第96話 魔女狩り(三)マスコミ対策
ヒステリックな騒ぎが起きて、マスコミや警官がそちらに向かった。
カフェショコラ前から、五、六名の女子がこちらに向かって「魔女」と騒ぎ続ける。
俺たち希教道代表は、すぐ声明を終わせ、麻衣たちが待機する道場内に退場。
外の様子が見える窓際に集い、栞の車椅子に向かい合って俺と彩水は、折りたたみ椅子に座り、騒ぎをうかがうため
喫茶店カフェショコラの前で、夢香さんと若い女子客数人が警官たちに囲まれ、事情聴取をされているところを視る。
「見たんです」
「フードから顔が見え、見えたんです。長い鼻にイボ。そして肌が真っ赤で、うぷっ」
「ああーっ。ネットで見た魔女イラストそっくりでした。あのおぞましい……わああっ」
話してた二人の女性が警官の前で、途端に声を上げて頭を抱えたり、しゃがみこんだりしてしまった。
「わっ、私も確かに見ました。あっ、あれは本物の魔女です。恐ろしい顔をしてました」
夢香さんが、震えながら話していて、俺はショックを受けた。
液晶の点いた携帯電話が、マスコミ陣から夢香さんたちへいくつも差し出されて音の収録をしている。
やはり夢香さんも他の女子もモール街の魔女を視てしまったようだ。
喫茶店からメイド服の谷崎さんと店長も現れて、「仕事中で忙しいのでこの辺で」と告げ夢香さんを店内に戻していく。
戻って行く夢香さんに谷崎さんが、「しっかりしなさい」と揺すっていた。
「魔女ってことは、昨日の陽上高校の生徒が視たのと同じと見ていいのかしら」
「ああっ、だろうな」
道場へ意識を戻して、栞の質問に俺が答えると、彩水も聞いてきた。
「見せた能力者犯人が客の中にいる? 今見渡してんだけど、怪しい人物ばかりで特定できないわ」
「中はマスコミ陣が多いが……昨日のモール街と被っている人物はいないと認識した」
「いませんか」
原因の犯人らしき跡が見受けられず、三人でがっかりしてしまう。
「あれ?」
「わっ」
声の方向へ視線を向けると、彩水と麻衣、周りの立っていた信者たちが一つの空間から下がって驚いていた。
栞を見ると彼女もわからず、不思議そうに俺を見ている。
既視感を覚えて、
「希教道のあまりの手ぎわの悪さに、我慢できずに口出ししにやってまいりましたわ」
「第三者の介入で、後手に回っているだけ。余計なお世話よ」
東京の城野内緋奈が現出して、速攻の嫌味に彩水が食いついていた。
「城野内か?」
「あら、お久しぶりです」
俺と栞も城野内に
「ふふん。お邪魔しますわよ」
「口出しはうれしいんだが、爺さんの方は大丈夫なのか?」
「お祖父様には申し訳ないですが、仕方ありませんね。あなたたちのTVニュース見ていると、同じ能力保持者として歯がゆくて仕方ないんですのよ」
「こっちだって、いろいろあるのよ」
歯がゆさで片ひざ立ちをした彩水に、直人が片ひざをやんわり叩いて椅子に座らせた。
「いいですか、マスコミのバッシングは企業の倒産や自殺者が出るまで苛烈極まりないですのよ」
「プロパガンダで一部の市民が洗脳され、一緒に悪を叩く構図ね」
「世の中には善も悪もない、事実だけなのに」
「しかたないです」
純子、麻衣、篠ノ井と女子スタッフたちの話しを聞きながら左右に歩いていた城野内は、立ち止まり見渡してから胸を張って口を開いた。
「だからです。そうならないように対抗策を立てないといけないじゃないですか」
「それなら何か策でもあって来たのか?」
彩水が椅子の背もたれに寄りかかり、腕を組みながら聞いた。
「はい、そうです」
幹部一同が城野内に釘付けになる。
「まずは善行をするのがよろしいですわよ」
「はあーっ?」
彩水が前かがみになって呆け、他の面々も溜息をした。
「希教道の信者が街に出て、善行をするんですのよ。たとえば、子供に横断歩道を安全に渡らせるとか」
「うん。お嬢様は本当に馬鹿可愛いですね」
「あっ、あんた、広瀬。変な物真似は止めなさいよ」
うん、秘書兼護衛の三島さんがいないと、俺が彼女に突っ込み役になりそう。
「だが、教団主導で信者の善行ほど、この時期に似つかわしくないと思う」
「そうよ。不気味であやしまれること請け合いね。子供が魔女だと指を差して、叫んで逃げていく絵が浮かぶわ」
「そして、またTVで捏造報道の一つが追加されるね」
彩水と麻衣が現状から、今後の動向を導き出す。
「むっ。そう……では、繰り返す偏向報道には幻覚を与えて、希教道の善行ニュースに改良して電波で流させる」
「私たちの能力では、映像器具に反映しないわ」
栞がやんわりと否定する。
「では、映像技術を頼らず幻覚を電波のように視るものに行き渡せるとか?」
「それだと国内の人びと全てに、幻覚を行使しなければならなくて不可能だろ? なあ、栞」
俺が確認に声をかけたが、彼女は首を傾げて考えだす。
「えっと、大規模なことは、やったことはないです」
否定しないのか?
