第36話 召喚士最強説

 チルが早々に食事を終えたので、結局2人で戦う事にしたパルとチル。


「ヘルハウンド‼︎ 行くのよ‼︎」


 ヘルハウンド3体を前に出すパル。


「ヘルヘル、行って!」


 妙なあだ名を付けられたヘルハウンド3体で対抗するネム。

 お互い牙と爪で幾度かの攻防があった後、3体全てネムのヘルヘルが勝利を収め、緑色の魔石が3個地に落ちる。


 パル&チルの召喚獣、残り7体。

 ネム&ロロの召喚獣、残り10体。


「なっ⁉︎ 何で同じヘルハウンドでパル達の魔獣ばかりが倒されるのよ⁉︎」


 パルと同じように疑問を投げかけるメルク。


「ネムちゃんはヘルハウンドには確かに同じ翡翠石を使ってました。魔石も召喚獣のランクも同じで、何であんなに一方的な結果になるんでしょうか?」


 その疑問に猫師匠が答える。


「魔力の差ニャ」

「魔力ですか? でも、確かカオスがナンバーズは全員レベル7って言ってましたよ? 同じレベル7であんなに差が出るもんなんですか?」


「レベル7は確かに最高レベルニャ。だけど、それはあくまでそれ以上の基準が無いからそう言ってるだけニャ。だから同じレベル7でも魔力や強さに差があるのは当然ニャ」


「そうか……他のレベルなら範囲に明確な基準があるけど、基準に上限の無いレベル7だといくらでも上があるって事なんですね?」


「そういう事ニャ。もっとも、そんな極端な魔力を持ってる奴なんて滅多に居ないから、レベルの最高値を7って言ってるだけニャ」


 猫師匠の説明に補足を入れるアイバーン。


「だが、だからと言って必ずしもレベルの高い者が勝つとは限らない。現にメルク。お前だってレベル5の身でありながら、レベル7のナンバーズを2人も撃破したんだからな」


 アイバーンの言葉に、照れ臭そうに応えるメルク。


「そ、それは……去り際のユーキさんの言葉がありましたから」

「ん? 魔法は心次第って奴?」

「ハイ」


「ん〜。メル君ってば元々センスあったしね。だから自信さえ持てば絶対に勝てるって思ったから。でもそれが真理なだけに、いくらネムの魔力が圧倒的でもこの勝負、どう転ぶかは分からないよ。結局最後は想いの強い方が勝つんだから」


 ヘルハウンドを全て倒されたパルが、今度はサイクロプス3体を前に出して、ネムのヘルヘルを倒しにかかる。


「ネム姉様の魔力は油断ならないのよ! 魔獣のランクが上とはいえ、1対1の戦いは避けるのよ!」


 その言葉通り、ネムの1体のヘルヘルに対して2体、もしくは3体のサイクロプスで襲いかかるパル。

 パルが危惧したように、1対1では押され気味だったサイクロプスだったが、数体がかりなら何とか倒す事が出来た。


 パル&チルの召喚獣、残り7体。

 ネム&ロロの召喚獣、残り8体。


 ヘルヘル2体が倒されたのを見たネムが、残り1体のヘルヘルを救出すべく、サイクロプスを前に出す。


「クロちゃん! ヘルヘルを助けて!」


 しかし、またおかしなあだ名を付けられたサイクロプスの救援はギリギリ間に合わず、ネムのヘルヘルが全て倒されてしまう。

 その直後、パルのサイクロプス2体を撃破するネムのクロちゃん。

 更に1体残ったパルのサイクロプスに襲いかかるネムの3体のクロちゃん。

 

「ヘルヘルの仇をうたせてもらうよ!」


 だが次の瞬間、1体だけ残ったパルのサイクロプスに、ネムのクロちゃん3体全てが倒されてしまう。


「えっ⁉︎ 何で⁉︎」


 信じられないといった表情のネム。

 またメルクの質問タイムが始まる。


「ええっ⁉︎ 今度はパルちゃんのサイクロプス1体にネムちゃんのサイクロプス3体が倒されましたよ⁉︎」

「たぶん魔石の差ですねぇ」

「魔石、ですか? あっ! つまり普通Cランクのサイクロプスを召喚するには同じランクの紫雲石を使う所ですが……」


「そうですぅ。先に倒された2体のサイクロプスには定石通り紫雲石を使ったんでしょうがぁ、あの残ったサイクロプスには蒼天石。もしくはぁ、更に上の紅蓮石を使ってるかもしれませんねぇ」


 パル&チルの召喚獣、残り5体。

 ネム&ロロの召喚獣、残り4体。


 パル達のサイクロプスのカラクリにネムも気付く。


「そっか。本来のランクより上の魔石を使ってるんだ? でもそれだと、結局残った紫雲石が無駄になっちゃうよ?」

「当然、そこは抜かりないのよ! チル! 行くのよ!」

「分かったの〜。奥の手第1弾なの〜」


 そう言って残った紫雲石を地面に置き、魔方陣を描くチル。


「レイス召喚なの〜!」

「あ、あれはっ⁉︎」


 魔方陣が光を放つと、そこからかつてベルクルでメルクを死の寸前まで追い詰めたレイスが現れた。


「あれは、メル君の背中から刺されキャラを確立させたレイス!」

「な、何ですかパティさん⁉︎ そのイヤな称号は⁉︎」

「しかしランクが2つも下の紫雲石でAランクのレイスを召喚するとは、あの娘達中々やるニャ」


「だけど、いくらレイスがAランクの魔獣とはいえ、使用している魔石が紫雲石では本来の強さには遠く及ばないんじゃないんですか?」

「そうとも言えないニャ。レイスはフェニックスなんかと同じ、特殊能力系の魔獣ニャ」

「特殊能力……それって、あの呪いとかの?」


「そうですぅ。メルちゃんは自分が体験してるから分かると思いますがぁ、レイスには通常の物理攻撃は通用しないんですぅ。唯一効果的なのがヒーラーの使う魔法ですぅ。つまりぃ、あの時あそこに私が居なかったらぁ、メルちゃんは確実に死んじゃってた訳ですぅ」


「そうか! いくら攻撃力が高くても、ヒーラーの魔法が使えないネムちゃんではレイスを倒す事が出来ないんですね⁉︎」

「もっともぉ、治癒魔法が使える魔獣を召喚出来るならぁ、話は別ですけどねぇ」

「そんな魔獣、聞いた事無いわよ!」

「ネム……」


 勝利を確信したパルが、ネムに降伏勧告をする。


「さあ! 呪いを受けたくなかったら降参するのよ! 例えルールが無くても、ネム姉様を殺したくはないのよ!」

「もう勝ったつもり? こっちにだって奥の手はあるよ!」

「強がりなのよ! 治癒魔法が使える魔獣なんて聞いた事無いのよ!」

「分かってないな〜。無ければ自分で作ればいい」

「え⁉︎」


 そう言って地面に紅蓮石を置き、魔方陣を描くネム。

 そして光と共に現れた召喚獣に、BL隊の誰もが驚愕する。


「何ぃ⁉︎」

「バ、バカな!」

「なん……だと⁉︎」

「嘘、でしょ⁉︎」

「あれってどう見ても……だよね?」

「ですよね⁉︎」


 ネムが召喚したのは何と、魔装状態のセラそっくりの召喚獣だった。


「召喚獣、セラ姉様!」


「今までに見た事の無い、とても美しい召喚獣ですぅ」

「自分で言うんじゃないわよ!」





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