第36話 激闘! マナVSカオス

 猫師匠がセラを背負い飛び立とうとした時、気を失っていたレノが意識を取り戻す。


「ま、待て……セラをどこへ連れて行くつもりだ⁉︎」

「ん⁉︎ 気が付いたかニャ? ああ、無理に動かない方がいいニャ! 傷は治しておいたけど、魔力切れを起こしてるニャ。魔装弾を持っていないから、魔力の補充まではしてあげられないニャ!」


「治したのは私ですけどね……」

「だ、黙ってたら分からないんだから、別にいいニャ!」


「俺の事はいい! セラを離せ! セラは命がけでマナを守り、立派に散って行った……これ以上妹を辱めないでくれ!」

「辱める? 辱めるとは、こういう事かニャ?」


 悪い顔でセラの体をベタベタ触る猫師匠。


「やめろと言ったあああ‼︎」

「シャル様、趣味に走るのは程々に……」


「心配するニャ! この娘はユーキの恩人ニャ! 悪いようにはしないニャ!」

「ユーキ? あんたはマナの知り合いなのか? え⁉︎ シャルって、まさか……?」

「そうニャ! ユーキの知り合いで、パティの師匠で、何を隠そう、国民全てから愛されているグレールの女王! シャル様とは、あたしの事ニャ‼︎」


「そう、そして国民からは親しみを込めて、バカ猫と呼ばれています……」

「よ、呼ばれてないニャ‼︎」


「あ、あなたがグレールの女王陛下……し、しかしその女王陛下が何故セラを⁉︎」

「詳しい話は後ニャ! とにかく、今はこの娘の力が必要ニャ!」

「ただ説明するのが面倒なだけです……」

「フィー! さっきからちょこちょこうるさいニャ!」


「しかし、妹はすでに……」

「ん⁉︎ あたしはさっきから背中に、掘りごたつのようなぬくもりを感じているんだけどニャ⁉︎」

「え⁉︎ それって……ま、まさか⁉︎」


「あと、胸の感触も感じているけどニャ!」

「この変態猫……」

「フィー‼︎ 女王に向かって変態とは何事ニャー‼︎」

「褒め言葉です! シャル様!」

「え⁉︎ そうなのかニャ⁉︎ ……いやいや、騙されないニャ‼︎」


「チッ!」

「今、チッって言ったニャー‼︎」

「いいえ、チョコレートクリームチップフラペチーノが食べたいと言ったんです!」

「うん、お洒落ね! じゃないニャ‼︎ てか、尺が全然合わないニャー‼︎」



「お、俺は一体何を見せられているんだ……」

(マナは、無事だろうか……)





 



 レノが案ずるマナは、上空でカオスと激闘を繰り広げていた。


「ブラックホール‼︎」


 カオスから放たれた黒い球がマナに襲いかかるが、マナはそれをかわすでもなく、防御するでもなく、手で薙ぎ払うだけでその玉を消滅させてしまう。


(やはりか……ありゃあ、消してるというより一瞬にして吸収してやがる……そしてその度にあいつの魔力がでかくなって行く。しかもだ……)


「バーニングファイアー‼︎」


 マナが巨大な炎の球を撃つと、体はかわしつつ、何故か左腕だけをあえて炎の球に触れてみるカオス。

 炎の球は、カオスにかわされた後少し飛行してから、スッと消滅する。


(すぐに消えちまうが、今のも幻術じゃなく、本物の魔法弾だ……にもかかわらずだ……あいつの魔力量は一切減っていない! つまり、相手の魔法を吸収するのは勿論、テメェで放った魔法までも吸収しちまうって事か? 何てふざけた能力だ! そして遂には相手との魔力量の差が逆転しちまうってか⁉︎)


「へっ! 面白えじゃねぇか‼︎ なら、俺がテメェを倒すのが先か、俺の魔力が尽きるのが先か、勝負だっ‼︎ アイリス‼︎」


「勝負⁉︎ 勝負だって? セラお姉ちゃんを殺しておいて、ふざけんなあああ‼︎ これは殺し合いだあああ‼︎」


「けっ! 敵の命さえ助けるような甘ちゃんのガキが、言うじゃねぇか⁉︎ なら望み通り殺してやるよ‼︎ 単発なら吸収するのは簡単だろうが、この数ならどうだ‼︎ ダークパーティクル‼︎」


 百を超える無数の闇の球が、マナに襲いかかる。


「吸収出来るもんなら、してみやがれー‼︎」


 マナがロッドをクルリと一回転させると、魔道士タイプの魔装はそのままで、背中にセラの魔装である羽が装着される。


(⁉︎ あの羽は、セラとかいうガキが使ってた羽か⁉︎ しかしアイリスは魔道士タイプの魔装をしたままだぞ? 普通、魔装の重ねがけなんて出来ない筈だが……)


