魔性の堕天使 ①

それは、麗らかな太陽が照りつけた一日だった。


とある教会の大聖堂の教卓に、30位の歳の女の牧師が額に手を拭いながら、聖書を読み上げようとしていた。

「ようこそみなさん、本日は、来て頂き、誠にありがとうございます。」

牧師は、艶やかで丁寧な口調でゆったり話すと聖書を読み上げ始めた。

牧師は白いフードの様なローブのような物を着ており、細身で長身である。

大聖堂内部にいる物達は目が異様であった。瞳孔には生気がなく、顔は青白かった。

牧師が何やら聖書を10分程読み上げると、会場内に一斉に「アーメン」と、声が響き渡った。

「皆さん、我らの父は今日も御守り下さりますよう。」

牧師はそういうと、口元が軽く上に上がった。

「誰か、助けて欲しい者はいますか?今、ここで癒して差し上げましょう。」

すると、信者が1人立ち上がった。

「牧師様ー、この子は長年車椅子で歩けないんです。難病持ちで、身体が植物上体で…」

信者がの横には、車椅子にもたれかかった16歳くらいの少女が虚ろな目で微かに息をしているのだった。

「大丈夫ですよ。今すぐ楽にして差し上げましょう。さあ、こちらへ。」

牧師が手招きすると、信者は車椅子を引くと教壇の元へ娘を連れて行った。

牧師は、教壇から降りると娘の元へ歩み寄り右手を差し出した。そして、右手を少女の額に当てると、手のひらからは青紫色の光が出現した。少女の額が青紫色に光り輝いた。

すると、少女は糸に引っ張られたかのようにピンと伸び、目を丸くさせた。瞳孔には光が増し、肌の色が徐々に赤みを増していったのだった。


少女を連れて来た信者は、息を飲みながらその様を見ていた。

そして、少女は青紫色の光に包まれた。しばらくすると光は徐々に弱くなっていき、少女は白い光に覆われていった。

「もう、あなた自由の身ですよ。」

牧師が微笑んだ。

「ホントですか?」

信者が目を白黒させ、その様を見ていた。

車椅子の少女は、恐る恐る腰を上げるとそして、歩き始めた。

「さあ、貴女は走れますよ。」

牧師が微笑んだ。すると、少女は早歩きになると、小走りになった。

「まあ、なんて事でしょう…」

信者が目に涙を浮かべていた。

「さあ、貴女は、喋れますよ。」

牧師がそう言うと、少女は軽く声を発した。

「あ…あ、ありがとう…」

聖堂内は大合唱が響き渡る。

「おぉー、牧師様…!」

信者は目を皿のように丸くさせると、会場内には歓声が響き渡った。

「牧師様…!うちの息子も見てくれませんか?息子は、目が見えないんです!」

中年の男には、隣に座っている盲目の少年が杖を携え座っていた。

「では、こちらへ。」

牧師がそういうと、中年の男は盲目の少年の手を引き教壇の元へと連れ出した。

牧師は少年の額に右手を当てた。右手は再び青紫色の光を帯び、少年は白い光で覆われたのだった。

「牧師様…息子の目は、良くなるのでしょうか?」

「心配する事ありませんよ。普通に日常生活が送れる事でしょう。」

牧師が微笑んだ。

すると、少年は首を回すと目を爛々と丸く輝かせた。

「父さん、見えるよ!」

少年は水を得た魚のように生き生きとしていた。

「牧師様…ありがとうございました!」

中年の男は、歓喜の声を出すと立ち上がり目に涙を浮かべていた。

「他に、お困りの方は居ますか?」

牧師は辺りを見渡した。

「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが…私を若返らせる事は出来ますか?流石にこれは、無理でしょう…」

目の前にはクタクタにやつれた老婆が座っていた。

「可能ですよ。」

牧師は微笑むと、老婆に近づき額に手を当てた。すると手のひらから青紫色の光が放出し、老婆は白い光に包まれた。


白い光が徐々に弱まると、老婆の肌はみるみるハリを増し逆巻き戻しになってるかのように、若返っていったのだった。大聖堂内には、再び歓喜の声が溢れてきた。牧師が老婆に手鏡を手渡した。

