第11話 リアルBL隊はダメェ

 セラ達を見送ったアイバーンがトゥマール城に帰って来ると、そこには随分早くに戻って来ていたブレンが居た。


「よお! 戻ったか、アイバーン!」

「ブレン⁉︎ 随分早いな? 貴様、ちゃんとシャル様達をお見送りしたのだろうな⁉︎」

「当たり前だ! と言うより、シャル様達はさっさと飛行魔法で飛び立ってしまったので、あっという間だったがな」

「なるほど、そうか」


「ところで、メルクの帰りが遅いようだが、大丈夫か⁉︎ まさか、ナンバーズの襲撃に遭ってるんじゃ⁉︎」

「なに、心配いらないさ。仮にナンバーズと戦う事になったとしても、メルクなら必ずや撃ち倒してくれると信じている。あいつの素質は、貴様もよく知っているだろう⁉︎」


「そりゃあメルクの素質は俺様も認めているが、我らに追い付くにしてもまだ先の話だろう⁉︎」

「確かに、私クラスになるのはまだまだ先の事だろうが、貴様にならあと数年いや数ヶ月、数週間、いやいや数日もすれば簡単に追い越してしまうぞ⁉︎」

「数日は言い過ぎだああ‼︎」


 いつものようにアイバーンとじゃれあっていたブレンが、ふと真面目な顔になる。


「だが、数日先では遅いかもしれない。念の為に様子を見てくる!」


 そう言って、動き出すブレン。


「待て貴様! 城の守りはどうするつもりだ⁉︎」

「団長さんが居れば問題無いだろ⁉︎」

「決戦前だというのに、団員1人の為に勝手な行動をするんじゃない‼︎」

「だから、肩書きのせいで動けないお前の変わりに、俺様が行ってやるってんだろ⁉︎」


 手を振りながら城を出て行くブレン。


「貴様だって副団長という肩書きがあるだろう⁉︎ だがしかし……すまん、メルクの事を頼む」



 そのメルクは、バーダの爆発魔法を受けた影響で、未だ地面に倒れたままだった。


「さて、それではマナ王女の船を追いかけるとしますか」


 飛行魔法を使おうと杖を構えたバーダが、大気の違和感に気付く。


「何です? 海の近くだというのに、やけに空気が乾燥して……かはっ‼︎」


 大気中の水分量の少なさに、徐々に呼吸困難に陥るバーダ。


「ま、まさか⁉︎」


 ハッとなりメルクの方を見るバーダ。

 すると、死んだかと思われたメルクがゆっくりと立ち上がって来ていた。


「あ、あなた! い、生きていたんですか⁉︎」

「あなたの事はネムさんから聞いていましたからね。咄嗟に対処出来たんです」

「ネム王女⁉︎ なるほど、ハア、そういう事ですか。そ、そのまま防御するのではなく、ハア、地面にうつ伏せになって、せ、背中側に防御魔法を展開する事で、ハア、ダメージをさ、最小限に抑えた訳ですか……ハアハア」


「男を相手にハアハア言って……あなた、変態ですか?」

「あなたが仕掛けてるんでしょおっ‼︎ ゴホゴホッ‼︎」


「ええそうです。この技は、僕が本気で倒したいと思った相手にしか使わない技。強力過ぎて、並みの相手には使えない技。その技の名は、メールシュトローム」


 メルクが呟くと、バーダの周りの大気が周囲の水を取り込みながら徐々に、ゆっくりと回転を始める。

 だんだん回転が速くなるにしたがって、更に苦しそうな表情になって行くバーダ。


(こ、これは⁉︎ 私のウォーターボールと同じ原理? 回転しながら周囲の水を取り込んでいるのですか? いや、しかしこの息苦しさは水だけではない。もしかして、空気中の酸素までをも取り込んで⁉︎ 全く……優しい顔をして、何て凶悪な魔法を使う方ですか⁉︎ フフ、気に入りました。ならば私も全力でお相手しましょう!)


「魔装‼︎」


 息苦しい中、バーダがどうにか叫ぶと、魔道士タイプの魔装衣が装着される。


「さあ! こんな渦など、わ、私の水魔法で、ハア、吸収してあげますよ! ハア、ウォーターボール‼︎」


 先程メルクの放った千の矢を全て吸収した水の球を、自分を囲むように展開するバーダ。

 しかしメルクの水を吸収するどころか、逆にバーダの作った水の球が渦に飲み込まれていく。


「バ、バカなっ⁉︎ い、いくら強力な魔法とはいえ、ハア、2つもレベルの低い者の、ま、魔法に飲まれる筈が……」


 酸素不足により、徐々に意識が遠のいていくバーダ。


(ま、まさかこの少年。この短期間の間に、さ、更にレベルを上げたというの……です……か……」


 膝から崩れ落ちるバーダ。

 バーダを殺さずに確実に勝利する為、バーダの状態を見ながら魔法を消すタイミングをうかがっているメルク。


(まだ、もう少し。完全に意識を失うまでは技は解けない。不完全な状態で解放してしまうと、おそらく同じ技は通用しない。これで決めないと)


 だが次の瞬間、何かを感じ取ったメルクが、バッとその場から飛び退く。

 同時に、解除していないメールシュトロームが消滅してしまう。


「メールシュトロームが⁉︎ 誰ですっ⁉︎」


 メルクが見つめた先には、まるで医者が着る白衣のような魔装衣をまとった男が居た。

 その男は倒れているバーダを軽蔑するような冷たい目で見下ろして、言葉を吐き捨てる。


「テメェが汚名返上したいって言うから付き合ってやったのに、何やられそうになってやがる⁉︎ いや、俺が助けなかったらテメェ確実にやられてたよな⁉︎ 相手が格下だからってナメてかかるからだ、バカが!」


 男に助けられたバーダが、呼吸を整えながら立ち上がって来る。


「フ、フフ、ありがとうございます、助かりましたよ」

「別にテメェの為にやったんじゃねぇよ! ただでさえカオスのダンナを無視して始めちまったんだ。これでナンバーズが負けたとあっちゃ、俺までダンナにぶっ殺されちまうじゃねぇか!」


 男の言葉にメルクが反応する。


「もしかして、あなたもナンバーズですか?」

「ん? まだ名乗ってなかったか? なら、改めて自己紹介するぜ! 俺はサーティーンナンバーズの1人、ナンバー3のトレスだ! よろしくな!」


(ナンバー3、バーダさんのひとつ上)


「ナンバーズが2人、ですか……」

「ああ、心配すんな! あんたの相手は俺だけだ! いくら敵とはいえ、女1人に男が2人がかりってのはさすがにカッコ悪いからな!」


「え⁉︎ 女⁉︎ あの〜、もしかしてその女って、僕の事でしょうか?」

「他に誰が居るってんだよ⁉︎」

「僕、男なんですけど……」

「なあっ⁉︎」


 驚いた表情で固まるトレス。


「男?」

「男です」


「僕っ娘じゃなくて?」

「男です」


「男の娘?」

「純粋ノーマルな男です」


 しばしの沈黙が流れる。


「ちきしょおおお‼︎ 俺が勝ったら彼女になれって条件を突き付けて勝負しようと思ってたのにいいい‼︎」

「いや、何を考えてるんですかあなたは⁉︎」


(ああいや、僕達もユーキさんに同じような事をした訳ですから、人の事は言えませんね)


 ひとしきり叫んだ後すうっと落ち着き、腕組みをしながらメルクをじっと見つめるトレス。

 警戒して弓を構えるメルク。


「いや、これだけ可愛かったら、別に男でもいいか?」

「それ、マジでやめてください」




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