第106話 終戦……
完全に武装解除が終わると、捕虜となった1万に近い兵士を片っ端からサイコキネシスで掘った深さ50メートルほどの四角い大穴へと落としていく。一辺の長さが200メートルほどにしておいたので、楽に全員落とせるだろう。
落とし穴にしたのは、こんな人数を縛り上げる時間が、今の私たちにはないからだ。
穴の壁は90度を通り越してオーバーハングにし、更に表面は成分抽出で水晶加工のつるつるにしておいた。
もちろん石垣のような隙間もないので、吸盤でも持っていない限りボルダリングは不可能だ。
レビテーションかテレポーテーションが使えない限り脱出することはできないだろう。
そうした上で、ハインリヒ軍団長にローミラール側の指揮官を連れてこさせる。
「ローミラール第2宇宙師団、副団長サレグロだ。
まさかこのような辺境に貴様らのような化け物が存在しているとは誤算だった。
降伏するが、一つだけ聞かせてくれ。
我々の母船と交信できない。何があったか教えてくれ」
耳の長い司令官は疲れ切った表情で聞いてくる。
私はカスミちゃんと相談し、包み隠さず離すことにした。
「侵略者にはブラックホールの中へ消えてもらいました。現在この星域にあなた方の戦艦は存在しません」
「なっ、ブラックホールだと。まさか貴様ら、ブラックホールを自在に操れるのか!」
「自在というわけではありませんが、ある程度はコントロールできます。
もし今後も、ローミラールが侵略を仕掛けてくるようなら、同じ目に遭ってもらいます。
それともあなた方の科学技術はブラックホールを克服できているのですか?」
「くっ、そのような技術は無い!
まさかこのような辺境に我々も及ばないような科学文明があるとは……」
サレグロ副団長は私たちのESPを科学技術と盛大に勘違いしてくれたようだが、今はそれを指摘している場合ではない。
「お二人にはこれから、私と来ていただき、我が国の反乱分子と共謀している者たちの降伏を勧告していただきます。
よろしいですね」
私の威圧を込めた言葉に、二人の司令官は頷くしかなかった。
用意しておいた革紐で二人を拘束すると、私はテレポーテーションで王城へと飛ぶ。
いきなり戦乱の中に出現しても危険なので、あらかじめクレヤボヤンスで確認して王宮の広間へとテレポートアウトした。
突然のテレポーテーションに二人の捕虜は全く違う反応をする。
「なっ、ここはアルタリア王宮か……
この距離を一気に転移できる転移魔法など聞いたことがない!」
「ば、ばかな……
我々ですら実用化に至っていないパーソナル転送技術だと……
アルタリアという国の科学技術はどこまで進んでいるのだ……」
二人の司令官は、あまりのことにお互いの見解の違いを議論することもなく、つぶやきの後はボーッとしてしまう。
「そんなことはどっちでもいいことよ。
今は一刻も早く、反乱を鎮圧することこそが肝要です」
私は、厳しい口調で二人を急がせ、カスミちゃんとともに、王子たちが頑張っている正面城壁の上へと移動する。
幸い、まだみんなは頑張ってくれており、反乱軍は王城の守りを突破できずに、正面の門に集結しているようだ。
私たちが急いで王子たちと合流すると、形勢は既に決しており、我が方の圧勝のようだ。
城門の前は敵兵が死屍累々の状況で、地面に倒れていない者の方が少ない。
私はすぐにレイモンド王子に尋ねる。
「レイモンド様、あちらは片がつきました。
こちらの状況を説明願います」
「ああ、アイネリアか。
実はほとんど僕らの出番はなかった。
ほとんど君の妹が一人でやってしまったよ」
「はい?カオリーナがですか?」
思わず声が裏返ってしまった。
キャスバル王子が引き継いで説明してくれる。
「俺はあれほどの雷を一時に扱う魔法を見たことがない……
そもそも雷を魔法で起こしたという記録すらほとんど知られていないんだ」
どうやら、カオリーナは大量の雷を敵軍に落とし、城門前の敵部隊を一気に殲滅したらしい。
私でもできるかどうか分からないESPの制御力だ。
「カオリーナ、いったいどうやったの?」
「あ、お姉たま。前にお姉たまがおちえてくれた電気の魔法をいっぱい作ってみまちた!」
私が問うと、カオリーナはニコニコしながら説明してくれた。
こちらに頭を差し出しており、なでて欲しそうだ。
ここはご要望にお応えするしかないだろう。
「えらいわ、カオリーナ。よく頑張ったわね」
私はカオリーナを褒めながら、頭をいい子いい子してあげる。
カオリーナはとても嬉しそうだ。
それにしても反乱軍の規模は王城前だけでも2000人ほどいたようで、この人数を一気に行動不能にしたカオリーナの力は驚くべきものである。
わたしは、未だに意識を失っていない何人かの敵兵へ向かって降伏を勧告する。
「反乱軍に告げる!
