いま語られる……。アステマの真実。

「あの……トモダチって……どういう意味ですか?」


「ん? どうしたニケア」


「ダイスケさんとアステマさんは……その……もともと、トモダチですよね……」


「……あ、そうか」


「その……おとな…………な、関係の……」


 そうだった。今回の事件の原因。オレと『セフレ』だというアステマの嘘。ニケアはそれを信じ切っている。

 死んだり生き返ったり、忙しかったから忘れていた。


「アステマさんに居てもらうの、ニケも大賛成です。……でも、その……関係は…………」


 唇をかみながらニケア。そうとうに言いづらそうだ。

『そんな関係は止めて欲しい』そうつづけたいのだろう。あたりまえだ。

 ……いや、だから……そんな関係ないから!

 セフレな関係じゃないから!


「…………」


 ニケアはうつむいている。オレの反応をまっているのだろう。

 これからいっしょに住むんだ。この誤解だけは解かないといけないな。


「おいアステマ」


「ん? なに」なみだを拭いながらアステマ。


「これからいっしょに住むんだからさ、ニケアに真実を話すんだ」


「真実?」


「あの嘘は……ダメなやつだ」


「あ……でも。それは……嫌」


「嫌って……」


「ぜったい嫌だ!」ニケアを睨んでアステマ。


「あ……いえ、ごめんなさい。そうですよね……嫌ですよね」


 アステマの強い否定に、かなしそうな表情をうかべるニケア。


「ダイスケさん。……ニケは……だいじょうぶ。がまん……します」


 拳を――ぎゅ。と、にぎりしめている。


「いや……ニケア。そんなの……だいじょうぶな訳がないだろ。アステマ話すんだ……ニケアに真実を! あれは嘘だったっていうんだ!」


「嫌! だって……そんなこと、ニケに言えない!」


「じゃあ、オレ達といっしょに住めない」オレは冷たく言い放つ。


「う……」


「嘘をついたままで。誤解を与えたままでいっしょに居られないだろ? オレはさ、アステマ。おまえもニケアと仲良くして欲しいんだよ。おまえはたしかに酷いやつだ。でも、なんていうか……根は悪いやつじゃ無い。いや、根っから悪いやつなんだけどさ……悪魔だし。そこは仕方が無いっていうか……なんか、うまくいえないけど……うまくやっていきたいんだよ、な? アステマ。オレ達、トモダチなんだろ?」


「トモダチ……。で、でも……あたしの口からは、いいたくない……」ポロッポロと涙をこぼすアステマ。くやしさをにじませている。


 そんなにも嫌なのか。オレとの間になんにもなかったという、あたりまえの事実を告げることが……。悪魔にとっては、じぶんがついた嘘を、じぶんで覆すというのは苦痛なのかもしれない。


「……アステマ、がんばれ。頼む」


 祈るような気持ちで声をかける。オレの常識では、はかれない尺度がアステマにはあるのだろう。人間と悪魔。すこしずつでも理解して、距離を詰めていけたらなと思う。時間はかかるかもしれない。すぐにとはいかないかもしれない。そんなのあたりまえだろう。おなじ人間でも、おなじ国の人間でも、おなじ家に住んでいたって血を分けた関係の人間だって――絶望的なまでの心の距離がある存在はいた。でも、アステマとはわかり合える気がする。わかり合いたいとオレは望む。


「……トモダチ……。そうだ、あたしとダイスケはトモダチなんだ。でも……」



 😈



「ダイスケ……わかった」


 たっぷり時間をかけて迷っていたアステマ。オレとニケアは、そのあいだ黙って見守っていた。ようやく決心してくれたようだ。


「……ニケ。聞いてね」


「はい。アステマさん……」


 アステマがなにを言うかは、ニケアもオレも解っている。だけど、きちんと言葉にして、それをうけ取るという最期の儀式が残っている。この手順がないままだと、モヤモヤを抱えたまま過ごすことになる。


「……見栄でした」羞恥からだろう、顔を真っ赤にするアステマ。「あれはあたしの見栄! 嘘だったんだ……」


 うん、そうだなアステマ『セフレ』だなんて、オレの嫁であるニケアに対抗するために、とっさについた嘘。勇気をだしてよくいってくれた……。


「嘘……。そうだったんですね……」

 

 アステマの真剣な告白に耳をかたむけるニケア。その表情はやさしい笑顔をうかべている。……よかった、どうやら誤解は解けそうだ。ニケアは賢い子だ。すべてを悟ったのだろう。


「…………ごめん……なさい」


「ううん……いいんです、アステマさん。それって、ダイスケさんとアステマさんの間には、なんの関係も――」


 ――ぺりっ。


 じぶんの胸に手をつっこんで、なにか剥がしたアステマ。


「「!?」」


「ハイ、これ……。これでいいでしょ!!」


 そして、そのを、オレに投げてよこす。

 反射的にうけとったオレの手には、肌色のぷにゃぷにゃした物体が2個のる。

 アステマの体温でなまあたたかい、……ぷにゃぷにゃ。

 これって……。


「……あのさ、アステマ……。これ何?」


「胸パット」


「……それはなんとなくわかるけど、……けど」


「……ニケきいて。あたしの胸もあなたと大差ない、ぺったんこ系なんだ。……笑いたければ笑って。笑いなさいよ! この不様なあたしを! 真実のあたしを!」


 みるとアステマの黒衣装の胸元は、空洞ができてブカブカしている。


「……え、……は? え……」


 想定していた答えと、ちがう返答に混乱するニケア。救いをもとめるような視線をオレによこす。

 いや……そんな目でオレをみられても……。

 困る。


「……あたし。盛って、寄せて、上げていたんだ……」


「…………アステマ」


「ごめんねダイスケ。がっかりしたでしょ。あたしの胸が……胸パットでつくった偽乳だっただなんて。……ショックだよね。許してなんて、いえないよね……」



「そんなん……どうでもいいわ!!!!!!!!!!!!!!!!」



「うええ!?」

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