第90話 午後が抜き打ちテストだった件について……


 お弁当タイムが終わった12時30分、私たちは今、砂浜にクラスごとに整列している。


 早めに帰りはじめるのか、それともクラスのレクレーションでもはじめるのかと話していると、学園長のカーティス・ド・ライト先生から重大発表があるという。


 カーティス学園長は伯爵家の当主を引退後に学園の特別講師となり、そのまま学園長へと就任した人物で、魔法も使える最強騎士として勇名をとどろかせた人物だという。

 30代のときに隣国ゲルマノイル帝国との小競り合いがあったそうだが、そのときはカーティス先生の活躍で国境を侵してきた帝国兵を撤退させたらしい。

 今から40年も前のことなので、話が誇張されている恐れはあるが、何にしても国の英雄だった人なのだ。


 カーティス先生は全校生徒450名の前に立つと、とても70歳を超えた老人とは思えない張りのある大きな声で宣言した。


「それではただ今から、抜き打ち造形テストを行う。

 このテストでは、制限時間内にこの砂浜の砂を使って形のあるものを作ってもらう。

 方法は、魔法を使ってもよし、自らの肉体を駆使して作ってもよし、自由じゃ!

 制限時間は1時間。

 1時間後に各クラスの担任が上位作品2つを選び、最後にワシが最優秀賞1点と優秀賞2点の3点を選ぶ。

 成績優秀者は今学期の美術の点数を上乗せする。

 以上じゃ。作業開始!」


 一瞬何が起こったか分からずみんなしんとしたが、どうやら一種のテストで成績にも影響すると聞き、みんな一斉に砂浜へ散らばった。

「おもしろそうだね!アイネちゃん」

「そうだね。競争しようか!カスミちゃん」

「よーし、負けないぞ」


 私とカスミちゃんは波際に近いところに移動し、潮が満ちてきても作品が流されない場所に陣取る。


 やはり、作るべきは砂のお城だろう。

 水で濡らしながら作らないと、さらさらの砂はすぐに崩れてしまうので、他の生徒も水分を含んだ砂を中心に使っているようだ。


 しかし、砂は濡れると余計に重くなるので、崩壊しやすくもなる。

 なかなか難しい課題のようだ。


 砂遊びとかやるのは、運動場の砂場で砂山を作り、トンネルを掘って遊んだ前世の小学校低学年以来だが、私たちには月面コロニー製作の経験がある。


 さすがに分子結合をいじって高層建築を作るわけにはいかないが、サイコキネシスを使って一気に作ることも可能だ。


 カスミちゃんと並んで砂を集め、私たちはまず四角い砂の山を作った。ここから徐々に削り出したり付け足したりして、建築物の模型を作るつもりだ。


 作るべき目標は砂のお城、砂遊びと言えばやはり砂のお城である。


 私たちは一心不乱に作り続け、細かいところはサイコキネシスも使いながら造形していく。


 30分ほどたったところで、私のドイツの古城風の砂の城と、カスミちゃんのバッキンガム宮殿風の砂の城は完成に近づいた。


 我ながらよいできだ。

 周囲を見回すと、さすがにここまでの完成度の作品はなさそうで、これは完全に私とカスミちゃんの一騎打ちの様相だ。


 元々粘土細工ですら苦手にしていた生徒の何人かは、早くも諦めて、本当に砂山のトンネルレベルでギブアップしている。


 そして私たちの周辺で製作に励んでいた生徒の何人かは、私たちの砂細工の完成度に、自分の作品を作る手を休めてこちらを見ている。


 私も、カスミちゃんも、互いがライバルであることを認識し、どう付け足せば更に完成度が上がるか真剣に悩んでいた。


 あまりにも自分たちの作品に集中し、その直後に悲劇が迫っているとは夢にも思わなかったのである。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る