第6話 男の娘とは、うまく言ったものだ

 ユーキ達が街に出かけた頃、置いてけぼりを食らったパティがふて腐れていた。


「何であたしは居残りなのよ〜⁉︎ あたしだってユーキと遊びに行きたかったのにいい‼︎」

「サーティーンナンバーズへの対策を考えるって言ったでしょぉ⁉︎」


「今この時にもユーキが襲われるかもしれないじゃないのよ〜⁉︎」

「カオスは戦いに関してはルールを守る奴ニャ! 決戦開始前に仕掛けて来る事はまず無い……筈ニャ」

「自信無いんじゃないのよ〜!」


「だからちゃんと護衛も付けている。ユーキ君がまともに魔装具を使えない今、現状BL隊の中で最も戦闘力が高いのはネム君だ。それに2人が暴走しないようにメルクも居る。心配無いさ」

「ううう〜」


 不本意ながらも、一応納得したパティであった。


パティが唸っていた頃、とりあえず仮の魔装具を購入して契約を済ませたユーキ達が、ゲームセンターに来ていた。


「さあ! 閉じ込められてた分、遊ぶぞ〜‼︎ ネム、何からやる⁉︎」

「ネム、また姉様に取ってほしい物があるの」

「クレーンゲーム? いいよ、んじゃ行こ!」

「うん」


 ユーキ達が目的のクレーンゲームコーナーに行くと、黄色い髪のショートヘアーな、ユーキに匹敵する程の美少女が先にプレイしていた。


「えと……あれ、なんだけど……」

「先客が居るのです」

「そだね。じゃあちょっと待ってよ〜か? 人のプレイ見るのも勉強になるしね」

「うん」


 そう言って、少し離れた場所から少女のプレイを眺めているユーキ達。

 しかしその少女は、中々景品のぬいぐるみを取る事が出来ず、何度も何度も挑戦していた。


「う〜ん、結構手こずってるみたいだね。どうする? 一旦他のとこ行く?」

「ううん。ネム、勉強になるからもうちょっと見てる」

「そう? ならいいんだけど」


「それにしてもあの娘、何だかユーキさんに似てますね?」

「え⁉︎ そう?」

「何ていうか、余り上手くないのに凄く楽しそうにゲームしてるとことか」

「ぶう〜っ! それじゃあまるで、僕がゲーム下手みたいに聞こえるじゃないか〜!」

「あ、いえ! そういう意味ではなく、楽しそうにっていう部分がです」


 焦って取り繕うメルクの言葉を、ネムが否定する。


「そんなに楽しそうでもないみたいだよ?」

「え⁉︎」


 ネムの言う通り、何度やっても取れない事に苛立ち、段々声を荒らげる少女。


「何だよ〜! ちっとも狙った所に行かないじゃないか〜!」

「かなりお怒りなのです」

「ああ〜、クレーンゲームってのは、店によっては反応の鈍いやつもあるからね〜」

「あ! でも今度はいい所で止まったよ⁉︎」


 絶好の位置で止まったクレーンがゆっくりと下がって行き、ぬいぐるみをガッチリと掴む。


「よお〜っし! もらったああ‼︎」


 勝利を確信して、握り拳を突き上げる少女。

 しかしぬいぐるみはピクリとも動かず、クレーンの爪はただぬいぐるみの表面をなぞるだけだった。


「なあっ⁉︎」


 信じられないといった表情で絶句する少女。


「うわ〜、かなり設定が弱いな〜。あんなパワーじゃ直接持ち上げるのは無理だよ」


 少女の顔が、段々怒りの表情へと変わって行く。


「こんな……こんな……こんな悪徳マシン、許さない‼︎」


 少女が叫ぶと同時に胸のペンダントを引くと、巨大なハンマータイプの魔装具が出現する。

 そして、そのハンマーを大きく振りかぶる少女。


「え⁉︎ あの娘まさか⁉︎」

「うわああ‼︎ 待て待て待てええ〜‼︎」


 まさかの行動に、大慌てで少女を後ろから羽交い締めにするユーキ。


「落ち着け〜‼︎ 何をやろうとしてるんだ君は〜⁉︎」

「離してよ‼︎ こんな卑怯な機械、ボクがぶっ壊してやるんだああ‼︎」

「いや、クレーンゲームってのは大体こんなもんだから〜‼︎」

「もお〜! 誰だよ〜⁉︎ ボクの正義執行を邪魔するのは〜⁉︎」


 背後に居るユーキを見た少女がハッとなり、動きを止める。


「もしかして……ユーキちゃん? そうだ‼︎ ユーキちゃんだ‼︎ ボク、闘技場の試合全部見たよ〜‼︎ お願い、サインちょうだい‼︎」

「ええ⁉︎ このタイミングで⁉︎」


 大声ではしゃぐ少女の影響で、周りの人々がユーキに気付き始める。


「え⁉︎ ユーキちゃん⁉︎」

「ホントだ‼︎ ユーキちゃんだ‼︎」

「ああっ! ネムちゃんとロロちゃんも居るぞ⁉︎」


 その声をきっかけに、どんどんユーキ達の周りに人が集まって来る。


「な、何だか大騒ぎになってきたのです」

「むううう〜。撤収〜‼︎」


 ユーキの号令でゲームセンターから脱出するユーキ達。

 しばらく走った後、狭い路地で一息つく。


「ふうっ! 危うくパニックになる所でしたね」

「ネムの事も知ってた」

「しょうがないよ、みんな有名人だもん!」

「ユーキさん、何を他人事みたいに……」


 しかし、メルクが話しかけた人物は、ユーキではなく先程の少女だった。


「ボクはユーキちゃんじゃないよ? ボクの名前はラケル! ユーキちゃんと同じ14才!」

「なあっ⁉︎ 何で君まで付いて来てるんだよ⁉︎」

「だって、まだユーキちゃんのサインもらってないし」

「もうっ! 一体誰のおかげで大騒ぎになったと! はあ……まあいいや。分かりました! サインでも何でも書かせていただきます」

「やった!」


「しかしラケルさんって、やっぱりユーキさんと似てますね? その〜、何ていうか……雰囲気とか、凄くかわいい所とかも」


 メルクにかわいいと言われて喜ぶラケル。


「うわあ〜っ! ユーキちゃんと似てるなんて嬉しいな〜! それにかわいいだなんて。だけど残念! ボクは男なんだ!」


「ええええええ〜‼︎‼︎」


 驚愕するユーキ達。


「そ、そうなの⁉︎」

「男、ですって⁉︎ まさか……」

「こんなにかわいいのに」

「いわゆる男の娘、という奴なのです」


「でも、どこからどう見ても女の子なのに男だなんて……ますますユーキさんみたいですね」

「いや、僕はもう一応、女の子で確定してるから〜‼︎」



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