第195話 凶弾と楯
「――――ッ!! ガイたちが……!! くっそぉ、すぐにグロウを助けなきゃいけないってのに!! ――お願い、セリーナ!! 止まって!! 目を醒ましてよッ!!」
「…………」
――戦場の火中では未だにエリーが洗脳されたセリーナを振り切ろうと必死に身体を振るう。
瞬間的に
――混迷を深める幻霧大陸の、冒険者たちとガラテア軍との戦場。
一方で、またもや同士討ちの様相をを呈しているのは――――
「――くっ…………! 隊長、改子まで何しやがるッ!?」
「――2人とも……まさかそこのルハイグ博士にぃ――――!?」
「…………」
「…………」
――ルハイグが念じると、改造兵である隊長と改子は、セリーナ同様己の意志を失い、本当にただ目の前の標的を殺す殺戮マシーンと化してしまった。4人で乱戦となっている。
しかし、どうやらグロウの力を受けた影響か、ライネスとメランは意志を失った凶暴化状態に陥っていない。そこはルハイグの狙いの外だったらしい。
「――ちっ……2人は自我を失わんか……まあいい。殺し合った末、自我を失った方が生き残ったならそのままよし。違うなら手間だが俺が再改造だな――――」
「――――てめえッ……散々他人の意志と生命を弄びやがって…………いい加減にしやがれッ!!」
「――ガイ。もはやルハイグをこのまま生かしておくとますます熾烈な戦いとなりそうです。一刻も早く……彼を打ち倒しましょう。グロウを救うのはその後です。」
「わかってる!! ――ルハイグ。てめえにはもう慈悲なんてモンは生温いぜ。どのみち自在活殺剣が効かないなら同じことだ――――二度と復活しねえように叩き斬ってやるぜ…………!!」
「――どうやら、この科学者さんはもう人間の者と思わない方がいいっスね…………『元』人間相手とはいえ心が痛むッスけど……この状況なら腹を決めたっスよ!!」
――イロハは切れかかった練気発動サプリを服用し直し、自らの電磁圧を伴った練気を高める。
「――ほほう。そこの小娘……この俺のアイセンサーで見たところ……練気を本来会得していない人間ながらその薬剤で使えるようにしているようだな。ヒッズ。お前の差し金か?」
「――違う。彼女自身の研究と発明によるものだ。」
「……だろうなァ!! ガラテア
――そう叫び、ルハイグは鉄骨の身体を跳ね、イロハに襲い掛かった!!
「――げっ……そ~んな扱い……冗談じゃあないっス、よっ!!」
――イロハは一瞬、洗脳された自分を想像して空恐ろしくなったが、怯まず練気を集中し……神経伝達の高速化で身体を素早く動かして攻撃を躱し、ルハイグの背後を取った――――
「――いくぜ!! 3人同時に攻撃を合わせるんだッ!!」
「了解。」
「合点承知の助~!!」
――既に駆け出していたガイとテイテツ。ガイの号令により素早くルハイグのそれぞれ斜め前2点に位置取り、同時に攻撃を加えた。
ガイが何重にも重い斬撃を加え、イロハは脳天に電磁圧ハンマーをぶち当て、テイテツは
「――ぐぐうッ……!!」
――完全に反応が遅れた上に、3人連携の、性質も異なる攻撃を受け、全身から電磁圧をスパークさせ呻き声を上げるルハイグ。
「――くくくっ……こ、この程度、我が超化学の前では――」
「――怯むな!! 倒し切るまで何度でも喰らわせろッ!!」
――目の前の妄執に燃える化け物を殺し切る。そう不退転の決意にも似た想いでガイたちは、何度もルハイグに攻撃を浴びせ続けた。
ガイの斬撃。イロハの電磁圧ハンマー。テイテツの光線銃改。
特に機械の身体となったルハイグにはイロハの電磁圧ハンマーが電気系統の乱れを誘い、特効のようだった。
――だが、常人ならばとうに死んでいる攻撃を何度も喰らっているはずのルハイグ。ダメージは通っているが倒れない。
「――猪口才な蠅どもめ、これでどうだ――――!!」
――一瞬、ルハイグが身を屈ませて練気を集中すると、黄色い電圧のような光が走り、3人を捕まえてしまった――――アルスリアの捕縛するプレッシャーにも似ているが、こちらは人工的なもののようだ――
「――ぐあっ……う、動け、ね――――」
「――フハハハッ!! 待っていろ! 今殺して――――ぐあああッ!?」
万事休すかと思われた刹那。度重なるダメージで急所である
「――――お、の……れ…………人形ども、め…………失敗作など、こうしてやる――――!!」
急所を突かれたルハイグ。苦し紛れに、自らの身体から練り出したエネルギー弾を、ライネスに向け撃った!!
「――はや……避け切れ――――!!」
――自らの死を悟ったライネスは沈黙したが…………当たったのは彼ではなく、メランだった――――再び仲間の楯となったのだ。
「――――メ……ラ、ン――――!!」
――メランはエネルギー弾をまともに受け、左腕と脇腹、左脚とほぼ半身を失った――――取り返しのつかぬ致命傷だった――――
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