第38話 さといも科の植物、それはこんにゃく

 お互いの中間でぶつかり合ったまま拮抗している魔力。


(完全に互角かよ⁉︎ だが、それはあくまで今のまま、だったらの話だがなぁ‼︎)


 更に魔力を高めるカオス。

 それに比例して均衡が崩れ、少しずつマナの方に動いて行く。



「ユーキさんが押され始めましたよ⁉︎」

「いや、マナも動く!」



 マナの翼から数枚の羽が飛び出し、背後に魔方陣を描く。


「また吸収するつもりか? いいぜ! 俺の魔力、吸収しきれるもんならやってみなー‼︎」


 更に魔力を高めるカオス。


「アクセル‼︎」


 マナの魔方陣が徐々に回転を始める。

 それに伴い、マナの方に傾きつつあった魔力が動きを止める。


「止まった⁉︎」

「あたしの魔法を吸収した時の魔方陣だわ!」


「アクセル‼︎」


 更に回転が速くなる魔方陣。


「止めやがったか……だが、まだまだぁ‼︎」


 負けじと魔力を高めるカオス。


「アクセル! アクセル! アクセル‼︎」


 マナが叫ぶ度に、まるでエンジンが回転するかのように回転速度を上げて行く魔方陣。

そして、拮抗していた魔力が徐々にカオスの方に傾き始める。


「ぐっ! 押されてやがる⁉︎ ナメんなあああ‼︎」

「アクセル‼︎ フルスロットル‼︎」


 更に凄まじい高速回転をするマナの魔方陣が、強烈な光を発すると、拮抗していた魔力が一気にカオスに襲いかかる。


「なんだとおお‼︎ クソォ! こ、この程度で負けてたまるか……負けて……ぐわああああ‼︎」


 2人分の魔力をまともにくらったカオスが、地上に落下して行く。

 そして、それを追いかけるようにゆっくりと降下して行くマナ。


「やった‼︎ ユーキさんが押し勝ちましたよ‼︎」

「行くわよ‼︎」


 戦いに決着が付いた事を悟ったパティ達が、マナの下に駆けつける。



「チッ! ま、まさかこの俺が……アイリスではなく、こ、こんなガキに負けるとはな……」


 上半身を起こすカオスだったが、体の至る所が、壊れたレンガのように崩れ始める。

 

