第10話 イルカとクジラは同じ、みたいな?

 闘技場の中に入り、ユーキと別れたパティ達が観客席にやって来る。

 闘技場では既に、前座のバトルイベントが行われており、観客席はとても盛り上がっていた。


「中も凄い人ですねぇ! 座る場所ありますかぁ?」


 大量に食料を買い込んだセラが心配する。


「それは大丈夫だ! 私達の席はちゃんと確保してある!」

「さすがは団長さん! 権力使い放題ですねぇ」

「嫌な言い方をしないでくれたまえ、セラ君! 元々王族とその関係者には特別席が用意されているのだよ」

「まあ、それは当たり前よね」


「でもホント、超満員ですね! これは配分、100億ジェルではきかないかも」


 興行収入が予測を更に上回る事を直感したメルクがポツリと呟くと、またネムとロロの目が、お金のマークに変わる。


「シェーレにも闘技場作ろうか⁉︎ ロロ!」

「複合施設にすれば、もっと儲かるのです!」

「メル君! ネム&ロロがどんどん金の亡者になって行くから、これ以上煽るのはやめなさい!」

「す、すみません!」



 特別席に到着したパティ達。

 他の一般席とは明らかに違う、立派な作りだ。


「へえ、中々豪華じゃない!」

「仮にも王族の為の席なんだ。これぐらいは当然だよ」

「なんだか王様気分ですぅ」

「いやあんた、れっきとした王族でしょうが! ところで、今やってるのって前座の試合?」

「ああ、ユーキ君にも言った通り、予選2試合だけではすぐ終わってしまうからね」


「投票券も買えるのね⁉︎」

「一応、闘技場でもあるからね」

「稼げるとこは稼がないとって事ですねぇ」

「ま、まあ平たく言えばそういう事だ。だが君達はダメだぞ⁉︎ 私以外はみんな未成年だろう?」


「レノは買えますよねぇ?」

「え⁉︎ いや、俺はまだ19だから無理だぞ⁉︎」

「ええ〜‼︎ そうだったんですかぁ⁉︎ てっきりもう30近くかとぉ」

「ぅおいっ‼︎ 妹なら兄の年齢ぐらい把握していろ! それに、俺とお前は3歳差なんだ! 俺が30なら、セラも27という事になるんだぞ⁉︎」

「私は常に自分自身に治癒魔法をかけてますからぁ、ずっと成長が止まってるんですぅ」

「 止まるかっ‼︎」


「ロロと合体したら、ネムも券買えるかな?」

「大人の女性なのです! 証明書を提示しなくても、お酒だって買えるのです!」

「あんたたちが合体しても、見た目せいぜい14、5歳なんだから無理よ!」

「いや、見た目が大人なら大丈夫という訳ではないのだがね……」


 そんなやり取りをしていると前座の試合が終わり、場内にアナウンスの声が響き渡る。


「皆様! 本日はご来場、誠にありがとうございます! 間も無く、五国統一大武闘大会の予選試合を行います! 予選Aグループ、並びにBグループに出場の選手の方は、至急闘技場にお集まりください!」


「いよいよですね……」


 程なくして、闘技場に現れたユーキをネムが発見する。


「あっ! ユーキ姉様出てきた!」

「え⁉︎ どこどこ⁉︎ ……居た! ユー……」


「ユーキー‼︎‼︎」

「出たー‼︎ ユーキちゃーん‼︎」

「待ってましたー‼︎」

「かわいいー‼︎ こっち向いてー‼︎」

「俺、もっと強くなるから、俺と結婚してー‼︎」

「いいや! 俺と結婚しよう‼︎」


 声をかけようとしたパティの声をかき消すように、会場中から凄まじい声援がユーキに送られる。


「な⁉︎ 何なの、一体⁉︎」

「ああ、プレッシャーになると思ってユーキ君には言わなかったのだが……実は、前夜祭の時にユーキ君が出てから、武闘大会への参加希望や闘技場の入場券を求める問い合わせが殺到したのだよ」

「まあ、生配信で豪快に宣言しちゃったからね〜」


「武闘大会への参加は既に締め切っていたので通常の闘技場イベントへの参加を求めた所、それでもユーキ君に会えるならと大半の者は承諾したらしい」

「それほど……」



 ユーキへの声援が飛ぶ中、実況者が喋り始める。


「さあ皆様! 大変お待たせ致しました! ただいまより、五国統一大武闘大会の予選試合を行います‼︎ まずはAグループの予選からですが、各国から国を代表する猛者達が集まっている中でも、今大会1番の注目選手がいきなり出て来ます‼︎」


(1番の注目選手? 誰だろ? アイ君やパティはグループが違うし、猫師匠? は居ないみたいだし、やっぱ色んなとこから集まってるから、他に凄い人が居るんだろうな〜?)


 ユーキが考えを巡らせていると、実況者が正解を口に出す。


「ベルクルの闘技場に突如として現れ、たちまち観客を魅了した超絶美少女! いくつもの魔装、あらゆる魔法を使いこなし、更には男性にまで変身するという衝撃を我々に与えてくれました!」

(え? それってまさか……)


「今までその素性は一切謎でしたが、つい先日なんと! 2年前、行方不明になったと噂されていた、リーゼル国のマナ・フリード王女である事が判明いたしました! そう! その人の名はぁ……みなさん御一緒にー‼︎」


「ユーキー‼︎」


「ユーキ‼︎」

「ユーキ君‼︎」

「ユーキさん‼︎」

「ユウちゃん‼︎」

「ユーキ姉様‼︎」

「マスターユーキ‼︎」

「マナ‼︎」



「呼び方色々ねっ‼︎」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る