プロローグ

 中学生になって一番最初に好きになった女の子は、いつの間にか学校一の不良と言われる先輩と付き合っていた。次に好きになった女の子も、同じように不良に分類されるだろう男と付き合い始めた。なんだそれは。


 俺は人に簡単な嘘であったとしても、ついてしまったことを一週間は後悔し続け、数年後にそれをふと思い出して死にたくなるような、クラスではなんとなくの雰囲気で学級委員長に選ばれてしまうような、不良とは縁遠いマジメくんというやつだった。


 でも決してぼっちではなかった。友達はいた。四〇〇人以上いる全校生徒のうちたった一人だったけれど。

 やはり学校というものは、同じような人間同士が仲良くなり、それがグループ化される。


 中学の頃のその友達は、正直根暗な奴だった。でもそいつが学校を休めばその日の俺は孤独化し、死にたくなる。選択授業でそいつと離れ離れになると、たった一時間だけ離れるだけなのにナゼか不安でいっぱいになる。


 同じような経験をした奴はいるんじゃないだろうか。

 まあ俺の場合はいじめられることがなかっただけ幸せだったのかもしれないし、友達が一人いただけで十分だったのかもしれない。


 それにしてもなぜ女は不良の男に憧れる? なぜ校則違反の塊みたいな奴らがモテて、俺みたいな純粋ボーイは誰からも好かれない……。それが中学校生活三年間の最大の謎だった。


 これじゃ俺のような真面目に生きている人間が馬鹿みたいじゃないか。俺は別に顔は悪くないはずだ。背もまあまあ高い。誰が見てるかわからないけど毎朝しっかりと髪をセットして、誰と話すわけでもないけど一〇分かけて歯みがきをしているんだぞ。


 これでなぜ俺はモテない。女子と会話したことがないんだ。

 なんで消しゴム拾ってあげたのに頭下げるだけなんだ。

 なんで学級委員の相方の女子は俺の分まで仕事をする? もっと連携するべきじゃないのか。


 意味がわからなかった。


 ついに中学生活を終わりを迎えることになった時、俺は女子と話した回数を思い返してみた。

 指折り数えたところ、なんとか片手を使い切るところまでいき泣きそうになった。

 そして死にたくなった。


 卒業を迎えた日、俺は唯一の友人にあることを問いかけた。女の話題は暗黙の了解でタブーとしていたため、実はこういう質問をするのは初めてだったりする。


「な、なあ、俺たちって……なんでモテないんだろうな」


 するとあいつはこう答えた。


「デュぽ? ぼぼ僕、彼女い、いるし」


 そう言ってあいつは、スマホに写っている彼女とのツーショット写真を、暗く輝いた気持ち悪い笑顔で俺に向けてきやがった。その彼女とやらは残念ながら二次元ではなく、お世辞抜きに可愛い三次元だった。



 俺はこの時、本気で死ぬことを決意した。

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