「サンダースピア‼︎」


 地上に降りて来たマナが、ロッドを槍に変化させてカオスに近付く。


「トドメをさしに来たのか? いいぜ! 今回は俺の負けだ……やれよ!」


 ギリッと唇を噛み締めたマナが、カオスを貫こうと槍を構える。



「ユーキ‼︎」


 その声にピタリと動きを止めるマナ。

 声の主は、駆け付けたパティの物だった。


「ユーキ、もういいわ! あなたの勝ちよ!」

「もういいって、どういう事?」


 少し睨むような感じでパティを見たマナが、怒りを含んだ低い声で尋ねる。


「ユーキさん?」

「もう戦いは終わったのよ! パラス軍は撤退を始めてる。パラスの親玉はあなたが倒した。だからもういいのよ!」


 パティの言葉に、怒りを露わにするマナ。


「何がもういいんだ⁉︎ こいつはまだ生きてる! こいつを殺すまでは終われない‼︎」

「殺すって……ど、どうしちゃったのよ? ユーキ……あなた、そんな事言う娘じゃなかったでしょ?」


 まさかのマナの過激な発言に戸惑うパティ達。


「それに……あなた誰? 私はユーキなんて名前じゃないわ! 人違いよ!」

「え⁉︎ 誰って……あたしよ! パティよ! あなたの妻のパティよ‼︎」

「いや、どさくさ紛れに何を言ってるのかね、パティ君⁉︎」


「知らない……誰と勘違いしてるの?」


 冷たい表情で顔を背けるマナ。


「ユーキ? ホントにどうしちゃったの……」

「ふむ……おそらくは、能力が覚醒した事によって、一時的に記憶が混濁しているのだろう」

「確かに、僕達の知ってるユーキさんとは、明らかに雰囲気が違いますもんね……」


「ではマナよ! 私達の事は分かるか⁉︎」


 そう言って前に出るマルス国王とレナ王妃。


「父様⁉︎ 母様⁉︎ 2人共、どうしてこんな所に?」


 しばしの沈黙の後、顔がニヤけるマルス国王とレナ王妃。


「……ふう〜、よかった〜! マナちゃん、私達の事まで分からなかったらどうしようかと思った〜!」

「良かったですね、あなた!」


「国王! それよりも……」

「あ、ああ! そうだった!」


 喜ぶ2人をたしなめるアイバーン。



「マナよ! よくぞカオスを倒してくれた、見事だ! さすが、我らが娘だ! 後の事は我らに任せるんだ。さあ、その槍を下ろして……」

「ダメだよ……」

「ダメとは、どういう事だ?」


「まだ仇を取ってない……」

「仇? 誰の?」


 込み上げて来る悲しみをグッと堪え、振り絞るように答えるマナ。


「こいつはセラお姉ちゃんを殺したんだ‼︎ 絶対に許さない‼︎」

「何だと⁉︎ セラちゃんが⁉︎」

「セラが殺された⁉︎ 嘘でしょ⁉︎」

「ま、まさかあのセラさんが?」

「セラ君はレベル7のヒーラーだ! 例えどんな戦場でも、彼女だけは生き残るだろうと思っていたが、まさかな……」


 パティ達の誰もが、信じられないといった表情だった。


「そうだよ! あのセラってガキは俺が殺してやった! さあ、俺を殺して仇を取れよ‼︎」


 カオスの挑発に、怒りの表情で槍を振り上げるマナ。


「うああああああああ‼︎」

「ユーキ‼︎ ダメええええ‼︎」


 まさに振り上げた槍を振り下ろそうとした瞬間、マナの周りに羽が撃ち込まれ、魔方陣が描かれる。

 そして魔方陣が光を放つと、マナの魔装が全て解除され、溜め込んでいた魔力も消滅してしまう。


「んふふ〜! 今時、敵討ちなんて流行らないですよぉ、マナちゃん!」

「ふう、ギリギリ間に合ったニャ……」


 その声のした方向を見たマナが、全身の力が抜けたように、その場にペタリと座り込む。


「セラ、お姉ちゃん……?」

「はい、せいか〜い! セラお姉ちゃんですよぉ!」


「セラちゃん⁉︎」

「もうなによ、ビックリさせて! ちゃんと生きてるじゃないのよ⁉︎」

「セラさん、良かった〜!」

「ふむ……無事で何よりだ、セラ君!」


「お姉、ちゃん⁉︎ セラお姉ちゃ、うあっ‼︎」


 立ち上がろうとしたマナだったが、足がもつれてしまい、思いっきり顔面から地面に倒れこんでしまう。

 

「ぎゃふっ‼︎」

「大丈夫ですかぁ? マナちゃん!」

 

 バンザイの格好でうつ伏せに倒れこんだマナに、優しく手を差し伸べるセラ。


「うう〜……」


 涙目のマナをそっと座らせ、自分も同じように座るセラ。


「心配かけてごめんなさいね⁉︎ マナちゃん!」

「セラお姉ちゃん! ホントにお姉ちゃんなの⁉︎ ちゃんと生きてるの⁉︎ 幽霊じゃないの⁉︎」


「大丈夫、生きてますよぉ! ほらぁ、ちゃんと二の腕だってあるでしょぉ⁉︎」

「いや、普通は足だろう!」

「でも、あのオトボケっぷりは間違いなくセラさんですよ!」


「う、うう……うわああああん‼︎ 良がったよおおお‼︎ セラお姉ちゃんが生ぎでだああああ‼︎ うあああああ〜‼︎」

「マナちゃん……」


 喜びのあまり、激しく泣きじゃくるマナを優しく抱きしめるセラ。

 それを受けて、ギュッと強く抱き合うマナとセラ。



「ま、まあ、仕方ないから、今回は大目に見てあげるわ!」

「ふむ……そうだな!」

「ふふっ! そうですね!」





(また俺は放ったらかしか……)



 そして、完全に忘れられているカオスだった。




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