第79話 既成事実さえ作れば

 ひと通りの説明を終えたユーキ達。


「一応、これで全部話したと思うけど、他に何か気になる事ある?」


 みんなに確認を取るユーキに、メルクが質問をする。


「ユーキさんの事は分かったんですが、パティさんの事はどうなったんでしょうか? 本当にフィーさんの娘なのかとか、本当にユーキさんと姉妹なのかとか」

「そ、そうだったわ! フィー! そこはどうなのよ⁉︎」


「パティが私の娘なのは本当です。そして、父親がマルス様だという事も……」


 フィーの答えに激しく反論するマルス国王。


「ま、待ってくれフィー君とやら‼︎ マナちゃん達にも散々問い詰められたが、私は本当に身に覚えが無いのだ! 現に君に会ったのも今日が初めてなんだから」


「覚えてないのは無理もありません。何故なら、あの時は私本来の姿でしたから」

「本来の姿?」

「では、お見せしましょう」


 そう言って立ち上がると、どんどん体が成長して行き、妖艶な大人の女性の姿に変わるフィー。


「う、美しい……」

「フィーさんってこんなにも色っぽい方だったんですね」


 大人の色気満載のフィーの姿に魅せられる面々。

 だが、その姿を見たセラだけは違う反応をしていた。


「ああ、良かったですねぇパティちゃん。どうやらフィーちゃんはあなたの母親では無いみたいですよぉ」

「え⁉︎ それどういう事よ? セラ」

「だってぇ、フィーちゃんとパティちゃんでは、胸のサイズが違い過ぎますぅ。2人が親子である筈無いですぅ」

「あ、あんたって娘はこんな時まで〜‼︎」


 お馴染みのアイアンクローが、セラの頭に食い込んでいた。


「そ、その色っぽい……あいや、その姿! 確かに見覚えがある!」

「あなたやっぱり〜⁉︎」

「いや! ち、違う‼︎ ただ見覚えがあるだけだ! 私は何もしていない‼︎」


 あちこちで制裁が行われていたが、スルーして語り始めるフィー。


「今から18年程前。その頃私はまだパラス城で、兄カオスと共に暮らしていました。そしていつものようにトゥマールのアイリス様の所に遊びに行こうと、アイリス様の大好きなゲームをいっぱい抱えて飛行していました」


「アイリスさんもゲーム好きだったんですね?」


「ちょうどリーゼルの上空に差し掛かった頃、いきなり前方から飛空型魔獣の群れが襲いかかって来まして。両手が塞がっていた私は迎撃する事が出来ず、そのまま墜落してしまったのです」


「ゲームを捨てようとはしなかったのね……」


「リーゼル城の近くに落ちた私は、墜落のショックで気を失い、ちょうどそこへやって来たマルス様に襲われて……」


「父様サイテー‼︎」

「あなた‼︎ 見損ないました‼︎」

「ままま待て‼︎ 確かにフィー君が空から落ちて来たのは事実だが、私はただ傷の手当てをしただけだ‼︎ それ以外は何もしていない‼︎ フィー君も何とか言ってやってくれ‼︎」


「ああ、襲われたというのは冗談です。本当にただ傷の手当てをしていただいただけです。マルス様とはそれっきり1度も会っていません。これでいいですか? マルス様」

「含みのある言い方はやめてくれ〜‼︎」


「でも、それじゃあパティさんはどうやって?」

「やっぱりフィーの出まかせじゃないのよ〜‼︎ 焦って損したわ!」

「いいえ、何度も言いますが、パティが私の娘なのは事実です」

「だから〜! マルスさんとは何も無かったんでしょ? それでどうやってあたしが産まれるのよ⁉︎」


 そこへ、猫師匠が割って入る。


「マルス! フィーを助けた時お前、指先とかにケガをしてなかったかニャ⁉︎」

「え⁉︎ ケガ、ですか? さあ、何分古い話なのでよく覚えてませんが」

「師匠。指のケガが何の関係があるのよ⁉︎」


「何かのはずみに、マルスの血液が傷口を通してフィーの体内に入った可能性があるニャ。それでパティが産まれたニャ」

「ち、ちょっと待ってよ‼︎ 何⁉︎ 神様ってのはそんな事で子供出来ちゃうの⁉︎ うかつにケガもできないじゃない⁉︎」


「神様だからというより、魔族だからと言った方がいいですね。もっとも、本人にそのつもりが無ければ、勝手に子供が出来たりはしませんがね」

「じゃあフィーは、子供を作ってもいいって思ったって事?」


「そういう事です。マルス様の血液が体内に入って来たのは分かりましたし、すぐに消す事も出来たんですが、神と人間の混血児というのも面白そうだったので、そのまま産む事にしました」


「面白そうって……」

「まあ、産むと言っても人間のように時間をかけて、というのではなく、ほとんど召喚のような感じですけどね」

「つまり悪魔召喚ですねぇ……痛たたた! 痛いですぅ‼︎」


 無表情なパティの指先が、再びセラの頭に食い込んでいた。


「手順こそ人間とは違えど、マルス様の血によって産まれた訳ですから、パティとユーキさんは姉妹と言っても差し支えないかと……ただ、その事を知った兄カオスに激怒され散々ケンカした後、結果私は兄の元を離れ、シャル様の所でパティを育てる事にしたのです」


「何故、アイリスさんの所ではなくシャル様の所に?」

「勿論私も最初はアイリス様の所に行ったんです。しかしアイリス様は、自分は神々に目をつけられているから、もし私やカオスの事を神々に知られたら、パティにまで危険が及ぶ可能性があるからシャル様の所に行くようにと言われたんです」


「そうだったんですね」


「そしてイヤイヤでしたけど……」

「イヤイヤだったのかニャ⁉︎」


「シャル様の所に行ったんです。そういう事情でしたので、私が母親である事は秘密にして」


「やっぱり、本当なんだ……」


 無表情のまま呆けていたパティが、何かを閃いたようにハッと明るい表情になる。


「フィー‼︎ その話が本当だとして、人間との子供を作るには相手の血液が必要なの⁉︎」

「いえ、必ずしも血液である必要はありません。要は相手の遺伝子を体内に取り込めればいいのです」

「それってあたしでも出来る⁉︎」

「パティの能力はまだ未知数ですが、大半は私の能力を受け継いでいると思うので可能でしょう」


 更に嬉しそうな顔になったパティが、優しくユーキに語りかける。


「ユーキ〜。ちょっと髪の毛一本ちょうだ〜い」

「いや、あげないよっ⁉︎」



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