テクステリア

柴田勝家&各務都心

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 紙が、舞っている――

 この世をいとうて書き殴られた、詩篇たちが舞い散っている。


 果たして紙の雨は止み、視界に再び現れる広大な向日葵畑。群生する日輪草は、どれも東を向いて夕陽を浴びている。大人の背丈ほどもある彼女たちは、風に揺られて首をもたげる。


「ここは禁煙だ」


 男がたしなめる。顔を布で覆っており、表情まではわからない。対峙する痩せた男が、思い出したように煙草の火を消す。それを認めた男が、再度口を開く。


「どうして邪魔をする」

「そうだな、気に食わないからだ」痩せた男が即答した。


「お前にその義理はない。この國は仕合せだ」

「本当に? そういう夢を視ているだけじゃないのか」


「何が悪い、我々は完結している」

「勝手に完結しないで欲しいな。ウチのまちのなかで」


 ザァ、と花々が躍り、ふたりの身体を弱く殴り付ける。風が通り抜けた。


「崩壊を孕んだシステムだった。それには気付いてたはずだ。潮時だ、そうだろ?」


 痩せた男の言葉に、男が語気を荒げる。


「神託は強い、強いのだ」

「これでもか」


 痩せた男は紙片を拾い、冒涜的にライターで火を点ける。紙片は灰になり、空に吸い込まれていく。

 その態度に、男は拳を握り締める。


「痴れ者め……神託の尊さがわからぬか」

「便所の落書きのほうがまだ面白い」



 男の怒号を掻き消すように、空が割れた。夜が這入ってくる。


 遅効性のウィルスが効き始め、幻が剥がされていった。男の絶叫が向日葵畑に木霊する。終わらない夏が、暮れない夕焼けが、これから正しく死を迎える。

 痩せた男が、足許の紙を拾う。無感動に読み飛ばすと、片手でくしゃりと潰した。


 音もなく、太陽の花が枯れていく。



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