そう思っていると車椅子の栞は、目をつぶり体を硬直させたあと、ゆっくり目を開いて深呼吸をした。
俺は立ち上がり、車椅子の脇へ腰を落として片ひざをつき彼女を見る。
――要に交代したのか?
『はい、要です。……私の時間軸ですが、やりましたので少し話しましょうか?』
――いいけど、要の時間軸は、
『そうですね。さわりだけにします』
「その言い方は、中規模の幻影ならやれるってことだよな? さて、どうするのかな」
彩水が微笑んで、要に変わった彼女の車椅子を触り迫るように聞いた。
「……うーん。幻覚行使を三田村教授の下で、何度か実験を試みたことがあります」
「ほう」
全員驚きの声をそろえて出した。
「忍君には、その基礎は教えたと思いますが、風景写真を使うんです。写真に写っている建物内部に、その時間帯にいる人びとへ幻覚をかけられるんです」
「うそーっ」
彩水と城野内が歓喜の驚きを示した。
「人物写真は聞いてたけど、風景写真からの行使ができるなんて初耳だわ」
「過分な能力が必要としますので……」
「過分な能力ってどんなの?」
すかさず、彩水が栞、いや要に問うた。
「強い集中が数十分続けますので、やれるかどうかは、人によって未知数です」
それを聞いて喜んでいた二人は、微笑みを閉ざして要から離れた。
「練習が必要そうね……」
「ええ」
道場の空間を見つめて唸る二人である。
俺も気になったので、要の時間軸で伏せていることを念話で聞く。
――風景写真って、どんな規模の実験してたの?
『……東京都の航空写真を使いました。多方面な空間幻覚はUFOを飛ばすことです。他にも案はありましたけど、成功してもうやむやに出来そうだと思ってUFOにしました。もちろん極秘でやりましたが、最初は上手く行きませんでしたよ。普段の
本当に大規模な話だったので、俺の眉毛が少し痙攣した。
『数十分の写真集中が必要でしたが、やり遂げました』
――おおっ。それで結果は?
俺は興味を持って先をせかす。
『かなりの人たちのUFO目撃情報でニュースにまでなり、ネットではお祭り騒ぎでした。私はまずいことをしたと思ったんですが……撮影されているはずがないのに、UFOの映った動画がネットに溢れておかしなことになっていきました』
――それって、栞の強風のようにUFOが現実化したわけではない?
『勾玉使いのような現実干渉術ではないです。ネットにアップされた投稿動画がそれぞれ形の違うUFOでしたし、すぐわかるCGの捏造動画ばかりでした。ニュースとして広まった大勢のUFO目撃談話は、ネット特有の悪ふざけの類として、UFOマニアの虚言として、オカルト回収させたい勢力がデマと一緒に流したと思うんです』
――UFOを幻覚能力と認知した勢力か何かが、マイナス要素だから目撃情報をUFOマニアの虚言に変えた?
