第47話 ガセの語源はお騒がせから来ているとか

 パル達とラケルの事情を聞いたその夜、ヴェルンから運ばれて来た食料でささやかながら晩餐会が開かれた。

 勿論その中にはパル達やノイン達、ナンバーズのメンバーも含まれていた。


「さあ、これからどうするね? 残るナンバーズはあと4人。いや、ジョーカーを含めるなら5人になる訳だが。パラスまで攻め込むか、それともここで迎え撃つか……」


「ジョーカーの話だと、残った上位のナンバーズ4人は、別格の強さを持ってるらしいですね?」

「同じナンバーズとして、その辺はどうなのよ? この中だとノインがナンバー9だから1番近いんじゃないの?」


「確かにフェイスカードの3人とエースは、ナンバー10以下のわたくし達とは別格の強さという話ですわ」

「フェイスカードって言うんだ……」


「でもわたくしは、実際にその4人が戦っている所を見た事がありませんので、何とも言えませんわ。いえそれどころか、ローブで顔を隠している方や複数の顔を持つ方。全く姿を見せない方とかで、誰一人まともにお顔を拝見した事が無いんですわ」


「ガセなんじゃないの?」

「ふむ……まあ何にせよ、今日はネム君達も疲れているだろうから休むとしようか」

「じゃあユーキはあたしと……」


  パティが切り出す前に、既にユーキにはネム達召喚シスターズが絡み付いていた。


「ユーキ姉様。昔ネムが使ってた部屋があるから一緒に寝よ⁉︎」

「あれ? ネム、ひとりでもトイレに行けるんじゃなかったの?」

「むう……別に怖いからじゃないもん! ユーキ姉様と寝たいだけだもん!」

「フフ、ゴメン冗談。いいよ行こ」


「パルもユーキ姉様と同じ部屋がいいのよ!」

「左に同じなの〜」

「右なのよ!」

「ええ⁉︎ でも4人も居たらベッド狭いんじゃないの?」

「大丈夫。それぐらい余裕」

「そう? ならいいけど」


 両手に花状態のユーキが、奥の部屋へと消えて行く。


「あ、あたし、も……」


 完全にタイミングを逃したパティの手が、虚しく宙をかいていた。


「パティちゃん。ひとりで寂しいならぁ、私が一緒に寝てあげましょうかぁ?」

「結構よっ!」



 パティがひとり枕を濡らしたその翌朝、みんなで朝食をとっていると、見張りの兵士が入って来る。


「報告します! 何者かが1名、こちらに向かって来ています!」

「敵⁉︎」


 急いで見に行くユーキ達。

 その人物の正体に、いち早く気付くパルとチル。


「あれは! リコッタさんなのよ!」

「リコッタさん? て誰?」

「昨日話したご飯くれるお姉さんなの〜」

「ああ……」


「良かったのよ! リコッタさん無事だったのよ!」

「惨敗したの〜」

「心配したのよ!」


 しかし、喜ぶパル達とは対照的に、妙な違和感を覚えるパティ達。


(シェーレで暮らしてる頃にパル達を助けてくれた人? でもパラス軍が攻めて来た時行方不明になったって……その人が都合良くこのタイミングで現れる?)


 パティ達の不安をよそに、リコッタを出迎えるべく駆け下りて行くパルとチル。


「リコッタさん! パルはここなのよ!」

「カレーはここなの〜!」

「あ! パル、チル、待って!」


 そんなパティ達の違和感の正体は、ノインによって判明される。


「あら? あの方は……クイーンじゃありませんの?」

「クイーン⁉︎」


 ノインの言葉に、パティ達に一気に緊張感が走る。


「クイーンって、サーティーンナンバーズのクイーン⁉︎」

「そうですわ。もっともクイーンは幾つものお顔をお持ちですので、あれもその中のひとつですわ。確か以前にお見かけしたことがありますわ」

「それじゃ……いけない! パル! チル!」


 ナンバーズの報復を恐れたユーキが慌ててパル達の後を追いかけるが、既にパルとチルはクイーンの近くに居た。


「リコッタさんなのよ!」

「寒ブリなの〜」

「久しぶりなのよ!」


 クイーンの両手が上がり、パルとチルの頭に振り下ろされる。


「パル! チル!」


 ユーキが叫んだ直後、振り下ろされたクイーンの両手が、パルとチルの頭をなでなでする。


「フフ、相変わらずだね? パル、チル。無事でなによりだよ」

「え⁉︎」


 クイーンの行動に緊張が解けるユーキ達。


「リコッタさん、今までどこに居たのよ⁉︎ 凄く心配してたのよ!」

「チルも心肺停止したの〜」

「ガチだからボケなのかマジなのか分かりづらいのよ!」


「ゴメンね〜。訳あって今までは2人に会えなかったんだ〜」

「その訳とやら、我々にも聞かせてもらえるかね?」

「アイ君……」


 後から追いかけて来ていたアイバーンがクイーンに声をかける。


「分かりました。まあ立ち話も何なので、中でお茶でも飲みながら話しませんか?」

「いやそっちが言う⁉︎」


 クイーンの話を聞くべく城の中に入ったユーキ達だったが、パルとチル、そしてユーキ以外のメンバーは、クイーンから10メートルは離れて座っていた。


「あの〜、そんなに離れてたら聞こえにくくないですか〜⁉︎」

「そうだよみんな! 何でそんなに離れてるのさ⁉︎ もっとこっちに来なよ⁉︎」


「いや、しかしだねユーキ君。彼女はナンバーズのクイーンなのだろう? いくらパル君達の知り合いとはいえ、油断はしない方がいい」

「大丈夫だよ。僕の見た感じでは、この人は悪い人じゃなさそうだから」


「またユーキ君の、人の善悪を見抜く目って奴かね……」

「あたし最近思うんだけど、もしかしてユーキってば誰でも良い人に見えるんじゃないかしら?」


「そうですねぇ。パティちゃんを仲間にしてるぐらいですからぁ、そうかもしれませんねぇ」

「それどういう意味よっ‼︎」


(いえ、最近のユーキさんは結構パティさんを警戒しています)


 何て事は、口が裂けても言えないメルクであった。





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