第56話 だから、アイリスフィールじゃないってば
「いい加減しつこいよ! お姉ちゃん⁉︎」
逃げる足を止め、直径30センチ程の黒い魔法弾をユーキに向けて放つトト。
羽を操り、その魔法弾に何本かの羽を刺すと空中で四散する魔法弾。
「まだまだ‼︎」
両手で交互に、玉を作っては投げ作っては投げを繰り返すトト。
攻撃に回していた羽の殆どを防御に回して迎撃し、四散した魔力をどんどん取り込むユーキ。
「回避に専念していたトト選手が、ついに反撃に出ました‼︎ 先程まで優勢だったユーキ選手が、今度は一転して防御に回っています‼︎」
「チャンスですよ! あれだけ魔法弾を撃ってくれたら、ユーキさんはどんどん魔力を吸収して行けます!」
喜ぶメルクとは裏腹に、怪訝な顔をしているアイバーン。
「妙だな……」
「え? 何が妙なんですか? アイバーン様」
「カオスはリーゼルでの戦いで、ユーキ君のエターナルマジックを実際に体験している筈だ。遠距離魔法を放てば魔力を吸収されるだけだと分かっているだろうに、何故わざわざユーキ君の魔力量を増やすような真似をするのか⁉︎」
「何だ⁉︎ そんな簡単な事が分からないのか⁉︎ アイバーン!」
「何だと⁉︎ 貴様には分かるというのか⁉︎ ブレン!」
「魔力レベルを同じにして、マナ王女と互角の闘いをする為だ!」
「馬鹿なっ‼︎ カオスの目的はユーキ君を殺す事なんだぞ⁉︎ あえて互角の闘いをする意味など……」
「あれじゃないですかぁ、カオスもユウちゃん、というよりマナちゃんみたいにぃ、相手とあえて力量を合わせて闘いを楽しむって奴じゃないですかぁ?」
「ありえますね……」
「はあ、全く……私には理解出来ない思考だよ」
ひたいを押さえて首を振るアイバーン。
休む事無く魔法弾を撃ち続けているトト。
(ん〜、どうもあの時のような迫力が感じられないな〜。ちょっとあおってみるかな?)
ひと際大きな魔法弾を作り出し、それを投げると同時に飛翔するトト。
ユーキがその巨大な魔法弾を吸収している間に、再びユーキの背後を取るトト。
「ねえ、ユーキお姉ちゃん! 何で今日はあの時みたいな迫力が無いの?」
背後を警戒しつつ、振り返る事なく答えるユーキ。
「あの時って、どの時⁉︎」
腰に手を当てて、首をかしげるトト。
「ええ〜⁉︎ もう忘れちゃったの⁉︎ リーゼルであんなに激しいバトルやったのに〜⁉︎」
一瞬顔がピクリとなるが、あくまで冷静に対処するユーキ。
「僕は君に会ったのは、トゥマールに来てからだけど?」
「とぼけなくてもいいよ」
いきなりユーキの耳元で囁くトト。
「もう分かってるんでしょ? 僕がカオスだって事……」
「⁉︎」
思い切り腕をなぎ払うユーキだったが、すぐに距離を取るトト。
そしてようやく正対するユーキとカオス。
「ふう、危ない危ない!」
少しおちゃらけた感じで額の汗を拭うカオス。
「カオス⁉︎ 僕の知ってるカオスは、君みたいな子供じゃないけど⁉︎」
あえて話に乗り、情報を聞き出そうとするユーキ。
「ああ、だってあれは借り物の体だったからね」
あっさりバラすカオス。
「借り物?」
「そう、だから本来の実力の3分の1も出せなかったの」
「じゃあ、今の姿が本当のカオスなの?」
「フフ、それはどうかな〜⁉︎ 僕に勝てたら教えてあげるよ」
「なら、全力で君を倒すだけだ!」
ユーキが両腕をクロスさせると、空中で待機していたホーミングフェザーが一斉にカオスに襲いかかる。
それを素早くかわして、ユーキの懐に飛び込んで来るカオス。
