絵画の中の女の子 ①
サトコは、辺りの樹木が枯れ果て、教会も廃れていくのに気がついた。
そして、辺りは森の中の廃墟と化したのだった。
「え…?ここは…」
「ここは、只の雑木林だよ。」
すると、天井裏からバズーカを携えた小柄な少女が姿を現した。
「リオ、サンキュー」
黒須は、軽く手を振った。
年齢は15か16位だろうかー?
長いツインテールにぶかぶかのマフラーを巻いている。
「死神が人間と馴れ合うのは、規律違反だぞ。」
リオは、サトコの方を向くと顎を向けた。
「コイツは、色々あってね…とある事情で、こうして行動を共にしてるんだよ。」
「その、とある事情とは…?話の内容次第では、その子は無事では済まされないぞ。」
リオは、何かを勘付いたのだろう。サトコの方を向きバズーカの照準を合わせている。
「お前に関係ないだろ…仲間打ちして何の意味を成さない、無駄なのは知ってる筈だ…」
黒須は、軽くイラついてるようだ。
「まあ、いい。困るのは、お前自身だから。」
リオは、そう言うと突き抜けた木々の枝をぴょんぴょん軽く飛び越え、天井の向こうに消えていった。
「ふう…コイツは、小難しくてね…ぶっきらぼうなんだが嫌な奴ではないさ。」
黒須は、溜息をつくと目指し帽をかぶり直した。
「ねえ、あの…他の人達は…洗脳された人達は、大丈夫なの…?」
「ああ。それに大分苦戦したんだよ…初っ端からわらわら邪魔してきてね…」
「そうなんだ…」
「残るは、あの二人なんだが…」
黒須は、廃墟の隅の方へと視線を移す。そこには、少年と鎖にぐるぐる縛られて悶え苦しんでいる少女の化け物を顎で指した。
「助からないの…?」
「少年は、まだ助かるが…な…」
黒須は、顔をしかめた。
「…あの、少女はもう駄目って事…?」
「多分、煉獄行きだろうな…人を喰い殺してるし、人としての理性を失っている。しかし、望みは完全にないとは言い切れないがな…更正の道はまだある。」
「そうなんだ…」
サトコは、少しホッとする。人の心は、脆く弱い。だから、その弱さに漬け込み誑かす輩も少なくはない。自分も、寸止めのところで化け物と化していた事だろう。自分は、運が良かった。
すると、黒須の通信機のメロディーがなった。
「はい、黒須。」
黒須はぶっきらぼうに電話に出た。彼女は、上とやり取りするときはいつも物ぐさで強気な口調で話す。上の人と相性が悪そうだった。
「…はい。分かりました。行けば良いんでしょう。行けば…」
黒須は、しばらく軽く口論するとしかめっ面で電話を切った。よっぽど、上と折り合いが悪いようだ。
「仕事が、入った。」
黒須は、そう言うと小屋の脇に停めてある赤のベンツへとサトコを案内した。車の中でも、黒須は終始無言で不機嫌だった。
サトコは、運転する黒須の横顔を眺めながら昔、何処かで見たような既視感のようなものを覚えたのだった。
車は、そのまま森の奥へと突き進む。2時間ほど山道を走ると、ポツポツ建物が寂れた鉄道も視界に入った。
しばらく走り、橋の手前にたどり着くと目の前には豪勢な温泉旅館が姿を現した。
「ここだ。」
黒須は、そう言うと車をそのまま走らせ建物の手前で停車した。
建物は、風情があり百年以上の重みを感じるどっしりとした佇まいである。
黒須は、玄関のガラ戸を開ける。中は不気味なまでに静まりかえっており、他に客は居ないようだ。
「すみませーん、17時に予約しておりました、黒須という者ですけど…」
黒須は、声色を変え客を演じる。彼女は、仕事の度に色んな人格を演じ分ける。長年、死神業をやってきたスキルなのだろう。
「あっ、霊媒師の方ですか…?」
奥の暗がりの廊下から、女将が姿を現した。
「はい、お祓いに来ました。」
「ありがとうございます。あなた様は、大分有名でして…」
女将は、涙ぐむ。
「チッ…アイツめ…」
黒須は、顔を背け舌打ちする。
「…ええ、では、話を伺いましょうか。」
黒須は、女将の方を向くと、無理に笑った。
二人は、一階の大座敷へと案内された。
「実は、例の踏切の事で我々は悩んでるのですよ…」
「踏切…?」
「ええ。私共も、長年悩まされ続けて、ありとあらゆる霊媒師さんに頼んでは見たのですが…」
女将は、二人に緑茶を差し出す。彼女は、やつれ顔で困り果てているようだった。
「どうして、旅館を引き払わなかったのですか?」
「この温泉旅館は、先祖代々から200年以上続いているものでして…どうしてもそうする訳には…」
「なるほど…そう言う事情でしたか…」
「私共は、あらゆる手を尽くして色んな霊媒師を頼んでみたのですが、全員、体調を悪化させてしまい…そして、亡くなった者まで現れました。そして、地元情報誌に有名になりまして…幽霊村と有名に…興味本位で現れた人達も、病や事故で次々に亡くなったのですよ。」
女将の肌は白く、全体的に痩せ細っていた。彼女も、呪いにかかっているのだろうかー?
「ツタンカーメンの呪いみたいだな…」
黒須は、何やら深く思案しているようだった。
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