第6話胡蝶の舞い

闇の中で声が響く。

(女の子)「うまく逃げ延びて欲しいわ」

(仙人)「うまく逃げ延びて欲しいな」


(男の子)「何を言ってる。二人は反動右派分子だ。

人民の敵だ。早く掴まえて処刑しなければ、

我々人民が逆に殺されてしまう」


(仙人)「もうそういう時代は終わったのだ」

(女の子)「そうよそうよ。ふたりに何とか逃げ延びて欲しいわ」


暗闇の中スポットが当たり、上手より

若者と姫が逃げながら下手に消える。


スポットが当たり下手よりエリート

二人が逃げながら上手に消える。


明転ー若者と姫が上手より現れ泉の前で立ち止まる。

(若者)「ここまでくればもう大丈夫だろう」


若者、姫の手を取り泉を覗き込む。

(姫)「まあ、とてもきれいな泉だこと」


姫、水辺に降りて手で泉のの水をすくう。

(姫)「ねえ、見てみて。とても清らかで美しいわ」


姫、ひと飲みする。

(姫)「とてもおいしい!」


若者は向こうを見こちらを見、見張っている。

(姫)「あなたも飲んでみて、とても冷たくて美味しいわ」

(若者)「・・ああ」


若者、水辺に降りていく。水をすくいごくりと一飲み。

(若者)「ああ、とても美味しい。水面が透き

通っていて吸い込まれそうだ」


ふたり、目を合わせて微笑む。

(若者)「何か書いてあるぞ」


ふたり、立て札を見つめる。

(若者)「飛び込むなかれ、底なしの泉なり。

地下水脈にて死体は二度と上がらない。・・か。

ふーむ、とても古い字だな、これは」


(姫)「底なしの泉なの?」

(若者)「ああ、底なしの泉だ」


遠くで蒙古兵の声。

(兵1)「足跡があるぞー、こっちだ!」


姫と若者、泉の脇に隠れる。

上手より蒙古兵三人が現れる。


(兵2)「こんな所に泉があるぞ?」

(兵3)「飲めそうか?」

(兵2)「飲めそうだ」


蒙古兵1は盛んに付近を捜している。

他のふたりは水を飲んでいる。

姫と若者は身をよじらせながら

泉の裏側へ回ろうとしている。


(兵1)「あっ、みつけたぞーっ!」


兵2,3身構える。

にじり寄る3人の兵。

姫と若者、泉の裏手に後ずさりする。


(若者)「用意はいいか?姫!」

(姫)「もちろんですとも!」

(若者)「それっ!」


ふたり、瞬時に泉へ飛び込む。

(兵3)「あっ、飛び込んだ」


兵2、飛び込もうとする。

(兵1)「待て!再び浮上してきた所を掴まえればよい。

ここで待て、必ず浮き上がってくる」


兵3人、武器を構えて待つ。

突然、おどろおどろしい雷の音。


ー暗転ー


稲妻が光り雷鳴が轟く。

兵3人ひれ伏す。


大きな蝶が二匹羽ばたいて泉から

飛び出で上手に消えていく。

その後を無数の蝶が天空を舞い上手へと消えていく。


中央に仙人、両脇に男の子と女の子。


(女の子)「二人とも蝶になったのね」

(仙人)「ああ、蝶になった。たくさんの蝶は

たくさんの魂かもしれない」


(男の子)「無意味だ!革命前の貧農の暮らしに比べれば、

ブルジョワ的悲恋物語など全く無意味だ」

(女の子)「何言ってるのよ、どんなに世の中が

良くなっても、悲恋物語は無くならないわ」


(男の子)「体制が変われば人の心も変わる」

(女の子)「なんですって、このわからずや!」


(仙人)「まあまあ、人間そのものが変わらない限り、

世の中がいくら変わっても人の心は変わらない」

(男の子)「人の心は変わらない」


(仙人)「そうじゃ、同じことの繰り返しじゃ」

(男の子)「同じことの繰り返し?」

(仙人)「人間生命に宿る宿命を転換しない限り

同じことの繰り返しじゃ」


ー暗転ー


徐々に明るくなる。

下手よりエリート二人が登場。

逃避行のため顔も服も汚れている。


(男)「ここまで来ればもう大丈夫だ」


ふたり、泉を覗き込む。

(女)「まあ、とてもきれいな泉だこと」


女、水辺に降りて泉の水をすくう。

(女)「ねえ、見てみて、とても清らかで美しいわ。

(ひと飲みして)ああおいしい」


男、向こうを見こちらを見て追っ手を見張っている。

(女)「あなたも飲んでみて、とても冷たくて美味しいから」

(男)「ああ・・・」


男、水辺に下りていく。

水をすくいごくりと飲み込む。

(男)「ああ、とても美味しい。

水面が透き通っていて吸い込まれそうだ」


ふたり、目を見合わせて微笑む。

男、立て札に気付く。

(男)「何か書いてあるぞ?」


男、立て札を見つめる。

(男)「『飛び込むなかれ底なしの泉なり。

地下水脈にて死体は二度と上がらない』・・

古い字だなこれは」


(女)「底なしの泉なの?」

(男)「ああ、底なしの泉だ」


遠くで民兵の声。

(民兵1)「足跡があるぞー!こっちだ」


男と女は泉の裏側に回る。

民兵3人が出てくる。


(民兵2)「こんな所に泉があるぞ」

(民兵3)「飲めそうか?」

(民兵2)「飲めそうだ」


民兵1は盛んに付近を捜している。

他のふたりは水を飲んでいる。


(民兵1)「あっ、見つけたぞ!」


民兵2,3急いで身構える。

にじり寄る三人の民兵。

後ずさりする男と女。


(男)「用意はいいか?」

(女)「もちろん!ほかに道はないわ!」

(男)「よし!それっ!」


ふたり、瞬時に泉に飛び込む。

(民兵3)「あっ、飛び込んだ!」


民兵2、飛び込もうとする。

(民兵1)「あ、まて!再び浮上してきた所を

掴まえればよいから、ここで待て。

必ず浮き上がってくる」


民兵三人、じっと武器を構えて待つ。

突然、おどろおどろしい雷の音。


ー暗転ー


稲妻が光り雷鳴が轟く。

民兵三人はひれ伏す。


大きな蝶が二匹、大きくゆっくりと

羽ばたいて泉から飛び出で

上手に消えていく。


その後を無数の蝶が天空を舞い

上手へと消えていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る