第216話 再世の星

「――――はっ…………あ……? あ…………?」





 ――ガイが意識を取り戻した。そこは、創世樹の前でエリーと共に消え去る覚悟を決め、蹲った平野。辺りには草花や羽虫がゆらゆらと動いている。





 空は青空が広がっている。朝のようだ。






 ガイはしばらくぼーっとした気分だったが、傍らには――――






「――エリー!! エリー、見てみろ!! 俺たち…………生きてるみてえだぞ!!」






「――う…………ううん…………?」






 エリーもおぼろげな意識だったが、目を醒ます。






 そして、すぐに、『鬼』として進化した上に瀕死のはずだった自分の身体が、傷ひとつ無く……元の人間の姿で痛みひとつ感じていない。服が所々破けている程度だ。







 その様子に驚き、飛び起きる。






「――ホントだ!! あたし、生きてる!? ガイも…………みんなは!?」






 エリーが周囲を見渡すと……すぐ近くにテイテツもイロハも…………そして半身を機械化して失ったはずのセリーナが、元の肉体を取り戻した状態で倒れていた。






「――――テイテツ!! セリーナ、イロハ!! みんな起きて!! あたしたち……生きてるのよ!?」






 エリーに呼び掛けられ、3人はそれぞれ目を醒ます。






「――むう……こ、れは…………? 一体……何が起こった――――!?」





「――ふあ~あ……よく寝た――――って!! ここ戦場のド真ん中のはずっスよね!? 戦いはどうなったんスか!?」






「――む……私……の、身体――――元に戻っているのか!?」






 ――それぞれが目を醒まし、半ば混乱する。






 エリーたちは遠目に周囲を見渡してみた。






 ――――戦いの最中だったガラテア軍、冒険者たち、『震える星』構成員、クリムゾンローズ盗賊団――――人の数が激減しているが、全員も何が何やら要領を得ずに放念してる者ばかりだ。







「――――どうやら……人の数が多く減ったようだが……それはこの戦いで戦死した者たちのようだ…………だが、死体が影も形も無く消えるなんて…………?」






 テイテツが端末を起動し、辺りを調べる。






「……? この端末…………随分……動きが鈍いぞ――――よく見ると、ボディもあちこち錆びている……それに周辺にやたら繁茂している草花――――まさか。」






 ――テイテツは足りない情報ながら、恐るべき仮説を思い浮かべていた――――






 ――一方。ガラテア軍の名も無き戦艦の艦長は、エリーたちと同様、深い眠りの中から目を醒ましたような、摩訶不思議な気分を味わっていた。





「――む、う……これは一体――――オペレーター! 健在か!?」






「――――か、艦長…………とんでもないことが!!」






「……どうした。落ち着け。冷静に状況を報告せよ。」






 ――落ち着け、と言われながらも、オペレーターは震えが止まらず、半ば恐慌状態である。それほどまでにただならぬことが起きたのだ。






「――わ、我がガラテアの戦闘記録……この空域での戦闘開始時間から計測を始めておりましたが――――現在、計測時間は+50億20万8324年と1ヶ月と7日が経過ッ!!」





「――――は?」






「――――お、恐らく創世樹が何らかの挙動を行なったと思われますが――――これは計器類の故障ではありません!! 我々は戦闘開始から50億年以上もの時間が経過している模様…………ッ!!」






「――――な、な何だとォ!? 貴様、気は確かか!? い、一体…………何がどうなったのだ――――!?」







 ――すぐには理解不能な現象に、皆戦闘を忘れ、混乱の極みであった――――






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「――――テイテツ!! 一体どういうことなの!?」






 訳のわからない状況なのはもちろんエリーたちも同じ。テイテツは『経年劣化』で激しく傷んだ端末を何とか修繕しつつ、状況を確認しようとする。





「――詳しい現象を特定するには圧倒的にデータ不足だ。だが…………間違いなく、あの創世樹が光の巨人となり、光を放ってから、この星は約50億年が経過している。これ以降は俺の仮説だが…………」






「――今は仮説でも何でもいい。何とかこの状況を説明出来そうな論拠を引っ張ってきて、説明してみてくれ、テイテツ。」






 ガイ自身も不安ながらも、少しでも指針を定める為、テイテツに苦しいながらも解析を求める。






「――わかった。目の前に聳えていた創世樹は……今は影も形も無い。となると、生命の刷新進化アップデートはもう行なわれてしまったのだろう。だが、我々は戦死者を除いて1人も人間が消え去らず、姿かたちも変えずにここにいるとなると……一度刷新進化が起きつつも、我々の生命体としての情報を一切書き換えずに済んだようだ。」





「――それって……グロウくんがアルスリアに意志力で打ち克って、人間を滅ぼさずに残しといてくれたってことスか!?」





「わからん。だが……主導権イニシアチブは終始アルスリアの手にあった。それに、星に残された僅かな痕跡、これが意味するものは――――」






「――意味するものは…………!?」





 エリーがオウム返しに訊いた。






「――――あの創世樹からの光でこの星は一度数千年間は生命体の無い、滅んでしまったといい状態になり、そこから丸々50億年かけて――――刷新進化直前の状態まで星全体の生命体を含めて我々を原初生命体から『記憶も形質も再現しながら進化し直した』可能性が高い、ということぐらいだ。少なくとも、それに匹敵するほどの激変がこの星に起きたことは間違いなさそうだ――――」






 ――――一度滅んでから、再び現在まで約50億年間を、生命が進化し直した。そんな途方もない解析が、今現在最も信憑性が高かった――――

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