『ええっ、そこからです、教授の実験室には無言電話がひっきりなしに入り、見学と称して暴力団が何度も来て、そのつど機材をわざと壊していきました。だからUFO実験に気づき圧力をかけてきたヤバイ一派がいる、と教授はそう認識しました。私たちの思惑を超えて何かが動いていて、危険を感じて私への調査も実験も止めちゃったんです』
――ヤバイ一派って? もっと詳しく。
『今ならわかります。能力保持者を隠蔽したい製薬会社と金融屋、能力認知の利権者とリベラル勢力、あるいは、勾玉使いを信じる国家機関だったと……結局、私の後追いのように能力保持者が何人も現れて好きなことをやり始めました。異能力を信じるものが増えていき、近代科学思想が簡単に瓦解して、能力オカルト思想が蔓延しちゃいました。法律が守られず警察が無力になり、経済が止まり国家の存亡に発展、異能殺人鬼、能力者狩り、軍隊殺戮と惨劇が繰り返されていきました』
それを聞いて俺はしばし沈黙した。
惨劇の一つが、彼女の味わった能力者狩りの顛末に繋がる事案だな。
――今も要はやれる?
俺の質問に彼女は少し考えて答える。
『私では無理だと思いますが、栞だとやれるでしょう』
――栞なら……そうだな、十分にやれそうだ。
俺が立ち上がると、要も目を閉じて一瞬眠ったように力がぬけると、目を開けて深呼吸して栞が戻ってきた。
手前で城野内と彩水が、能力の魅力に取り付かれたようにコソコソ話している。
「何にしろ、やれた実績があるなら練習ですね」
「もしかして、グーグル地図とかでも行使できちゃうんじゃ?」
「それ、やってみましょう。私も挑戦しますわよ」
「そうよ。私もやる」
意外にも意気投合の二人が、掛け合いで共感してやる気をだした。
彩水との話がひと段落すると、城野内が俺たちに向かってまた声を上げる。
「いい案が思い浮かびましたわよ。それは偏向報道を帳消しにするんですのよ」
「帳消しとは、大きく出たな。何するんだ?」
俺も周りの幹部も興味を持って聞く体制になった。
「単純なことですよ。ニュース番組を見ると、これは捏造ですってカットが入るんですよ。刷り込み返しですわ。ほら、あれよ。気づかれないような、途中に一瞬だけ別の映像、これは偏向報道ですって入れるんですよ。良くないかしら?」
「ああっ、あれね。コカコーラを飲めってカットを一瞬だけ映像に忍び込ませて、潜在意識に残るからコカコーラが欲しくなる手法。何だっけ?」
麻衣が受け継いで頭をかしげると、栞が答えた。
「サブリミナル効果ですね。でも、あれは気付かないのに潜在意識に届くわけはないと、心理学的には否定されてたのでは?」
「あら、そう……それなら、もう一案ありましてよ。それは、画面を激しい光で点滅させて、ニュースを見ることを中止させるのです」
「それポケモンショックでしょ? かえって問題になるだけ。俺たち希教道にまた罪をなすりつけられるわ」
腕を組んだ彩水が憤慨して言った。
「何でもいいが、気づかれないやり方とか、難しいのはやれないだろう?」
俺の駄目出しに、栞もうなずくと、城野内は片手を空中に上げて演説風に話す。
「では、これならどうでしょう。希教道への偏向報道が流れたら、これは捏造ですって字幕スーパーを映像にかぶらせて、視聴者に認識してもらうのです。いいですわね」
「別な意味で話題になること請け合いだぞ」
俺が悩むように言うと、周りの数人が同じく首を縦にした。
「しかたないですわよ。それで議論になったり、捏造記事として目を向けてくれたりしたら、希教道への反感者が少なくなると思いますわよ」
最後の城野内の案を採用して、栞が道場で希教道全体写真を見ながら、幹部が応接室のTV視聴者になり実験してみると、放送技術者が間違って字幕スーパーを流したほど違和感はなかったようだ。
今の栞ならとても簡単なことだろう。
その間に俺は、先ほどの外で声明を出したときに起きた、夢香さんの魔女発言を追うことにして、折りたたみ椅子に座り集中する。
モール街と同じことが、夢香さんとカフェショコラに起きていたことで、同じバイトをしていた谷崎さんへ