「さあ、どうぞ。」

老婆は、恐る恐る手鏡を見た。すると、彼女は自分の両頬に手を当てると目を白黒させていた。

「…え?これが私かい…?」

老婆は、30代くらいの女性に変貌を遂げていた。

そして、再びスタンディングオベーションが響き渡った。

「牧師様…!」

信者達が次々と立ち上がった。

「牧師様、私も!」

「私も!」

牧師は不気味に微笑んだ。

牧師の前には次々と信者達が列をなしていた。最後の信者の施しを終えると、牧師がローブの懐からベルを取り出した。


彼女がシャンシャンベルを鳴らすと、ベルの内部から円い青紫色の輪が出現し、その輪は徐々に大きくなっていくと次々と円が出現し、会場内に広まった。


すると、信者達は恍惚とした表情になり、一斉に席を立った。

「牧師様。何だか救われたみたいな気がします。」

「私も、死にたい気持ちが和らぎました。」

「気持ちが軽くなりました。」

等と、声を高々と話したのだった。

「皆さん、今日の良き日に感謝しましょう。」

牧師は微笑んではいるものの、何処かマネキンのように目が笑ってはおらず肌は陶器の様に白く、不気味であった。


とある繁華街の赤信号の交差点で、サトコは漠然と信号待をしていた。今日は休日であり、気晴らしに買い物にでも行こうとしているのだった。


サトコは、先日からの疲労が蓄積され全身に強く倦怠感があった。しかし、外で刺激を浴びないと、ストレスが重くなりそうで辛いのだった。桜庭、木村、山田の3人は、何事も無かった様に談笑すると、無事に寮まで帰り、サトコも施設に帰った。


サトコは、遠い昔に黒須と会ったことがある様な気がした。というより、自分そっくりのソウルメイトが彼女と会っていたような感じがした。


だが、それは何時何処でであるかは定かではない。しかし、黒須を見ると心から鉛が剥がれ落ち、ホッとし心が風船のように軽やかになるのだった。だが、黒須は何処かしら冷たく謎めいていて近寄り難い。


サトコは、黒須が自分の事について色々知ってるものだと思ったが、話すタイミングがない。


サトコは自転車を漕ぐと、そのままショッピングモールへとペダルを漕いだ。しばらく漕ぎショッピングモールの敷地内に入り、自転車を停めた。建物内に入ると、プラプラ中を物色した。中央ホール内の目的の店に入ると、長い行列が出来ていた。サトコは最後尾に並ぶと、暇つぶしに、ホールに流れる巨大スクリーンに目を移した。若者達のハイテンションに盛り上がる画像を漠然と見て、自分とは全く違う世界に目眩を覚えた。


すると、急にテロップが流れ出てきた。画面内には顔面蒼白のリポーターが必死の形相で、声を荒らげていた。

『S市の大聖堂で人の白骨死体が出現しました!白骨死体は、およそ100体ほどにもなり、原因は不明で、現在、調査中との事です!』

「不気味よね…」

「都市伝説が、実際に起きるなんてね…」

自分の前に並んでいた若い女たちが目を細めながら神妙な面持ちで話していた。


サトコは、これは黄魔だと直感で分かった。しかし、先日からの疲労やトラウマが蓄積されており、非力な自分に出来ることは、何もないだろうと思った。サトコは、スルーするとスマホをいじる事にした。

買い物を済ませ、ショッピングセンターのソトに出るとそのまま自転車を漕ぎ、寮まで戻った。




そこは、深い深い暗い森の中だったー。満月が差し込む暗い廃墟の小屋の中で、二人の少女はひたすら今後の作成を考えていたー。二人は館を燃やし人を沢山殺した。それはとても重い十字架のようなものであり、二人はその意味をりかいしていた。

彼女達は机に地図を拡げ、今後の策戦を練っていた。

「アオイ、あとは、これだけだな。」

黒須は、目的地に指を指した。

「うん。これで、私達は自由になるから。そしたら…」

アオイの顔は濁った。

「大丈夫さ。私も一緒だから。ずっと一緒だよ。」


「…ありがとう。」


2人は、マネキンの様に無表情になり目の前にある紙切れに目を通していた。その紙は、地図のようなものであり、地獄の扉のようであった。

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