「ホーミングフェザー‼︎」


 マナの翼から飛び出した無数の羽が、カオスの放った魔法弾を追尾しつつ飛行し、羽に触れた球が次々消滅して行く。


「チッ! そんな芸当まで出来るのか⁉︎」

(こりゃあ、飛び道具は部が悪いな。一発デカイのをぶちかますか? ……いや、やるにしても最後だな……折角こんな面白ぇ相手と戦ってるんだ! シャルが来るまで、せいぜい楽しむとするか!)


「飛び道具がダメなら、肉弾戦だ‼︎ その細い体で耐えられるか、アイリス‼︎」


 マナを凌駕する程の魔力を発しながら勢いを付けて、素手のまま殴りかかるカオス。

 マナは腕をクロスさせて防御するが、勢いに押されて弾き飛ばされてしまう。


「ぐうっ‼︎ ヒーリング‼︎」


 激しく地面に叩きつけられたマナだったが、すぐさま治癒魔法をかけて回復する。

 その隙に、蹴りの体制で更に勢いを付けて、降下して来るカオス。


「くっ!」


 それを何とか横っ飛びでかわすマナだったが、その動きに合わせるように追尾して来たカオスが、体制の崩れたマナに回し蹴りを放つ。


「ぐっ!」


 弾き飛ばされたマナが近くの木に激突しそうな瞬間、クルリと体を回転させて気を踏み台にして勢いを付け、向かって来るカオスを迎え撃つ。


「来いやあああ‼︎」

「でやああああ‼︎」


 互いの右拳がぶつかり合い、お互いの勢いが止まった所で、打撃技の応酬が始まる。


「いいねいいねぇ! 楽しいじゃねぇか、アイリス‼︎」


 しかし、終始攻め込んでいたカオスだったが、何か違和感を感じ始める。


(妙だな……確かにアイリスは防戦一方だが、始めに比べてだんだん表情に余裕が出て来たような……?)


 カオスが感じた通り、攻撃を受けるたびに怯んでいたマナが、確実にカオスの打撃を受け止め始める。


(まさかこいつ‼︎ 俺と触れる度に魔力を奪って行ってるのか⁉︎)


 そして、防戦一方だったマナの打撃が、少しずつカオスに当たり始める。


(くっ! やはり、打撃の威力が増してやがる‼︎ お、押される⁉︎)


 カオスより少しずつ魔力を奪い自分の魔力に変換していたマナが、徐々に攻勢に転じる。


「やるじゃねぇかアイリス! 2年も待った甲斐があったってもんだ!」

「さっきからアイリスアイリスって……私の名前はアイリスなんかじゃない‼︎」

「アイリスをアイリスと呼んで、何が悪い‼︎」


 カオスのパンチをかわすと同時にグッとしゃがみ込み、伸び上がる勢いを利用して、真上にカオスを蹴り上げるマナ。


「私の名前は、マナだああああ‼︎」


 みぞおちに渾身の蹴りを食らったカオスが、上空へ弾き飛ばされる。


「ぐおおおお‼︎」




「⁉︎ みなさん! あれを‼︎」


 城の近くまで戻って来ていたメルクが、マナに蹴り上げられたカオスを発見する。


「カオス⁉︎」

「あいつ〜! 帰るとか言っときながら、やっぱり残ってたのね⁉︎」


「あれを‼︎」


「ユーキ⁉︎」

「ユーキ君‼︎」

「マナ‼︎」


 カオスを追いかけて上空に舞い上がったマナが、再びカオスと打撃戦を繰り広げる。


「凄い……カオスと互角の戦いをしている……」

「いえ、むしろユーキの方が押してるわ!」

「でも、何故カオスは打撃技しか使わないんでしょう?」


「おそらくは、マナの能力に気付いたカオスが、魔力を奪われないようにとった戦法だろうが、無駄な事だ! その気になれば、マナはどんな物からでも魔力を吸収できる。ただその優しさ故に、人から直接魔力を奪うという事は滅多にはしなかったが……」


(あたし、奪われた1人……)


 さりげなく心の中で思うパティ。



 


「ふむ……しかし、あの戦い方はまるで……」



 2人の戦いぶりを見ていた全員がある事を思ったが、皆あえて口にしようとはしなかった。



「まるでド◯ゴンボールみたいですね……」

「言っちゃたあああ‼︎」

「え⁉︎」



 アッサリ口にするメルクであった。


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