国境付近に待機していたゲルマノイル帝国とローミラール星人との連合軍は壊滅した。
増援が来ることはない。ただちに、降伏せよ」
続いて、二人の捕虜を引き立て、反乱軍に向けて話をさせる。
「私はゲルマノイル帝国軍、軍団長ハインリヒ・ゴルバだ。我が軍団はアルタリア王国に敗北した。兵士はただちに投稿せよ」
「私はローミラール第2宇宙師団、副団長サレグロだ。我が軍もアルタリア王国に敗北した。なお、師団長のツボールン閣下は50隻の僚艦とともにアルタリアのブラックホール兵器で殉職された。
以上の戦績から推測するに、アルタリアの科学技術力は遙かに我が軍をしのいでいる。残念であるがただちに武装解除して投降に応じよ」
二人の呼びかけに、意識を失っていない反乱軍のおよそ半分が武装解除に応じようとしているように見える。
兵たちの間には
「あれは確かにハインリヒ軍団長だ」とか
「間違いない。サレグロ副団長だ」という声や
「バカな、我がローミラールが破れるなど……」という驚きの声も聞こえる。
大勢が決したそんな中で、流れに逆らう叫び越えが聞こえた。
「認めん!認めんぞ!!
我がヨークシャー公爵領の兵はまだ敗れておらぬ」
「そうだ!我がステッドブルグ公爵領の兵もまだまだ健在だ。者どもかかれいぃ!」
ヨークシャー公爵とステッドブルグ公爵の二人だ。
しかし、その後ろにはナターシャさんとイリアさんが真っ青な顔色でそれぞれの父親に訴えかけている。
「お父さま、だから反乱など無謀だと申し上げたのです。
かくなる上は一刻も早く投降してください」
「お父さま、ナターシャさんの言う通りです。
学園の中で一緒に生活した私たちには分かります。
あの二人がいる限り、お父さまには最初から勝ち目など無かったのです。」
どうやら、二人の悪役令嬢の方が状況を正確に把握できているようだ。
「えーーい、やかましい!
我々にはまだローミラールからせしめた超兵器があるではないか」
「そうだ。女子供は黙っておれ」
父親たちはあきらめが悪いようだ。
「いいえ、黙りません。
お父さまの言う超兵器とやらを有していたはずの異星人も、既に降伏しているではありませんか」
「既に兵の大半は倒れているのです。
このままでは、より被害が大きくなるだけです。お父さま」
完全に娘の方が大人な判断をしている。
ここは一つ、同級生のよしみで、ナターシャさんとイリアさんに協力してあげよう。
私は、上空の雲をマイナスに帯電させ、二人の公爵の足下をプラスに帯電させる。そして、カオリーナが使ったらしい電撃を二人の公爵に直撃させた。
電圧を押さえたので死ぬことはないだろうが、意識を刈り取るには十分だったようだ。
二人の公爵はその場に倒れ、反乱軍は鎮圧された。
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