57 四葉の配信
「皆さん、こんばんわ! 四葉のクローバーを見つけるのが苦手な四葉鈴です!」
四葉が恒例の挨拶を入れて配信をスタートした。
途端に閲覧者の数が画面の右上に表示される。
その数は最近ではかなり増え、開始直後にも関わらず同時閲覧者数は900人前後だ。
これなら同時閲覧者数が四桁を超えるのも時間の問題であることは誰の目から見ても明らかであり、それは四葉自身も確かに感じていた。
「実は今日ちょっと色々あって、いつも配信している自宅とは別の場所で配信させてもらってるんですよー」
四葉の言葉に対し色々なコメントが書き込まれる。
『え、こんな時間に自宅じゃないの!?』
『夜 遊 び 厳 禁』
『一体四葉さんに何があったんだろう……!?』
そのコメントは様々で、四葉は流れていくコメントを見ながら苦笑いを浮かべる。
「いやいや、別に夜遊びとかじゃないですからねっ!? ちょっと本当色々あって、それを助けてくれた方のお家にお邪魔させていただいているだけです!」
四葉は目の前に誰かいるわけでもないのに、手を振りながら弁明する。
しかしそんな四葉の言葉を聞いて、リスナーの一人の男が「そんなことまで言っちゃう!?」と冷や汗を流していることを四葉は知らない。
「ただ今配信しているところが自宅にあるマイクとかよりも全然いいやつなので、たぶん普段とは音が違うと思いますっ。違和感とか感じるかもしれませんがご了承ください!」
四葉もまさか自分がここで配信をすることになるとは思っていなかったが、いざマイクの目の前に座ってみると、普段使っているマイクとは恐らく全然違うのだろうと感じられた。
最近新しいマイクを憧れの配信者『涼-Suzu-』に貰ったとはいえ、今目の前にあるマイクは何というか、むやみやたらに触るのを遠慮してしまうほどの雰囲気がある。
『確かに言われてみれば普段よりちょっと音が良い気がする……! スピーカーで聞いてるから分からないけど!』
『ウチ、イヤホンで聞いてるけどかなり違い分かるよ! 確かに良い音してる!』
『あれ、ということは四葉ちゃんは今、別の配信者のお家にいるってこと?』
『もしかしてそういう関係っ!?』
『↑はぁ!?』
『↑↑そんなはずあるわけねえだろ!!』
『↑↑↑四葉ちゃんは皆の四葉ちゃんだぞ!!』
『↑四葉ちゃんは俺の嫁』
『↑俺のだ』
『自重しろ愚民ども』
「うええっ!? い、いやまぁ確かに配信者の方のお家ではあるんですけど、別にそういう関係とかじゃ全然ないですからね!?」
リスナーたちの間で様々な葛藤が繰り広げられる中、四葉は慌てて否定する。
確かに今こうやって機材を貸してくれている『涼-Suzu-』は四葉にとっても憧れの存在だ。
しかし『涼-Suzu-』と自分では釣り合うはずがない。
四葉は『涼-Suzu』の人気の高さを鑑みてもそう判断していた。
「ちょっと今日色々あって家に帰れそうになくて、配信が出来ないかもってなってたんです。でもこれまで毎日配信を頑張ってるし、音が悪くなってでも携帯から配信しようとしてて……。そうしたらその人が『今日は僕のパソコンで配信しなよ』って言ってくれて……えへへ」
四葉はついさっきの会話を思い出しながら、少しだけ詳しい事情を皆に話す。
『……な、なんか四葉ちゃん凄い嬉しそうというか、にやけてそう』
『か、可愛いなおい』
『いや待つんだ皆! ”僕”ってことは四葉ちゃんが今いるのは男の家ってことじゃないか!?』
『!!!!!!』
『ま、まだボクっ娘の可能性があるぞ……!』
『↑現実を見ろ』
『↑現実逃避させろ』
「べ、別ににやけてませんから! そして確かに今私がいるのは男性の方のお家ですけど、本当に全くそういう可能性は皆無ですからね!?」
四葉はにやけていると指摘された顔を掌で隠しながら弁解する。
しかし掌に感じるのは確かな頬の熱さで、四葉は自分の頬が紅潮していることを認めざるを得ない。
それでも一度深呼吸をして、ようやく落ち着くことが出来た。
「最後にもう一回言いますけど、私とその人は本当にそういう関係じゃありませんからね? 私が同じ配信者として色々尊敬させてもらってるだけです」
『四葉ちゃんがそう言うなら信じるよ!』
『四葉ちゃんに尊敬されるなんてどんな配信者だろ……妬ましい(羨ましい)』
『↑本音と建て前が逆になってるぞー』
『え、でも配信者になったら四葉ちゃんから尊敬されるかもしれないってこと?』
『↑お前天才かよ』
『よし今から配信するためのマイク買ってくる!!』
『俺も俺も!!』
『あんたたち、どこまで阿保なんだ……』
四葉は自分のリスナーたちのコメントを見て思わず吹き出す。
こうやってコメントで配信を面白く盛り上げてくれる彼らは、四葉の配信にとってなくてはならない存在だ。
そして司波は、クラスメイトに言われたことを思い出す。
——皆の心が一つになっているのを見たんだ。
四葉が憧れる配信者は、四葉にもその瞬間を感じてほしいらしい。
でも……と四葉は自分の配信を見に来てくれる人たちのコメントを見る。
今のこの瞬間はその人が教えてくれた”瞬間”ではないのだろう。
それでもこうやって沢山の人が四葉の配信を見に来てくれて、面白いコメントをしてくれる。
それだけでも四葉には十分に「これからも配信を続けていきたい」と思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます