第219話 世界暫定研究機関員による報告書
――――世界暫定研究機関による、現在の世界環境、及び創世樹についての報告書――――
◇人類の始祖民族が存在していた幻霧大陸において発生した旧要塞都市・アストラガーロその他、反ガラテアのクーデター集団、通称『革命師団・震える星』、全世界指名手配犯・ローズ=エヴェル率いる犯罪者集団クリムゾンローズ盗賊団、そしてガラテア帝国軍(現在、急速に国の解体が進んでいる為、以下旧ガラテア帝国軍と記す)との『創世樹』を巡る乱戦にも似た戦闘において、創世樹に到達した『養分の男』グロウ=アナジストンと『種子の女』アルスリア=ヴァン=ゴエティアが融合を果たしたことにより、全世界に多大な影響を及ぼす物理現象が発生した。
◇本報告書は、のちのち観測された可能な限りの
◇なお、創世樹による生命の
◇現象その1。創世樹内で発動した生命の刷新進化による長大な時間経過について。
・確認されたあらゆる測定機器などを参照すると、間違いなくこの星に約50億年という長大な時間の経過を確認。それに伴うあらゆる生命体や有機物を除く無機物の類いの物質が、多少の程度の差はあれど経年劣化、侵食風化も確認。今も調査の余地は充分にあるが、間違いなく約50億年という時間を我々が越えたことは純然たる事実と言わざるを得ない。また、アルスリア=ヴァン=ゴエティアの意志により一度生命体が一切存在しない死の星へと変わっていた痕跡も、少なくとも数千年間はあったことが世界各地で確認されている。
・また、本来ならば宇宙空間において我らが星も含め、全ての天体は遠くの宇宙目掛け常に動き続けている為、本来ならば約50億年という年月が経つと天体の位置や、それに伴う自然環境も大幅に変化してしまうはずなのだが、自然環境自体には目立った異常は観測されていない。これに関しては検証が極めて困難な為、のちのちの人類の天文学、物理学などの進歩によって解き明かされるのを待つしかないのだが、学会による仮説の中には『物理学的に説明が出来ないが、創世樹が発動した瞬間から星を中心に周辺宇宙一帯(恒星を含む程度~銀河全体?)の範囲までが外宇宙の物理的な影響を受けない閉鎖空間となり、今日まで再生するまで約50億年間宇宙の中で閉じた領域内に隔絶されていた』とする説が比較的に有力視されている。
・何故、約50億年という年月が経過しているにもかかわらず、我々の認識的には肉体は勿論、精神的にも異状は無く、記憶なども保持したまま再生が為されたのかも原理は不明だが、これは恐らく生命を尊び、人類を肯定する精神性を持っていたグロウ=アナジストンの意志が働き、猛烈な勢いで我々人類だけでなく、全ての生命や自然の50億年の営みを進めたものとする仮説が有力視されている。こちらも先述の仮説と同じで検証することが非常に困難であることが現状である。
・ちなみに、この星が宇宙に生まれ、幻霧大陸での戦闘直前までの星の年齢も約50億年である。誤差はあれどもその生まれ直してから『約50億年』という共通した符号が、仮説を有力化させる論拠の1つにもなっている。
◇現象その2。軍事力、戦力の抑止効果現象について。
・生命の刷新進化が起き、我々人類が再生した後は、旧ガラテア帝国軍は解体された。しかし、軍権や星の占領などを巡って世界中のあらゆる勢力が群雄割拠化、ガラテアという悪の一軍無くしても我々人類が利益を巡って闘争を続けることは明白であった。しかし、摩訶不思議なことに、戦力を一定まで高めてしまうと、逆に闘争心を失ったり、不自然に兵器が故障するなどの超常現象が世界中に発生。これについても検証が続いている段階だが、先の仮説に倣い、グロウ=アナジストンか、アルスリア=ヴァン=ゴエティアか、或いは両方の意志が働いてこの星に存在する生命体が度を過ぎた戦いを始めることを強制的に抑えて止めている、という仮説がやはり有力視されている。前述の仮説2つも含めて、検証が急がれる現象である。
・ただし、この超常現象によって人類は完全に戦争や犯罪を起こそうとする意志や力を根絶されたわけではない。現に、被害の程度は戦争などに比較すれば少ないが、今なお小競り合いや殺人、強盗や詐欺などの犯罪行為は刷新進化前の世界とそう変わらず世界中で頻発している。
・もしもこの超常現象が創世樹であるグロウ=アナジストンとアルスリア=ヴァン=ゴエティアの残留意志に依るものであれば、創世樹を詳しく調査すれば或いは人類の希望である恒久和平を実現する鍵となるかもしれない。そういった希望を追求することも含めて、現在の創世樹の状況を次項にて報告する。
◇創世樹の現在
・世界の経済活動や生産活動などが再開されると同時に、調査団は幻霧大陸を調べた。しかし既に創世樹らしき巨大な存在は影も形も無かった。その後の天文学者による調査で、創世樹は我らが星を離れ、遙か遠くの宇宙を浮遊していることが判明した。
・何故、創世樹は我らが星から離れていったのか。離れたまま創世樹は何を行ない、どのような意志のもと動いているのか。現在は全くの謎のままである。これも調査、研究が望まれる。
・敢えて述べるなら、創世樹が存在しない我らが星は、それまで長きに渡って創世樹から受け続けて来た『生命体を刷新進化し、星の生態系を守る』という恩恵をもう二度と受けられない可能性が大であるということである。神の存在や意志を科学的側面で報告書に記すことは極めてナンセンスではあるが、人類が、そして人類ののちにこの星の支配者となるであろうアフターヒューマン含め子々孫々に至るまで、この星の生命は我々の父母である創世樹に『正しく生命を守り、統率していけるのか』を試されている可能性も僅かに感じることが出来ると言えよう。
――――以上。暫定的な報告の上、文書を作成した機関の主観も交えたものなので、公的な報告書としては不適切な憶測や乱文が目立ってしまっているものの、今後の調査、研究、検証への一助となることを願うばかりである。
★新世紀歴元年 4月20日 文書作成者:トニー=マッケンロー(世界暫定研究機関所属学士)
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