「彼女、夏風邪引いてたみたいで、熱のせい……じゃないかしら」
すぐ念話で応答した谷崎さんは、フォローするように彼女の状況を語ってくれた。
「今日は何かそわそわしていて、そしたら他の女子たちと一緒になって騒ぎだしたのよ。誰かが能力を使ったかはわからないけど、私は、その、魔女らしき者は見なかったわね。まじかで見てたけど、一人が騒ぎ出すと伝染したかのように他の子に移っていって、彼女たちはまるで集団ヒステリーだったわ。すぐ警察が来て収まったけど、店内に戻したとき体が酷く熱っぽかったわね。だから、店長は彼女を早引きさせて帰らせたけど……他に原因? 首をかしげるだけね。えっ? ああっ、客層はいつものマスコミ系男性ばかりで、まあ、そんなに悪くは……こほんっ。ええっ、不審人物はいなかったわね」
夢香さんは一応大丈夫そうで安心したが、谷崎さんからも手がかりは得られなかった。
道場内へ意識を戻すと向葵里が通り過ぎたので、彼女からも聞き取り捜査をする。
「向葵里ちゃんは、魔女発言した友達の……和美ちゃんと甲斐君とは連絡したかな?」
「えっ、ええ、ボクも心配で、一昨日の夜、和美に連絡しましたよ。そしたら何と言ったと思いますか? 聞いてくださいよ」
彼女は両手を胸に当てて、俺に背伸びするように言う。
「モール街で会ったのに、ボクが途中で見えなくなったって怒ったんですよ。かわりにへんなコスプレ魔女が立ってて驚いたとか、顔が醜悪で酷く恐ろしくて地面に倒れたと言って、ボクのせいにするんですよ。翌日にも会いましたが、いつもの彼女でボクをボクと認識していて問題はなかったです、しいて言えば顔が熱っぽかったかな」
喧嘩してなくて安堵したが、解決に繋がる犯人の痕跡は聞き取れなかった。
共通点は熱? ……風邪ぐらいか。
純子と直人が事務所のパソコンから、ネット検索で日本列島の映った衛星写真をプリントアウトしてきて栞が受け取った。
「手始めに関東圏を実験にします」
そう宣言した彼女は、プリント写真を眺め東京付近を指で確認するように、
『昼のニュースに希教道が流れたら、これはプロパガンダ洗脳ですの文字が流れるのが見える』
とそのイメージを零の聖域へ送ることに集中するが、二十分ほどで緊張が途切れた。
「はん。しのぶくん、あん、駄目だよ」
ワン公が道場に入ってきて、横に座るかと思いきや、栞のひざに乗り顔を舐めて彼女に抱かれたので、何となくうらやましく思ってしまった。
東京に戻った城野内がTVで実験対象として参加していたが、昼のニュース放送枠に字幕スーパーが入ったと連絡を入れてきた。
付き人の三島にも手伝わせて、情報収集で関東一都六県から幾人から見れたとの確認報告。
「時間差の
と言葉を添えて。
ネットで日本放送協会が放送事故を起こしたと、少なからず話題になったが、番組公式ツイッターで謝罪の文章を掲載しただけで収束する。
ニュース自体は、午前中の謝罪会見は俺たち三人の顔にしっかりとモザイクが取り付いて放送されていたが、学生に謝罪させる希教道上層部の無能を弾劾して、また魔女を使った催眠術で会見を混乱させる意図を『世論をあざ笑っている暴挙』と取材記者の解説。
栞や彩水が主役なのに、まったくわかってない報道に最後まで視聴する気にはなれなかった。
夕方のニュース番組に向けて、栞は日本列島の範囲を広げて集中しだす。
彼女の車椅子を中心に、幹部がそろって能力の練習を始める。
彩水はさっそく写真を使って練習を開始し、直人や浅丘結菜ならば、
今村は自身に
そこへ携帯電話の呼び出しで廊下へ出ていた向葵里が、走って戻ってきた。
「た、たいへんです。永田君たちがモール街で襲われています」
「永田?」
俺が思い出せないでいると、「森永向葵里グループのリーダーだよ」と麻衣と純子、篠ノ井に教えられる。
「ああっ、道場居残り組みだったな」
「それと陣内さん、今泉さんも一緒で、どうも陽上高校の学生とトラブルになって、魔女とパッシングされて動けなくなっているそうです」
向葵里が携帯電話を握って悲痛な顔をする。
彩水が立ち上がり、俺と今村の肩をたたいた。
「飛べる奴は、助けに行くよ」
