新たなる道標 ⑤
再び、時が動き、姉妹は動き出す。
魂が、大分濁ってきている。悪霊化まで、一歩手前だ。
姉妹は、手を取り合い首をぐちゃぐちゃ歪め首を伸ばし2人目掛けて襲い掛かる。
ー霊気の、一番の弱点は、乱れた霊気の流れと空洞部分だ…そこを狙えば…
サトコは、意を決して二人の額目掛け、サジタリウスの引き金を引きそれぞれ二発の弾丸を命中させた。
弾丸は、姉妹の額に命中するも、二人はゲラゲラ嘲笑いず、力を増幅させる。
「違う!ここじゃない。本体の核は、別の所にある。」
黒須は、そう叫ぶと鎌で首を次々と両断していく。
姉妹の頭部は宙を浮き、粉々に消え失せた。
そして、蛇のように不気味にグニャグニャ歪んだ首の先端がぶくぶくあわだち泡立ち、再び頭生えてきたのだった。
「ど、どういう事…?」
あまりの奇妙さに、サトコの背筋に寒気が走った。頭部は、本体の核ではなかったのだ。
「うちらは、やられた分をやり返してるだけ。泥水をすすり、這いつくばり、虫けらのような扱いを受け、存在を否定され、無視された。そして、終いには騙され拉致られ殺された。自分がやられて嫌な事をそっくりそのまま野郎共にしてやって、何が悪いんだよ!?」
姉妹の声は、次第に低くハスキーな声と様変わりしていき、低く地獄のようなおぞましい声へと変化していった。
「だから、か?自分の価値を見出し、必要としてくれる者に尽くして、お前らはそれで満足か?お前は、ただ、利用されてるだけなんだよ。目を覚ましな!」
黒須は、懐から札を取り出すと、奇妙な呪文を唱え札から青磁色の鎖を出現させた。
そして、再び、勢い良く伸びてくる姉妹の首を硬くキツく縛り付けた。
「黙れ、黙れ、黙れ!私らは、アリア様に才能を素質を買われたんだ!アリア様は、私らに一筋の光をさしてくれた。手を差し伸べてくれた。だから、アリア様の事を愚弄する事は、絶対に許さない!」
姉妹の口調は、高くなり乱暴になった。
「やれやれ、利用されてるとも知らずに、幸せでお気楽なもんだな。現実を拒絶し、背けて楽しいか?」
黒須は、鎖を握り締める手を強める。そして、器用に樹木の枝を避けながら隼のようなスピードで一気に10メートル進み、姉妹の胴体まで距離を詰めた。
「ここだな?」
黒須は、得意の笑みを浮かべながら姉妹の胴体を一気に両断した。
すると、姉妹の身体は爆発し、ドロドロと黒い泥が放出された。鎖が溶けだし、消失した。
「これは、まさか…アリアが…」
黒須は、ハッとしドーム状のバリケードを貼った。バリケードの周りを、泥が包み込んだ。
サトコは、悪夢をまじまじと直視し戦慄した。
ー何?これ…
重苦しい闇の中に、サトコはいた。
飲んだくれの父親、愛人が出来蒸発する母親。
隙間風の流れ込む、質素なアパート。
バカにされ、虐められ泣いてる女の子。
女の子は、何かと不器用でのろまだった。
周りは、自分よりずっと、要領の良い子ばかりだ。
何て眩しいのだろうと、羨望していることしか出来ない。
場面は変わり、薄暗いトンネルの中でその不器用な女の子は同級生の女子に殴られている。
姉が、割って入り取っ組み合いになる。
参観日には、親は来ない。
家庭訪問の時は、先生はヒステリーになりサチの不出来や問題行動について捲し立てている。
母親は、はだけた格好でペコペコ頭を下げる。
妹は隅の方で子兎のようにビクビク蹲る。担任が帰ると、母親は、サチに暴力を振るおうとする。
姉が、割って入り身を呈して妹を庇う。
黒い渦が、サトコを飲み込もうとするー。
「やめてーーーー!!!!」
サトコは、叫んでいた。これは、同情心からくる叫びだった。見ていて、自分と重ね合わせ胸が締め付けられるのだ。
汚濁した泥のような渦を見て、サトコは悟った。
姉妹の魂の濁りが、大分進行している証拠だ。
そして、これは、今まで2人が食らってきた魂の量だ。
その渦が、ドリル状にぐるぐる渦を成し、次第に人の姿を型取り三メートル程の黒灰色の鳥の姿を成す。
巨鳥は、赤い眼をギラつかせサトコと黒須を睨みつけている。
ー違う、違う…そうじゃない。どんなに不幸でも、闇堕ちしては駄目だ。闇に飲まれては駄目なんだ。この姉妹は、こんな風になる筈ではなかった、なりたくはなかった筈なんだ…
ー助ける方法は、怒り荒ぶる魂を浄化させる事だけだ。
「サトコ、行けるか?」
黒須は、真剣なサトコを見て、何か勘づいたようだった。
サトコは、深呼吸し再びトリガーの引き金を引く。
全身にビリビリ電流が流れている。脳が研ぎ澄まされ、あらゆる物が透けて見える。
無数の魂が、
黒灰色の汚濁した渦の中に、空洞があった。
ーここが、弱点かー?
だが、その判断は、果たして正しい事なのだろうかー?
もし、外したら、サトコと黒須の魂は危ないー。
だが、サトコは、覚悟した。
ー大丈夫、サエコがついている。
サジタリウスを握る手が、次第に重くなっていく。深く息を吸い込み、神経を抑える。
弾丸は、風を吸収し流麗に空を斬り巨鳥の胸部に命中した。
巨鳥は、悲鳴をあげるとのたうち回り泥粘土のようにぐにゃぐにゃ歪み、そして爆発した。
その中から、無数の魂が放出され天高く散り散りに飛散していったのだった。
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