第112話 転生の真実……


 私は更に質問する。

「それなら、ローミラール星人が攻めてきたとき、あなたは何故対応しなかったの」


 そうなのだ。これだけの文明を持ち、アンドロイドすら作る技術があるなら、ローミラールに対する攻撃手段の一つや二つ、当然あるべきなのだ。

 それに対するゴードンさんの返答は私の予想の斜め上を行っていた。

「何を言う?対応したではないか。君たちこそが私の対応の結果だ」


「「はいっ?????」」

 私とカスミちゃんは思わずハモってしまった。


「どういうこと?」

「お願いします。分かるように説明して!!」

 私とカスミちゃんの魂の叫びである。


「君たちが理解できるように説明するには、私の能力をいくつか説明せねばならない。

 私は最初にいった通り、第17世代ディープラーニング自己進化型コンピュータが本体じゃ。

 私は自己進化を続け、いくつもの成果を残してきたが、この件に関してはその内の最大の発見の内の2つが関係している。

 一つは未来演算システムの開発。そしてもう一つは17あるこの世の次元軸のうち5番目の軸までを解明し、4番目の軸に関してはその軸に沿っての移動手段も確立したことじゃ」


「未来演算システムって何ですか?」

 カスミちゃんが聞いたことは私も聞きたかったことだ。

「可能性の未来を演算予測する能力だ。

 その能力で、今から17年前、私は異星文明の襲来と壊滅的な地球の被害を予測した。

 しかし、人類や生命体に対する直接攻撃は、私にとって禁則事項だ。

 このままではせっかくここまでにした世界が崩壊する。

 私は未来演算システムを駆使して、異星人による被害を回避する手段を計算した。

 その結果が君たちの召喚だ」


「私たちの召喚?どういうことですか?」

 私は聞かずにはいられない。

「私のもう一つの発見は時間軸の解明と移動だ。

 残念ながら物質は時間軸を超えることはできないが、形がないものは時間軸を超えることができる。たとえば情報や霊魂は時間を超えるのじゃ。

 人の輪廻転生は、魂が時間軸を超えることで発生すると考えてもらえばわかりやすいのかも知れない。

 そして人工的な時間跳躍を引き起こす理論も確立した。

 私は、過去の世界に強い超能力を使える魂を探した。

 そして、この時代に、その強き魂の器となるべき存在があることも条件じゃった。

 その条件とは一種のタイムパラドックスを引き起こすことで可能となる。

 即ち、本来の輪廻の先の魂に前世の魂を融合させることで飛躍的に能力が向上することが分かり、そして君たちを見つけた。

 君たちをこの時間に召喚することで、この世界の破滅的な未来予測は大きく変えることができることも分かったのじゃ」


 なんと、私たちがこの世界に転生したのはこのゴードンさんのせいだった。

 しかし、一部によく分からない表現がある。

 輪廻後の魂に前世の魂を融合?

 それならば聞かずにいられないことがある。


「あの、それじゃあ、元々のアイネリアの魂はどうなったのでしょうか?」

「もちろん宮川藍音の魂と融合して一つになった。

 先ほども言ったが、言葉が足りなかったのかの?

 宮川藍音の自然な状態での輪廻転生先がアイネリアじゃ。

 そこに更に宮川藍音の魂を召喚融合する。

 そのおかげで、元々強かった魂の能力がいっそう強力になった」


「あの、それは私もですか?」

「そうじゃ」

 カスミちゃんが聞くとゴードンさんは即答した。


「それじゃあ、私が7歳まで前世の記憶を失っていたのはどうしてでしょう?」

「時間を跳躍するときに記憶が封印されたのじゃろうな。

 前世の記憶をいつ思い出すかは人それぞれじゃ。

 一生思い出さない人もいる。

 実際、アイネリアの妹のカオリーナはまだ思い出しておらぬようじゃ」


「えっ、カオリーナも転生者なんですか?」

「そうじゃ。私が呼んだ。しかし、前世は覚えておらぬようじゃ。

 魂の力は、姉のアイネリアをまねることで順調に解放されておるようじゃがな」


「他にはいないのですか?」

「今のところ3人だけじゃな。

 しかし、これから増える可能性は否定せぬよ。

 現在の未来演算システムの限界はおよそ20年じゃ。

 それを超えると『可能性の未来』の数が増えすぎて予測が困難となる。

 そして、予測の中に破滅的な未来が生じた場合はそれを回避するために君たちのような存在を増やすことがあるかも知れない。

 しかし、基本的に善人でなければこの世界の発展そのものに悪影響を与える存在になるかも知れぬ。

 未来演算システムも万能ではないのじゃ。

 細かいところまで制御しきれるかどうかは一種の賭とも言える。

 その点、君たちは実に上手くやってくれている」



「それじゃあ、乙女ゲームにこの世界と似たものがあったのは何故ですか?」

 そうなのだ。

 あのゲームがなかったら、私は冒険者になることもなかった。

 それに、あのゲームのストーリーはいったい何だったのか……


「あのゲームは、君たちの元いた時代の中から、情報の感受性が強い人間にこの世界の『可能性の未来』を情報として送った結果作られた」


 なんと!

 やはり、『花園で捕まえて!』もゴードンさんの影響を受けていた。


「それなら、私たちに対して他の接触の仕方は無かったのでしょうか?」

「未来演算システムで、君たちがローミラールの問題を最適に解決するには、私との接触がない方がよいという計算結果だったからじゃ。

 実際、一歩間違えば、ゲームのように君たちは敵対し、一方が社会的に抹殺されるという可能性の未来もあったのじゃ。

 しかし、その未来の先にローミラールの侵攻を跳ね返すシナリオはないのじゃ」


 私たちの取った行動も、未来演算の予測範囲にあったと言うことなのだろう。

 恐るべき技術であると同時に、万能にも見えるそのシステムですら、一歩間違うと破滅を回避できないと言うのだ。

 私は、この先の未来に不安を感じずにはいられなかった。





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【次回更新】来週の土曜日17:00の予定です。

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