第4話 魔法少女? 魔装少女?

「ユーキーーー‼︎‼︎‼︎」



 巨人に張り飛ばされたユーキ。

 全身を地面に擦りながら、数メートル先でようやく止まったがピクリとも動かない。


「ウインドウォール‼︎」

 叫びながらユーキの所に駆け寄ってくるパティ。

ユーキの側に来たと同時に2人の半径4メートル四方に風の壁が発生した。

 巨人はその壁に遮られて近づけない。

 だが、巨人にダメージを与える程ではなく、侵入を防ぐのが精一杯のようだ。



「ユーキ‼︎ ねえユーキ‼︎」

「しっかりしなさいよ‼︎ 出会ったばかりでイキナリ死なないでよ! ねえ‼︎」



 全く反応の無いユーキに肩を落とすパティ。

「起きなさいってば…………ねえ、ユーキ…………」



 暫しの静寂が訪れたーーーー







「いっっっったあああああああああいっ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 イキナリ起き上がり頭を抱えながら叫ぶ涙目のユーキ。


 あまりの驚きに言葉が出ないパティ。


「え? あ、ああ……え、えええ?‼︎‼︎」

「いったあいって? 痛いって何?」

「いやいやいやいや‼︎ 魔装もしてない状態でサイクロプスの一撃を喰らって、痛ああああいで済むはずないじゃないの‼︎‼︎」


「ホントに大丈夫なの? 何で大丈夫なの? 怪我は? どこか痛い所無いの?」

 ユーキの全身をくまなく触って調べるパティ。

「ひゃっ、ひゃひゃひゃひゃひゃ‼︎ や、やめて! く、くすぐった、ひゃひゃひゃ、な、何とも無いってばー‼︎」


 全身を調べ終わったパティは驚きつつも、安堵の表情を浮かべている。

「良かった……良かったよ……」

 ユーキに抱きつくパティ。

「パティ……」

 



「ゴアアアアアア‼︎」


 唸り声のする方を見る2人。

「そういえば居たわね、あんなの」

 壁を通れない為、地面を掘ろうとしているサイクロプス。

「また土の中から来るつもり?」

「ユーキ立てる?」

 手を引っ張り立たせようとするが、力が入らずペタンと座り込んでしまうユーキ。

「死にそうな目に遭ったんだから仕方ないわね」

(魔力切れを起こしてる……いくら怪我が無くても早く魔力を回復しないと命に関わる)




 少し考えて意を決したように。

「あたしがあいつを引き付けるから、その間にユーキはさっきのカートリッジで回復して」

「え? でもあいつ凄く強そうだけど、パティ1人で大丈夫なの?」

「見くびらないでよ、こう見えてあたし結構強いんだから」

 そう言いながらウインクするパティ。

「じゃあ行くわよ‼︎」

 そう言って壁の外に走って行くパティ。

 炎魔法を何発か当てると、パティを追いかけ始めるサイクロプス。



(とは言ったものの、どうする? サイクロプスに下級魔法は通じない……かと言って魔装するだけの魔力ももう残っていない……)

(魔力カートリッジはユーキに渡した……あれはユーキが回復する為に絶対必要だ、もう予備は無い)

(今の状態で通用しそうな魔法はエアバインドぐらい……でも精々数秒間動きを止めるのが精一杯)

(その間に2人で逃げる? 無理だ! 数秒程度止めただけではすぐに追いつかれる……ならば! 可能な限りあたしが引き離して、その間にユーキを逃がすのがベスト)


 意を決したパティ。


「さあ! かかってきなさい! 1つ目オバケ‼︎」

 目立つように、より派手に動くパティ。



 ウインドウォールの中に残ったユーキは、ロッドを支えにしてへたり込んでいた。

 頭の中を色々な考えが駆け巡っている。



(痛かった、さっきメッチャ痛かった……と言う事はまさかこれは夢なんかじゃなくて現実って事? これが現実? あんな怪物が居て魔法が飛び交ってるこの世界が現実? 35歳のおっさんだった僕がこんな可愛らしい姿になってるのが現実?)