そして再び打撃技の応酬が始まる。
「だけど、君がカオスだって言うなら、何の目的でこの大会に参加したのさ⁉︎ この大会はパラスの参加は認められてないんだから、仮に君が優勝しても君は統一国の王にはなれないよ⁉︎」
「ああ、大丈夫! そんな事で王になったってつまんないから!」
お互い打撃技を繰り出しながら会話しているユーキとカオス。
「なら、どうして?」
「ユーキお姉ちゃんと結婚する為!」
「んなっ⁉︎」
「隙あり!」
動揺して一瞬気が乱れた隙に、カオスの打撃を受けて地面に叩き落とされるユーキ。
「ぐうっ‼︎」
「ああっと‼︎ 先程まで上空で激しい打撃戦が繰り広げられていましたが、その均衡が破れユーキ選手が激しく地面に打ち付けられました〜‼︎」
すうっと降りて来るカオス。
「フフ、冗談だよ! こんな事で動揺するなんて、かわいいね、ユーキお姉ちゃん!」
「ぐぬぬ、子供の姿で言われると何か腹立つ!」
「本当の事、教えてほしい?」
「教えてくれるの?」
「う〜ん……じゃあ僕とデートしてくれたら教えてあげる」
「またからかうの⁉︎」
「ハハ! さすがに2度はだまされないか〜」
(あながち冗談でもないんだけどね……)
「いいよ! 教えてあげる! 僕が参加した目的は、ユーキお姉ちゃんの中に眠るアイリスを目覚めさせる為だよ!」
「アイリス⁉︎ そういえば、リーゼルの時も君は僕の事アイリスって呼んでたけど、アイリスって一体誰なの⁉︎」
「忘れちゃってるのも無理はないよね。何たって、アイリスに関しての事は、この魔法世界の全てから抹消されてるんだから。いや、正確には封印かな?」
「ふう……いん⁉︎」
「お姉ちゃんはこのトゥマールの現国王が誰だか知ってるよね?」
「えと……確かロイって名前の……」
「そう! 凄く威厳のあるおじいさんだ。もうずっと昔からこの国の王って感じだよね。でも実は、その人がこの国の王になったのは、わずか2年前からなんだよ⁉︎」
「え⁉︎ じ、じゃあその前は……ま、まさか⁉︎」
「そう! その前国王こそが、過去何十年にも渡ってこの国を守り発展させて来た、アイリス女王なんだ‼︎」
衝撃の事実を聞かされ、激しく動揺するユーキ。
(え⁉︎ え⁉︎ このトゥマールでずっと女王をやってた人がアイリスって人で、その女王様が僕の中で眠ってる⁉︎ え⁉︎ だけど僕はリーゼルのマナ王女だしまだ14歳だし……ええ⁉︎ 訳わかんない!)
アイバーン達もユーキの異変を感じ取っていた。
「何だ⁉︎ ユーキ君の様子が変だ⁉︎」
「カオスと話してるみたいですけど、何か言われたんでしょうか⁉︎」
闘技場の端で、今にもカオスに跳びかかりそうな子猫師匠を、フィーが必死に抑えていた。
「あいつうう、余計な事をペラペラとおお‼︎」
「落ち着いてくださいシャル様。今はただ会話をしているだけです。今カオスに手を出せば、確実にユーキさんの負けになってしまいます」
「離すニャ、フィー! ほっといたらあいつ、全部喋ってしまうニャア‼︎」
「落ち着いてくださいってば」
「ウニャッ‼︎」
後頭部にチョップをくらい、倒れこむ子猫師匠。
「何するニャ⁉︎」
たが、すぐに起き上がって来る。
「すぐ起き上がって来るなんて、まるでゾンビですね」
「フィー⁉︎ 誰がゾンビニャ⁉︎」
「いいえ、コンビニの前でたむろしたいって言ったんです」
「営業妨害‼︎」
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