直人と結菜も挙手して、
栞は時間のかかる
俺はいまひとつ相手の人物像がはっきりしないので、向葵里からフラメモ、
彼女らに、彼を覚えていないとは、と白い目で見てくるので、男に興味ねえと心の中で小声で唱えながらモール街へ向かった。
暗闇から永田を捉え
「教団の魔女は死ね」
「汚い魔女たちは出て行け」
「魔女の手先は去れ」
罵倒する声が響いている中、目の前には人の足ばかり見え、路面に携帯電話が落ちていて壊れていた。
永田ははいつくばって周りを見ているらしい。
隣にはラフな私服の男が座っていたが、額から血が流れていて……おい、流血かよ。
その男の後ろでかばわれるように、女子が小さくなっていた。
思い出した、道場内対戦でペアーで出た積極的な陣内と今泉っておとなしい子だ。
目線主の近くの路面には、コンクリートのかけらが大小散らばっている。
近くに歩道の床が1メートル四方の中で小さな舗装工事が行われており、赤と白のコーンとバーで仕切られ中にブロックの割れた破片が積まれていた。
凶器のある場所で捕まり破片を投げつけられたようで、それぞれが肌に擦り傷を負ってもいた。
その永田たちの前の空間に、バレーボール位の大きさの火の玉が三つ、四つと横並びに浮かびだすと熱を放射し始めた。
これは、先に到着していた彩水たちが早速に行動を開始したようだ。
足ばかりに囲まれた空間目線が一斉に晴れて、「熱い」「下がれ」と罵倒が鳴り響き加害者や野次馬が混乱しながら下がりだす。
さすがに火の玉は大きくなって破裂する気配がなさそうで溜息をつくが、先ほど見たブロックの破片が一斉に空中に上がり、加害者らしい学生の足元へ飛んでいって、何人かの男が避けて踊りだした。
今度は突然空中から小さな魔法少女が落下して着地したので呆けていると、「バーニング」と唱えだす。
浮かんでいた四つ火の玉が二倍、三倍と膨張して、陽上学生の方へ移動し始めたので、観客たちが逃げ出し混乱からパニックに変わった。
「うわわっ」
「やべーっ」
「破裂するぞーっ」
――待て待て待て。ストーップ。
幻覚を行使している三人へ、俺は取り急ぎ念話を送った。
魔法少女が小首を傾げて振り返ると、顔は結菜だった。
――そんな派手なことして、またトップニュースにされるぞ。押さえろ。
俺は幻覚全部まとめて消去イメージをモール街に送り、火の玉も飛んでるかけらも魔法少女も全て抹消した。
すぐ前回を踏襲して、警官を複数配置し笛を鳴らして、野次馬を下がらせた。
一人の警官に永田らに声をかけさせる。
『早く、ここから離れて』
「あっ、あの……」
『俺は広瀬だ』
「やっぱり、今の幻影も広瀬さん?」
隣の流血男の陣内が、今泉を立たせて聞いてきた。
『いっ、いや、あれは、ちょっとした手違い。今は退却だ』
三人は警官数人に囲まれて、モール街から脱出して希教道へ向かった。
何とか事なきを得たので、俺も意識を道場に戻すと、彩水と結菜ちゃん、そして今村が俺に抗議してきた。
「邪魔しているのよ」
「しているのよ」
「手柄の横取りとは、先輩はやはり最低だ」
圧倒されて一歩下がるが……まあ、派手にやりたいのは異能力者の通過儀礼でよくわかることなんだが。
「あれ以上に何をしようって言うんだ? 能力を行使し過ぎたら、昔のように痛い目にあうぞ」
「むむむっ。ふん。言われずとも……」
彩水はわかったようで頬を膨らませて黙ったが、隣の結菜ちゃんも真似て頬を膨らせて黙るが、こちらは憎めず可愛い。
今村も覚えがあるようで、歯軋りしながらも矛を収めた。
なお、直人は
三人組に怪我人がいると麻衣や純子たちに話したので、待ち構えるために彼女たちは台所へ向かった。
俺ものぞきに行こうとしたら、道場の中央で大きな音がして驚き振り返る。
そこには車椅子と一緒に栞が倒れていて動かない。
「えっ?」
足元に座っていた柴犬が立って、栞の横で耳と尻尾を垂らして悲しい声を出す。
彼女の持っていた列島写真のプリント用紙が、いつの間にか俺の足元に落ちていた。
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