(いやいやいや! ありえないだろ? どこのドッキリだよ? 誰の陰謀だよ? いや、そもそもこれが現実だとして元の世界に帰れるのか? 元の姿に戻れるのか? いやまあこの姿は気に入ってるから、それは別にいいんだけども、帰る方法を見つけるにしてもそれまで生きてられるのか? 生き残れるのか? 下手したら死ぬ……死…………?)




 厳しい現実を目の当たりにして青ざめるユーキ。

(僕は……こんな異世界で死ぬのか…………?)





 だがーー

 絶望感に襲われる中、ある事に気付く。



(死ぬ? 何で? モンスターに襲われて……? あんなでかい怪物の一撃を喰らっても怪我1つしてないのに……?)


 頭の中が冷静になっていくユーキ。


(そもそもの原因は間違いなくあの本だよな……?)

(あの時イメージした事が反映されてるんだよな……? )

(なら魔法の設定だって反映されてるはず……)



 キッと表情が引き締まり、スクッと立ち上がる。



「試してみるか……」



 ボソッと呟きロッドのリボルバーに魔力カートリッジをセットし、その外側にあるスロットに最初にロッドから出てきた黒いカートリッジをセットする。

 そしてトリガーを引くと魔石が強烈な光を放つ。

 どうやればいいかは頭の中にイメージが浮かんでいた。


 前方でロッドを1回転させると、魔石の放つ光が円を描き、魔法陣が現れた。

 ロッドを水平に持ち叫ぶーー


「魔装‼︎」


 魔法陣が迫りユーキの身体を通り抜けると、全身が光に包まれ、その光が消えると変身していた。

 白を基調とした魔法使い風の衣装に全身を覆う程のマントと帽子が装着された。

 腰の辺りにカートリッジを差しておけるであろう個所が多数ある。



 魔力の高まりを感じたパティがユーキの魔装に気付く。

「え? 魔装してる? あたしまだやり方教えてないわよね?」

「どういう……事?」


 魔力の高まりを感じたのはパティだけではなかったーー巨体を翻し、ユーキに向かって走り出すサイクロプス。

「いけない! ユーキー‼︎ 逃げてー‼︎」

 サイクロプスを追いかけるパティ。



 サイクロプスの接近に気付いたユーキ。

 ロッドを縦に持ち替え、静かに叫ぶ。

「ファイア!」

 魔石の前に炎の玉が現れる。


「無理よ‼︎ 下級魔法ではサイクロプスには通用しないわ‼︎」

 駆け寄りながら遠くで叫んでいるパティ。


「フレイムアップ‼︎」

 落ち着いたトーンで叫びながらロッドを回転させ始めるユーキ。

 回転するたびに炎の玉がだんだん大きくなって行く。


「まさか火力を上げてるの?」

「でもあれでは間に合わない!」

 パティが発動させた壁はすでに消えているーー先程は無傷だったとはいえ、今度もそうだとは限らない。

 目前まで迫っているサイクロプスーー焦りの色が見えるユーキ。

 間に合わないかと思われた時。


「エアバインド‼︎」


 パティの放った風が、縄の様になりサイクロプスの手足に絡みつき動きを止める。

 ニッとパティに微笑みロッドの回転を止めるユーキ。

 火球はユーキの身長をゆうに超える程巨大になっていた。


 ロッドを振りかぶり叫ぶ。


「バーニング、ファイアー‼︎」


 ロッドを振り下ろすと火球は凄まじい速さで飛んで行きサイクロプスに当たり、瞬間巨大な火柱が立ち昇った。


「グオオオオオオ‼︎」

 サイクロプスの断末魔が響き渡る。






 数秒間燃え続けた後、火柱はサイクロプスと共に消滅した。

 焼け跡に紫色の魔石を残してーー





「ユーキー‼︎」

 パティが駆け寄ってくる。

「やったね‼︎」

 そう言いながらニカッと笑ってブイサインをするユーキ。



 その表情を見たパティは顔を真っ赤にしながら。




「か、かわいい……」

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