんに生き返らせてもらいましたぁ。だからチャラですぅ」

「いや、それはフィーの功績であって俺の罪は……」


「いいえぇ。ユウちゃんがあなたを許したのなら、当然私も許しますぅ。私の生きる目的はユウちゃんの幸せですからねぇ。ユウちゃんがあなたと共にある事を望むならぁ、私もそうありたいですぅ」


 程なくしてカオスの治癒を終えるセラ。


「さあ、ケガは全て完治しましたよぉ」


 カオスの治癒を終えたセラが目を開き、カオスをじっと見つめる。


「私に償いたいと言うなら、非力な私に変わってどうかその力でユウちゃんを守ってあげてください。それが私の望みです」


 セラの言葉を目を閉じ、グッと噛みしめるカオス。


「済まない。任せてくれ! ユーキは必ずこの俺が守ってみせる!」


 だが飛び立とうとするカオスの肩に、背後から手を乗せるセラ。


「ああでもそう言えばぁ、ユウちゃんもケジメはちゃんとつけないとって言ってましたねぇ」

「え⁉︎」


 そう言って振り向いたカオスの頬に、渾身のビンタを炸裂させるセラ。


「ぶふうっ‼︎ やっぱり殴るんか〜いっ‼︎」






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